深まる秋の少女たちの心の揺れを描く 『たまゆら~卒業写真~第3部 憧―あこがれ―』

■「キネマニア共和国」

佐藤順一監督による珠玉のアニメーション・シリーズ『たまゆら』、その最終章となる4部作の第3弾が公開となりました。

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~vol.73》

『たまゆら~卒業写真~第3部 憧―あこがれ―』です。

たまゆら
©2015佐藤順一・TYA / たまゆら~卒業写真~製作委員会

4人の高校3年生少女の進む路を
それぞれ春夏秋冬の章に分けて描出

瀬戸内海の小さな町・竹原を舞台にした『たまゆら』は亡き父の形見でもあるカメラ“ローライ35S”で写真を撮ることが好きな高校生・楓とその仲間たちの高校生活をつづったもので、これまでOVA(10)、テレビ・シリーズ第1期『たまゆら~hitotose~』(11)&第2期『たまゆら~もあぐれっしぶ~』(13)と作られ、そして現在、高校3年生となった彼女たちの青春群像を春夏秋冬の四季おりおりに描いていく『卒業写真』4部作がお披露目されているところです。

この4部作、それぞれ前半と後半の2部構成になっており、前半では各キャラクターの進路についてのエピソードが、後半は4人を取り巻く日常のエピソードが描かれていて、これまで春の第1部『芽―きざし―』では主人公の楓が写真家を、夏の第2部『響―ひびき―』ではのりえがパティシエをめざすに至るエピソードが、前半でそれぞれ描かれていました。

そして今回の前半で描かれるのは、口下手なために口笛で感情表現しがちな黒髪ストレート少女の桜田麻音で、いろんな夢を抱く彼女ではありますが、最終的には実家の旅館の跡を継ぎたいと願っていたところ、なぜか父親に猛反対されてしまいます。

まあ、オチも含めてその後の展開は予想のつくところではありますが、そのぎこちなくも微笑ましい人間関係のやりとりは『たまゆら』シリーズの醍醐味でもあり、見る者をいつもほっこりさせてくれるものがあります。

一度決意したはずの希望の道
それゆえに心迷わされていく思春期

今回、素晴らしいのは後半で、ここではローライ35Sが故障して修理に出したばかりの楓が、ふと仲間たちとの距離が遠ざかっていく感触を受けるようになり、思い悩むといったストーリーで、春の第1部で写真家を目指す決意をした彼女だからこその、その後の心の迷いが繊細に描かれていきます。

こういった少女たちの心理描写において、佐藤順一監督の右に並ぶ者はいないといっても過言ではないほどで、『きんぎょ注意報!』『美少女戦士セーラームーン』『夢のクレヨン王国』『ケロロ軍曹』『ARIA』などなど、一貫して少年少女のために作品を作り続けてきた名匠ならではの秀逸なエピソードとなりました。

クライマックスとなる竹灯りの幻想的な色合いの中で始まる楓の独白を前に、感涙は必定。つづく冬の第4部完結編『朝―あした―』(2016年2月20日より2週間イベント上映)への期待をいやがおうにも高まらせてくれる章となりました。

本作も2週間限定のイベント上映作品ではありますが、その人気ゆえに、たとえば東京だと現在は新宿ピカデリーで11日まで公開ですが、12日からは角川シネマ新宿に劇場を移して上映されるなど、まだまだ見るチャンスはありますので、ぜひご鑑賞をお勧めします(できれば、どこかで前2作もやってくれているとありがたいのですけどね)。

なお、このシリーズにおける“たまゆら”とは、小さな水滴のような光球が写真に写りこむ現象を指しており、楓が小さい頃に父の写真を撮ったとき、このたまゆらが美しくも幻惑的に映り込み、それが作品のひとつの大きな象徴となっています。

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(文:増當竜也)

■作品情報
タイトル:「たまゆら~卒業写真~」第3部 憧-あこがれ-
上映情報:11月28日(土)より全国映画館にて2週間限定上映中

第4部 2016年2月20日(土)上映予定

■公式HP・公式Twitter
・公式HP:http://tamayura.info
・公式Twitterアカウント:https://twitter.com/tamayura_tweet

■スタッフ
原案・監督・シリーズ構成:佐藤順一
脚本:ハラダサヤカ、山田由香
キャラクターデザイン・総作画監督:飯塚晴子
作画監督:丸山修二、野田智弘
美術監督:田尻健一
色彩設計:川上善美
撮影監督:和田尚之
音楽:中島ノブユキ
主題歌:「これから」作詞・作曲・コーラス編曲:坂本真綾
編曲:河野 伸
歌:坂本真綾(フライングドッグ)
音楽制作:フライングドッグ
制作:TYOアニメーションズ
配給;松竹メディア事業部
製作:たまゆら~卒業写真~製作委員会

■キャスト
沢渡楓:竹達彩奈
塙かおる:阿澄佳奈
岡崎のりえ:井口裕香
桜田麻音:儀武ゆう子
三谷かなえ:茅野愛衣
三次ちひろ:寿美菜子
ともちゃん:東山奈央
進藤巧美:内田彩
前川すずね:飯塚麻結
志保美りほ:葉月絵理乃
塙さよみ:大原さやか
ももねこ:福井裕佳梨
沢渡香:宮本佳那子
篠田こまち:広橋涼
堂郷和太郎:間島淳司
麻音の父:古川登志夫
麻音の母:平野文
夏目望:緑川光
マエストロ:中田譲治

©2015佐藤順一・TYA / たまゆら~卒業写真~製作委員会


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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