明るさと妖艶さ、双方の魅力を併せ持つ池上季実子

■「キネマニア共和国」

写真家『早田雄二』が撮影した銀幕のスターたちvol.19


現在、昭和を代表する名カメラマン早田雄二氏(16~95)が撮り続けてきた銀幕スターたちの写真の数々が、本サイトに『特集 写真家・早田雄二』として掲載されています。
日々、国内外のスターなどを撮影し、特に女優陣から絶大な信頼を得ていた早田氏の素晴らしきフォト・ワールドとリンクしながら、ここでは彼が撮り続けたスターたちの経歴や魅力などを振り返ってみたいと思います。
池上季実子


明るさと妖艶さ、
双方の魅力を併せ持つ池上季実子


私事で恐縮ですが、ちょうど映画を見始めた70年代後半、大林宣彦監督の商業映画デビュー作『HOUSE ハウス』(77)を目の当たりにしたときの不可思議な興奮と感動は、今も忘れられないものがあります。
戦争にまつわる女の怨念の許、何と家が少女を食べてしまうという、今ではアメリカなど海外でもカルト映画として絶大なる人気を誇っているファンタスティック・ホラー映画の中、「麗しい」という言葉が実に似合うヒロインを務めていたのが池上季実子でした。そのときの明るさと妖艶さを相交えた魅力は、今もトラウマのように脳裏にこびりついています……。

1970年代、10代の時期の
清純かつ気品高い存在感


池上季実子は1959年1月16日、アメリカ・ニューヨーク市マンハッタン生まれ。父は商社マンで、母方の祖父が歌舞伎役者の八代目阪東三津五郎、叔父に九代目阪東三津五郎、従兄に十代目阪東三津五郎、そして親戚に映画監督の青柳信雄といった家系です。

3歳の時に日本に帰り、高校時代にNHKスタジオを見学していたときにスカウトされ、NHK少年ドラマシリーズ『幻のペンフレンド』(74)にヒロインの友達役でドラマ初出演。続いて銀河テレビ小説『灯のうるむところ』(74)にレギュラー出演し、同年秋には人気コミックのドラマ化『愛と誠』(74)のヒロイン早乙女愛役に抜擢されました。

75年、『はだしの青春』で映画初出演し、その後『おれの行く道』(75)『あにいもうと』『喜劇百点満点』『恋の空中ブランコ』(以上76)『恋人岬』(77)と順調にキャリアを重ねていき、そして77年夏、『HOUSE ハウス』の中、家に食べられてしまう7人の女の子の中で重要なカギを握るヒロイン、オシャレを好演しました。

78年には倉本聰脚本、降旗康男監督の『冬の華』で高倉健と共演。あしながおじさんの物語をモチーフに、主人公が殺した兄貴分の娘役で、主人公は獄中から匿名で彼女に仕送りをし続け、出所後も陰から見守っていきます。ここでは気品の高い清純派としての魅力を醸し出していました。

79年には長谷川和彦監督の伝説のカルト・エンタテインメント『太陽を盗んだ男』で、自力で原爆を作り上げた主人公に絡むDJを軽やかに演じました。

そろそろ銀幕で再びお目にかかりたい
池上季実子独自の気品と艶


彼女の転機となったのは、83年の五社英雄監督『陽暉楼』でしょう。宮尾登美子の同名小説を原作に、芸妓たちの確執を赤裸々に描いたこの作品で、それまでにない激しくも悲しい女のサガを見事に体現し、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞するとともに、女優として大きくステップアップしていきました。

この後も池広一夫監督『化粧』(84)、野村芳太郎監督『危険な女たち』(85)と名匠たちの作品に続々出演し、88年の深作欣二監督『華の乱』では松田優作扮する有島武郎と情死を遂げる波多野秋子を演じ、日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞しています。

90年代以降はテレビの2時間ドラマをメインに活動するようになりますが、一方で映画出演は『江戸城大乱』(91)『子連れ狼 その小さき手に』(93)『極道の妻たち リベンジ』(00)『苦い蜜』(10)と激減してしまっているのは何とも寂しい限りではあります。

どうしても若者向けの作品ばかりが企画として通りやすい今の日本映画界ではありますが、池上季実子のような気品と艶のある女優の魅力を活かした映画も、もっと作られてしかるべきでしょう。

また個人的には、もう一度大林宣彦監督作品に出演していただきたいと願っています。

■「キネマニア共和国」の連載をもっと読みたい方は、こちら

(文:増當竜也)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

RANKING

SPONSORD

PICK UP!