『よだかの片想い』原作愛が強い松井玲奈も太鼓判!「映画として本当に美しい終わり方になっている」
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恋愛小説の名手・島本理生が紡いだ珠玉の一篇「よだかの片想い」。顔にあざのある大学院生の前田アイコと、彼女の半生を記したルポルタージュを元に映画を撮る監督・飛坂逢太の恋愛模様を、群像とともに描き、多くの読み手から共感を得た。松井玲奈も、その1人。かねてから映画化を切望してきたが、「(not)HEROINE movies」シリーズの一作として、9月16日(金)より全国公開の運びに。cinemas PLUSでは松井にインタビューを行い、作品への“想い”のほどをぞんぶんに語ってもらった。
公開を目前に控えた願い
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──『よだかの片想い』という作品に対する松井さんの思い入れは、原作の小説を読んだ時点からとても深かったとうかがっています。
松井玲奈(以下、松井):はい。ですので、こうして映画が完成して公開を間近に控えた今、あらためてプレッシャーを感じてもいて。映画化が決まったときから本当にすごく長い間、多くのスタッフの皆さんが作品に関わり、動いてくださっていたのを私も見てきたからこそ、自分たちがつくった映画『よだかの片想い』が、どういうふうにお客さんに届くのだろうか──という不安にも近いプレッシャーと言いますか……まっすぐ届いてほしい気持ちと楽しんでほしい気持ちがある、といった心境だったりします。「どうか、映画をご覧になった人にとって良い作品になってくれたら」と願わずにはいられません。
──ワクワクよりも不安の方が大きいと?
松井:今は不安の方が大きいですね。もちろん、すごく素敵な映画をつくったという自負みたいなものもあるんですけど、人によって感じ方や受け止め方はさまざまだったりするので、私のように原作がすごく好きだったり、島本(理生)さんの小説が好きな方が観たらどう感じるのかな、と考えてしまったりもするんです。その受け取られ方というのは公開してみないとわからないので、ソワソワしているというのが正直なところですね(笑)。
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──そもそもの話になりますが、松井さんは原作小説のどこに惹かれたのでしょう?
松井:いわゆるドラマチックな展開もありますが、恋愛に至るまでの過程として、すごく静かに恋が始まっていくと言いますか……灯がともってからちょっとずつ大きくなっていくさまがリアルだな、と私は思っていて。それまで触れてきた小説や映画で描かれていた恋愛は、わりとエンターテインメント性が強かったんですよね。そういった中で、すごく久しぶりに本を読もうと思って手にとった小説がこの『よだかの片想い』で、淡々と恋が進んでいきつつも、物語にはしっかりと波があって、(主人公の前田)アイコ自身の感情も大きく動いて選択や決断をしていく──その読書体験が初めてだったこともあって、強く印象に残ったのだろうと思います。あらためて掘り下げてみると、地に足が着きながらも恋のことになると浮き足立ってしまうアイコの人物像が、私には魅力的に映ったのかもしれないですね。
ものを書く人間として、俳優部として、学びになった一作
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──島本理生さんの原作を安川有果監督が映像化した本作ですが、脚本を(近作『女子高生に殺されたい』『ビリーバーズ』などの監督で知られる)城定秀夫さんが手がけられたことで、女性目線にとどまらない映画になったのではと受け止めていますが、いかがですか?
松井:実を言うと、当初は安川さんが脚本の大部分を担っていたと思っていたんです。加えて、私の原作への思いが強すぎて、脚本の初期段階で「原作では、このシーンがあるからここが生きてくると思うんです」だとか「なぜ、あのセリフをカットしちゃったんですか?」みたいな感じで、結構好き勝手なことをスタッフさんに言ってしまって──。その後、最終稿が仕上がった段階で城定さんがメインで脚本を書かれたと知って……いずれにしても、失礼なことをたくさん言ってしまったなと反省しました。と同時に、映画ならではの『よだかの片想い』をつくろうとしているスタッフの方々の思いを聞いて、「原作はこうなんです」とこだわることよりも、物語のラストに向けてアイコという人を演じる上で、矛盾が生じないように話し合っていくことのほうが大事なんだなって気づいたんです。そういう意味では、男女の目線といったことを意識することなくフラットな状態で、しっかりと脚本と向き合うことができたかなと思っています。
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──「幕が下りたら会いましょう」(21年)では、松井さんが解釈された主人公の心情などを投影して脚本づくりが進んだそうですが、今回はまた違う向き合い方だった、と……?
