「最高の教師」9話:加害者は謝るときでさえ「償う方法がわからない」と言いながら泣く
松岡茉優主演の“土10”ドラマ「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」が2023年7月15日放送スタート。松岡茉優演じる高校教師・九条里奈が、卒業式の日に教え子から突き落とされ、殺されてしまった。次の瞬間、彼女は1年前の始業式に戻る。自分を殺したのは誰なのか、30名の生徒=容疑者を前に、犯人探しと“最高の教育”を目指す1年が始まる。
本記事では、第9話をCINEMAS+のドラマライターが紐解いていく。
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「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」9話レビュー
鵜久森(芦田愛菜)の死に直接関わっていたのは、西野美月(茅島みずき)だった。鵜久森が強い意志を持ち、「なりたい自分になるために」生きることを決めた瞬間から、クラスの空気が変わるのを肌で感じ取った美月。自分の立場が危うくなることを動物的本能で感じ取った彼女は、浜岡(青木柚)から声をかけられたことを機に、金を渡して“依頼”をしてしまう。
浜岡は、いつも九条(松岡茉優)がいる化学準備室にカメラを仕掛けることを提案。偶然、鵜久森と東風谷(當真あみ)が、ある秘密について話をしている場面が撮れてしまった。これまで、なぜ東風谷が鵜久森に思いを寄せている、個人のセクシュアリティに関わる描写を入れたのか掴みきれていなかったのだが、この核となる展開に繋げるためだったのだとわかる。
美月は、その映像データを使って、鵜久森を脅した。すべては、教室の空気が変わって形成が逆転すること……言ってしまえば、自分の思い通りにことが進まなくなる現実を、退けたかったがために。
鵜久森は最後の瞬間まで、美月を“変えよう”としていた。
「ちゃんと言うけど、西野さん、おかしいよ。誰かを傷つけて笑ってることの、何が楽しいの?」
「標的を作って笑ってる時間なんて、大切な人生の無駄な時間でしかない」
以前、工学研究会の眉村(福崎那由他)と日暮(萩原護)が、相楽(加藤清史郎)に言っていたことを思い出す。「お願いだから自分たちをちゃんとハブってくれ」と彼らは土下座までして懇願した。それほどまでに、彼らは相楽を“ちゃんと”嫌っていたのだ。
鵜久森から美月に向けられた感情も、おおよそ似たようなものだったかもしれない。それでも鵜久森は、なりたい自分になるため、東風谷を尊重するため、そして、自分を攻撃してくる美月にさえも向き合うため……たった一人であの日、立ち入り禁止の場所へ向かったのだ。
そんな鵜久森の姿勢とは裏腹に、美月、そして優芽(田鍋梨々花)や桐子(田牧そら)は実に甘すぎる。
まず美月は、鵜久森に対して自分が何をしたか、そして、それに対する謝罪の言葉よりも先に、「この二人は関係ない」と優芽、桐子を擁護。そして、あたかも浜岡がけしかけたのがすべての要因だとでも言うような話し方をした。
「そんなつもりじゃなかった」と涙ながらに話す美月の様子は、見方によっては反省している風にもとれるが、九条は逃がさない。
「あなたたちが、たやすく人を区別し、見下し、傷つけてきた。その日々のおこないが繋がって、こんなことが起きたんです」
「そんなつもりじゃないその言葉が、その行動が、どれだけ相手の心に積もっていくのか。それを想像しないから、こんなことが起きたんです」
「自分を守るために、人を傷つけることが癖になっている。無自覚な動物そのものです」
人によっては、九条の言葉は強すぎる、と思うかもしれない。美月たちが加害者であることに変わりはないが、いつだって、加害者の権利を主張する声は挙がるものだ。公平で公正で平等な視点を持つ人なら、なおさら、美月たちの事情や心理を慮ろうとするだろう。
しかし彼女たちは、償おうと思っても相手がいないと言い、償う方法がわからない、どう生きていったらいいのかわからない、と言って泣くのだ。加害者は謝るときでさえ、わからない、わからないとばかり繰り返す。
考えることを放棄し、自分の正当性ばかりを主張し、償う方法さえ他人から教えてもらおうとする。その態度こそ、九条が言った「無自覚な動物」に値する。
彼女たちができることといえば、鵜久森のことを忘れないこと、そして、“許されないまま”生きていくことだけなのかもしれない。
美月たちが罪を告白したことで、鵜久森の件は収束しかけている。最終回が近くなってきたこのタイミングで、視聴者の脳裏にはあらためて、あの疑問が舞い戻ってくるだろう。
卒業式の日、九条を突き落としたのは誰なのか?
相楽が浜岡に言っていたことから、「美月たちの教室での現状を浜岡に伝えた人物」がいると推測できる。そうなると、メタ的な見方をしてしまえば、これまであまり物語に関与してこなかった(=出番が極端に少なかった)生徒がいきなり浮上してくるとは考えにくい。
そうすると、やはり……少々愉快犯のようなポジションで回遊していた星崎(奥平大兼)の真犯人説が、再び浮上してくるのではないだろうか?
(文:北村有)
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