語り継がれる幻の女優トレイシー・ハイド

<〜映画は女優で作られる〜vol.4:語り継がれる幻の女優トレイシー・ハイド>

もう45年以上前の映画なので、当然筆者が生まれるよりも前の時代の女優だ。しかし、映画という記録メディアの魔力によって、彼女の存在は語り継がれている。今までも、これから先もおそらく、世代を超えて世界中の映画少年たちの初恋の相手になるのは彼女しかいない。

トレイシー・ハイド。最近の映画ファンからしたら、馴染みの薄い名前だろうか。それでも彼女のたった一本の出演作(厳密に言えば違うのだけれど、日本に輸入されているのはこの一本しか存在しない)、『小さな恋のメロディ』は、名前ぐらい聞いたことがあるのではないだろうか。

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キャロル・リードが1968年に監督し、アカデミー作品賞を受賞した名作ミュージカル『オリバー!』の少年コンビ、マーク・レスターとジャック・ワイルドの二人が共演し、のちに数多の名作を生み出したアラン・パーカーが原案と脚本を務めて映画界デビューを果たした本作。それだけでも映画史における重要な作品の一本ではあるのだが、本作に登場する〝メロディ〟という名のヒロインを演じた、当時たった11歳の少女の姿によって、今では伝説の映画に昇華している。

物語はロンドンの中流家庭の子供達が多く通う、厳格な公立学校が舞台。おとなしい少年ダニエルは、ある時バレエの授業中の少女メロディと出会い、たちまち恋に落ちる。友人たちに冷やかされながら、また大人たちには反対されながら、デートを重ねていく二人は、結婚を夢見るようになるのだ。

ダニエルとメロディの恋模様が軸になった映画ではあるが、二人が出会うのは映画が3分の1ほど過ぎたあたり。それまではダニエルと悪友トムの学校生活が中心に描かれるのだ。それがあるからこそ、子供たちの青春映画としての形が出来上がり、ラストシーンの感動は高まる。

授業をボイコットして二人の結婚式を挙げるために町外れの廃墟に集まった子供達と、教師たちのコミカルな追いかけっこ。まるでジャン・ヴィゴの『新学期・操行ゼロ』に並ぶ、小さな革命の映画であることを思い出させてくれる。二人を守るために校長に立ち向かっていくトムを演じたジャック・ワイルドが本当に粋で良い奴なのだ。

何と言っても、メロディの可愛らしさがこの映画の最大の魅力である。それを彩るのは、劇中に流れるビー・ジーズの名曲の数々。メロディがスクリーンに初登場を果たすシーンで、窓越しに彼女が姿を現すと音楽が流れ始め、そのあと彼女が街に出ると、今度は名曲「メロディ・フェア」が流れ始める。どの曲も、メロディという存在をより輝かせるための最高のBGMとしての役割を果たしているのだ。

初めて二人が出会うバレエの授業の場面では、代表曲でもある「若葉のころ」のインストルメンタルがかすかに流れ始める。そのあと、二人が学校裏の墓地を歩く場面で、再びフルコーラスで流れるのだけれど、今でもこの曲を聴くたびに、本作のシーンを思い出してしまうものだ。

本国イギリスでもアメリカでも、すでに印象の薄い映画になっているようだが、対照的に日本では公開時から大ヒットを記録し、現在でも「午前十時の映画祭」の目玉作品のひとつとして高い人気を集めている。それはまぎれもなく、トレイシー・ハイドという女優の存在が大きいだろう。

彼女は本作の直後に女優活動を休業。80年代に女優業を再開し、2本の映画と数本のテレビドラマに出演したが、ほどなくして引退。完全に映画界から離れてしまった彼女は、先日5月16日に57歳を迎えた。

今ではのんびりと暮らしている彼女が、再び映画界に戻ってくることはないだろう。それでも、彼女が演じたメロディというヒロインの姿は、永遠に残り続ける。

(文:久保田和馬)


    ライタープロフィール

    久保田和馬

    久保田和馬

    久保田 和馬 1989年生まれ。映画評論家/映画ライター/映像作家。フランス映画とアジア圏の映画をこよなく愛する。大学時代からの自主制作の延長で映像制作を行い、2013年から文筆業を開始。「図書新聞」へ映画評の寄稿、「リアルサウンド映画部」への寄稿など。

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