映画コラム

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2016年03月18日

ソード・オブ・デスティニーとネット配信の確立

ソード・オブ・デスティニーとネット配信の確立

武侠映画の新たな扉を開いた「グリーン・デスティニー」
待望の続編「ソード・オブ・デスティニー」がNetflixオリジナル作品として全世界同時公開中


武侠モノ。それは中国の娯楽小説の代表的なジャンルの一つ。日本でいえばチャンバラ・義賊モノ、ヨーロッパではロビン・フッドなどの中世の伝説、アメリカでいえば古典的な西部劇がこれにあたる。ということで、登場人物がそういう特性をもっていれば良いので、別にワイヤーアクションを使って剣劇とカンフーで魅せるものでなくても良い。(あの「燃えよドラゴン」(73年、ロバート・クローズ監督)だって十分武侠映画である)

それが武侠映画といえば “剣劇とカンフーと流麗なワイヤーアクションで語る中国の時代劇”というイメージを全世界的に定着させたのが、2000年に公開されアン・リー監督作品「グリーン・デスティニー」だ。

美しい自然を舞台に描かれるアクションとラブストーリーは非英語作品であるにもかかわらず、第73回アカデミー賞では同年公開の「グラディエーター」(リドリー・スコット監督)「トラフィック」(スティーヴン・ソダーバーグ監督)とともに三つ巴の賞レースを演じ展開し、10部門のノミネートを受け監督賞を含む4部門を獲得するなど旋風を巻き起こした。全米興行収入も1億ドル突破という異例尽くしの作品となった。

本作ではハリウッド進出済みのチョウ・ユンファだけでなく、この後ボンドガールにまでになるミッシェル・ヨー、映画二作目のチャン・ツーイー、台湾出身のチャン・チェンとそのあと中華圏だけでなく国際的に活躍する俳優陣がそろっていた。また、これと前後してアクション監督ユエン・ウーピンの技術が注目を浴びた。

ウーピンのハリウッド進出作品はあの「マトリックス」(99年、ウオシャウスキー姉弟監督)で、それまでのワイヤーアクションにはなかった撮影後にCGでワイヤーを消すという技術を披露して、その後ハリウッドを中心にワイヤーアクションブームを巻き起こした。

本作の成功受けて中華圏で文芸作品を撮りつづけてきた巨匠が一気に武侠映画に手を出してきた。チャン・イーモウ監督は「HERO」(03年)「LOVERS」(04年)を連発。その後も、ピーター・チャン監督の「ウォーロ―ド」(07年)「捜査官X」(11年)、昨年のカンヌ映画祭監督賞受賞作品で日本から妻夫木聡も出演していた「黒衣の刺客」(ホウ・シャオシェン監督)などが続いている。

「グリーン・デスティニー」の続編が満を持して登場!


「グリー・デスティニー」という名作の続編ということで制作までにはスタッフィング、キャスティングも二転三転したようだが、ミッシェル・ヨーが前作と同じ碧銘剣(グリーン・デスティニー)守り人として登場。また、ユエン・ウーピンが直接メガホンをとり(アクション監督兼任)世界観が壊れていない。



シルエットだけだがチョウ・ユンファが演じた剣士リー・ムーバイや映画前半部分に登場した邸宅も登場、また前作のチャン・ツーイー、チャン・チェンを彷彿させる、若き戦士たちのロマンスも描かれる。また、今作からドニー・イェンが登場。年末公開予定の「ローグ・ワン:ア・スター・ウォーズ・ストーリー(原題)」にも出演していることで、いよいよハリウッドへの本格進出を始めた。ドニー・イェンが登場したことで、前作に比べてアクションパートが増えよりスピーディーな映画となった。

ドラマパートも実績のあるミッシェル・ヨーが勿論、ドニー・イェンも近年「葉門 イップマン」シリーズで演技面の評価も高まっていることもあって、チョウ・ユンファに代わるヨーの相手役をしっかりと担っている。ラスボスには少し懐かしいジェイソン・スコット・リーが登場。かつて「ドラゴン/ブルース・リー物語」(92年、ロブ・コーエン監督)でブルース・リーを演じていた彼がスキンヘッドの憎々しい悪役を演じている。ドニーとの決闘シーンではまだまだ動けるぞというところを見せている。

黒船Netflixが映画制作・配信・配給をいよいよ本格化
Amazonビデオが後を追う


昨年、黒船襲来と称された映像ストリーミング企業Netflix(全世界会員数約6900万人)の日本進出。アメリカでは後発勢力が立て続けに進出してきても業界一位を堅守。日本ではいくつかの先人がいたものの、国内外の作品を独占配信するなど一気に攻勢を仕掛けてきている。

日本ではサービスの浸透を進めるのと同時に、日本向けのオリジナルドラマを制作・配信するなど競合他社との差別化を進めている。芥川賞受賞作品「火花」の連続ドラマ化が大きな話題となっている。この流れをさらに一歩進めて、いよいよオリジナル映画の制作・配信・配給を本格化させてきた。

その第一弾が昨年の東京国際映画祭にて上映された「ビースト・オブ・ノー・ネーション」で視聴回数が北米(会員数4200万人)だけで2週間で300毎回を超えた。それに続くのが本作「ソード・オブ・デスティニー」となる。このような公開形態は劇場の油井精を揺るがすとして興行会社からは敬遠されているものの、ビジネス面、批評面双方で成果を上げつつある。

対抗するAmazonプライムビデオもコンテンツ制作部門にてオリジナル映画の制作開始を今年の1月に発表した。こちらはオリジナルドラマ「トランスペアレント」が2015年のゴールデングローブ賞を受賞するなど存在感を見せている。

興行出身の自分としては映画館以外で最新の映画を視聴出来る環境が整いすぎることも困りものではあるもの、映画制作のデジタル化が進み長編作品が国内外で過剰供給状態にある中で、ローコストでの公開形態が確立されていくのは必要なことなのかもしれない。

(文:村松健太郎)

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