『ステージ・マザー』レビュー:ドラァグクイーンの息子がいた世界を理解していく物語
2月26日公開の映画『ステージ・マザー』の魅力を簡潔に紹介します。
あらすじは、「ドラァグクイーンの息子が急死してしまったため、ゲイバーを相続した主婦がその再建を図る」というもの。主人公は教会の聖歌隊の経験を生かしつつも、破綻寸前の経営に着手しようとしますが、「生前の息子のことを全く理解していなかった」という後悔を簡単には拭い去ることができないでいます。
そんな彼女が、息子のパートナーでバーの共同経営者である青年や、息子の親友のシングルマザー(演じているのは『キル・ビル Vol.1』でお馴染みのルーシー・リュー)などと出会い、なんとか前に進んでいきます。これまでは保守的であった初老の女性が、今まで知らなかった息子がいた世界、もしかすると偏見を持っているかもしれない分野に手を伸ばし、そして理解をしようとする過程が、とてもドラマティックに描かれているのです。
その「知らなかった息子がいた世界」「偏見を持っているかもしれない分野」の象徴のように描かれているのが、息子の葬式での出来事です。厳かに行われるかと思いきや、故人に対してフランクすぎる物言いがされるばかりか、ドラァグクイーンによる歌唱までもが披露されます。敬虔なクリスチャンでもあった主人公にとっては、その「葬式ではなくもはやミュージカル」は耐えられないものだったのです。
その後も主人公は「息子のことを知らないでいた」ことを思い知らされ、思いもしなかった事態に翻弄されることもありますが、それでも息子が愛していた人、愛されていたことを少しずつ知っていき、同時に彼の財産だったゲイバー、その場所での価値観を大切に思うようになります。生前の息子とは分かり合えなかった母親の心情を通じて、「偏見を乗り越えてチャレンジする」ことの素晴らしさをストレートに説いた物語とも言えるでしょう。キャラクターみんなが魅力的で、LGBTQ+の人たちのリアルな悩みも胸に迫る形で描かれています。
さらなる本作の大きな魅力は歌と踊り。メロディは耳に残り、その歌詞は物語と絶妙にシンクロし、何より見事な歌唱とビジュアルの華やかさで多幸感でいっぱいになれます。他にも、ただの良い話だけで終わらせない意外な「毒っ気」もあり、「女を殴る男を殺すのが私の夢の1つよ」「指輪だけじゃ家族は成り立たない。度胸が必要なの」などの名言も飛び出したりしますよ。
なお、物語の舞台であるサンフランシスコのカストロ・ストリートは、実際にLGBTQ+コミュニティのシンボル的存在であり、様々なゲイバーやLGBTQ+の権利団体施設がある他、政治運動やイベントなども行われています。ほとんどの日本人にとって馴染みのないその場所を体感できるということにおいても、本作は意義のある作品です。
(文:ヒナタカ)
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