映画コラム
ドリーの「忘れてしまう」欠点は「過去を悔やまない才能だった!」
ドリーの「忘れてしまう」欠点は「過去を悔やまない才能だった!」
(C)2016 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
ピクサー映画って、子どもたちが楽しめるのはもちろんなんだけど、それより子どもたちを映画館に連れていく「親たち」に向けて作られてるんじゃないか、なんて思うことがしばしばある。
世界的大ヒットを記録中の『ファインディング・ドリー』もまた、子を持つすべての親たちにとって大切で、やさしいメッセージが込められています。
世界中のお父さんお母さんがこの作品を見たら、世の中はもっと平和で、もっと喜びと笑顔に満ちたものになるんじゃないか、そんな大げさな夢想を抱いてしまうくらいに。
竜さんの「大切なことは全部映画が教えてくれた」
ドリーだけじゃない。誰もが抱えている欠点=キャラクター。
一緒に本作を見た小学生の娘たちに「どのキャラクターが好きだった?」って聞いたら、「みんないろんな特徴があるから、みんな好き!」って言うんです。
前作から引きつづくメインキャラクターはもちろん、本作から新たに登場するたくさんのキャラクターたちも、たしかにみんなそれぞれの特徴を持っていて、とっても魅力的。
・ドリーは何でも「すぐに忘れてしまう」ので、同じことを何度も言ったり聞いたり、すぐに迷子になったり、いつも小さなトラブル続き。
・ニモは片方のヒレが小さいので、泳ぐのがちょっと苦手。
・ニモの父親・マーリンは、人の話を聞かないあわてんぼうの頑固オヤジ。
・ジンベエザメのデスティニーは、目が悪いのでいつも水族館の壁に頭をぶつけてる。
・シロイルカのベイリーは、病気が治ってるのにそれを認めない。
・タコのハンクは、どこにでも行けるのに自由を恐れる引きこもり。
こうやって書き出してみると、みんな欠点ばかり。でも子どもたちにとってはそれが「いろんな特徴があって、みんな好き!」になる。特徴こそがキャラクターってこと。キャラクターは英語で「持ち味」という意味ですから、欠点こそが魅力だってことですよね!
(C)2016 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
子どもを信じるのか、自由を奪うのか。
マーリンは「おまえはうまく泳げないんだから」と言って、ニモをなるべく安全なところで生活させようとします。危険が少ない代わりに、喜びや興奮も少ない世界で、自分が子を守ってあげようとするんですね。
対してドリーの両親は、「忘れてしまう」ドリーが一人でも生きていけるように、いろんなことを教え、挑戦させます。
子どもを心配するあまり自由を奪うマーリンと、不安だけど子どもを信じてサポートするドリーの両親。この違いは子どもに欠点があるとかどうとかじゃなくて、親自身の問題なんです。
「我が子のため」と言いながら、じつは親が自分自身の「不安」を押しつけてしまっている。
愛する子どもが危険にさらされるって考えたら、誰だって不安です。でもそこで、怖いけど、子どもを信じてあげる。危険が及んでもこの子なら大丈夫だって信じてあげる。みんなに守ってもらえる素敵な人に育ててあげる。一人で生きてるんじゃないってことを教えてあげる。そんな風にできたらいいですよね!
(C)2016 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
「忘れてしまう」欠点は「過去を悔やまない才能」だった!
何でもかんでもすぐに忘れてしまうドリーは、たしかにトラブル続きでみんなにも迷惑をかけちゃいます。でもドリーは、そんな小さな欠点や迷惑の数百倍も素晴らしいものを持っていて、みんなを幸せにしてるじゃないですか!
ドリーは、タコのハンクが言うように、記憶がないから悔やむこともない。
一人じゃ生きていけないことを知ってるから、みんなを頼って誰とでも仲良くなる。
考えたって忘れちゃうから、直感を頼りにどんどん進んでいく。
ウジウジ考えてばかりで行動できないマーリンたちを導いていく。
前作でニモを見つけられたのは、ドリーの直感力と行動力のおかげです。考えすぎでパニックに陥るマーリンだけだったら、とてもじゃないけど無理だったでしょう。
僕らは「後悔はするな、反省して次に繋げなさい」と言われて育ってきたけれど、本当に大事なのは、失敗なんてすっぽんぽんに忘れて、ドリーのようにどんどん進んでいくことじゃないでしょうか。人の悩みの根っこにあるのはたいがい「過去を悔やむこと」だし、反省ばかりしてるとやがて身動きがとれなくなっちゃいますよ。
(C)2016 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
「ドリーならどうする?」という人生のコンパス
ニモとマーリンは、これからどうしていいかわからなくなったとき、「ドリーならどうする?」と考えて困難な状況を打破していきます。
ドリーなら考えこまない。
ドリーなら目の前にあるものを選ぶ。
ドリーなら誰かに頼る。
ドリーなら他の道を探す。
ドリーなら好きなほうへ行く。
ドリーならどんどん泳いでいく。
「とにかく泳いで、泳いで、泳ぎつづけるのよ」
僕らはみんな、心配性のマーリンです。きちんと働いて、ちゃんと人づきあいをして、子どもを安全に育てて、自分だけで生きていける力をつけようとします。でも本当は、もっと好きなことをやって幸せになっていい。困ったら誰かを頼っていい。考えてるより行動した方がいい結果が出る。
ニモやマーリンに限らず、「ドリーならどうする?」という問いかけは、僕らみんなの人生を豊かにしてくれるコンパスになるんじゃないでしょうか。
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みんな違ってみんないい。どんどん泳いでいこう。
僕もかつては、引っ込み思案の長女の心配をして、天真爛漫でワガママな次女の心配をして、なるべく他のみんなと同じように、迷惑をかけない子に育てようとしていました。
でも誰だって、がんばったって多かれ少なかれ迷惑はかけるんですよね。他人に迷惑をかけて、かけられて、助けあって、そうやって生きていくことができれば、誰もガマンなんてする必要はないし、みんなの欠点が魅力になって、みんなが「ありのまま」で輝きだす。
ドリーには大きな欠点があるけど、それを補って余りある魅力に溢れています。僕がその中でも素晴らしいなと思うのは、とにかくどんどん人を頼って、プライドなんて捨てて何でも聞く姿勢。じつはそれさえあれば、誰だって幸せに生きていけるんですよね。
親子で『ファインディング・ドリー』を見て、ぜひお子さんと、そして自分自身の「欠点=魅力」を見つけてみてください。
「一番素敵なことは偶然起こるの。それが人生なの」ドリー
(文:茅ヶ崎の竜さん)
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