松井:オリジナルの作品ですと、監督ご自身が考えていることだったり、キャラクターの背景と言いますか……「このシーンとこのシーンの間に、実はこういうことがあって」という裏設定みたいなことを教えていただけるので、人物像がどんどん膨らんでいくんですね。早く演じたいなという気持ちも強まっていく、とても楽しくて豊かな時間なんです。一方、“よだか”のような作品は、まさしく原作にヒントや道しるべがあるわけですけど、私の思い入れが強すぎたがゆえに、そこばかりを重視すると逆に良さが損なわれてしまう恐れもあって。しかも、演じる側の一言って結構重たかったりもするので、良くも悪くも作品に大きく作用してしまうことへの怖さみたいなものを、あらためて実感したところがありました。ものを書く人間としては脚本ができあがっていく過程を知れたり、俳優部の1人としても撮影に到るまでのプロセスを垣間見られたことは、とてもいい勉強になりましたし、貴重な経験をさせていただいたなと思っています。ただ、脚本に対する自分の一言の重みを理解した今は、決定稿の直前ぐらいの段階で「この路線でいきます」と渡してもらうほうが、かえって気が楽かもしれないですね(笑)。
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──なるほど。では、映画ならではのアイコを、どのように具現していったのでしょう?
松井:撮影の序盤の方でも、まだ原作のアイコ像にとらわれていて、安川さんが提案してくださった演技プランを呑み込めなかった部分も実はあったんです。でも、わからないなりにお芝居をしていく中で、あるシーンで安川さんのおっしゃる“アイコの怒りの中にある、悲しさや悔しさ”がブワッとあふれてきて──。そのとき、お芝居って型にはまっているわけじゃなくて、いろいろな道筋やさまざまな感情が混ざり合って表に出てくるんだなって、あらためて気づくことができました。脚本では、そのシーンでアイコが怒るというふうには描かれていなかったんですけど、実際に演じてみると、(アイコの恋人である)飛坂さんが部屋から出て行ったときに自然とこみ上げるものがあって、ワーッと涙が止まらなくなって……。台本にはないことが急に起こったんですけど、その瞬間はそれがアイコの本当の感情だったんだなと私は解釈しているんですね。ある種、脚本って楽譜と同じで、演奏する人によって音の響きや表現の仕方が変わるんだなと強く感じたという意味でも、印象的なシーンの1つだと言えそうです。
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──そういった安川監督の映像感覚に対しては、どのような思いがありますか?
松井:撮っていたときは自分たちのお芝居に集中していたので、そこまで画角や映像を意識していなかったんですけど、ラストシーンはト書きだとどういう画になるのかが全然、想像できなかったんです。なので、撮影直前まで「どういうシーンになるんですか?」って監督にしつこく聞いたりして(笑)。で、映画として観たときに、本当に印象的で美しい終わり方になっていて──。原作は文章ならではの“小説的”な表現でしたけど、映画的な見せ方という視点からすると、あの映像感覚はまさしく安川さん特有のものであって、1人の原作ファンとしても“よだか”を撮ってもらって本当によかったなと思っています。
共演・中島歩について
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──また、中島歩さんが体現された飛坂逢太も素晴らしくて。共演されてみて、いかがでしたか?
松井:この映画にとって、飛坂さんはすごく大切な役どころで、私自身も思い入れが強いキャラクターだったんですけど、初めて中島さんとお会いして声を聞いた瞬間、「あぁ、飛坂さんがいる……!」と思えたんです。なので、中島さんに演じてもらえたことが、すごくうれしくて。ご本人はとてもニュートラルな方で、撮影しているときも何か予想がつかないと言いますか、どういうふうにセリフを投げてくるか、どう動いてくるかが読めないぶん、アイコとしてドキドキしながら向き合えたという点でも、中島さんが相手役でよかったなと感じています。
──では、最後に……作品名に掛けまして、松井さんが今“片想い”しているものとは?
松井:一方的に愛情を注いでいる、という意味では、家で飼っている2匹の猫ですね。もちろん懐いてくれているんですけど、私が結構うざい絡み方をするので、嫌がられていて。なので、そっと触りながら想いを寄せています(笑)。
(撮影=渡会春加/取材・文=平田真人)
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