ダンス×ミュージックは言語を超える!未体験の領域、『ハートビート』!
(C)2015 High Strung, LLC
みなさん、こんにちは。
映画やドラマなどではよく、敵対するグループやライバル同士が睨み合うとそのまま殴り合いの喧嘩へと発展する描写がありますよね。意地と意地、プライドとプライドがぶつかり合い拳で語る、などという泥臭い場面が繰り広げられ、主人公が傷だらけになっていくなんていうこと、多いと思います。
ですがここに、睨み合った次の瞬間、なぜか突然ダンスバトルが始まる胸熱くなるような映画が誕生したのです! 今回の「映画音楽の世界」では、そんな映画『ハートビート』を紹介したいと思います。
新たなジャンルの開拓を見た、斬新なダンスと音楽の融合
前述のように、本作の魅力はなんといってもダンスと音楽を新たな切り口から融合させたアイデアとその表現力にあります。ニューヨークを舞台に地下鉄のホームで、バーのテーブルの上で、そしてステージ上で所狭しと繰り広げられる、ジャンルの垣根を超えたダンス×ミュージックバトル。バレエ、タンゴとヴァイオリンというクラシカルな要素に対し、一見正反対と思えるヒップホップやエレクトリックといった現代的なサウンドを併せるという意外な技が観客の高揚感を掻き立てます。
確かに「喧嘩ではなく突如始まるダンスバトル」などと書いてしまうと、いかにもトンデモ設定のように思われてしまいますが、それを圧倒的な迫力で(かつアーティスティックに)描き切られると、もはや言葉や拳以上にその空間を支配してしまうのです。
そこには人種や教養、身分の差はなく、ひたすらに己の力量と技術がモノを言う世界。華麗なアイリッシュダンスバトル、情熱のヴァイオリンバトル、そして、静けさの中に激情を秘めたラスト・バトル。そのどれもが圧巻のシーンとなっていて、それだけ本作には見所となる場面が収められているのです。
本作のサウンドトラックは現在のところ配信のみとなっていますが、劇中使用曲で構成されたその収録内容からも、いかに『ハートビート』という作品がアグレッシブな選曲になっているかが窺えるのではないでしょうか。
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すべてが本物指向!
そんな血沸き肉踊る、新たなジャンルを打ち立てた『ハートビート』ですが、ただ単純に俳優を掻き集め特訓を重ねて撮られた映画ではありません。そこには、ダンス×ミュージックにリアリティを持たせようと奔走した作り手たちのパワーがありました。
まずは監督・脚本のマイケル・ダミアンと、共同脚本のジャニーン・ダミアン。名前からも解るように実生活でもパートナーの二人ですが、マイケル・ダミアンは俳優もこなし、自身がビルボードチャート1位を獲得したこともあるミュージシャンという経歴の持ち主。一方のジャニーンはクラシックバレエ・ダンサー。つまりこの二人がタッグを組んでいる時点で『ハートビート』の下地は出来上がったも同然。作られるべくして作られた映画なのです。
そして肝心なのがキャスティング。親元を離れニューヨークでバレエ学校に入学したルビーを演じたキーナン・カンパは本作が初の主演どころか、女優デビューとなった本職のバレエダンサー。その実力は名門バレエ校を卒業し国際大会でも入賞を果たすほど。本編ではまだ垢抜けない演技以上に、華麗なダンスでその表現力を見せ付けています。
ルビーのルームメイトで親友のジャジーを演じたソノヤ・ミズノは長編デビューを飾った『エクス・マキナ』で注目された新星。エクス・マキナに続き本作でもしなやかなダンスを披露していますが、彼女もまた英国ロイヤル・バレエ・スクールを卒業したダンサー。モデルでもあるその美貌を存分に活かし、本作では感情の赴くままに爛漫な笑顔を見せる快活なキャラクターを演じています。
そして、イギリスから渡米し、ふとしたきっかけで出逢ったルビーとともに、ダンスコンテストにヴァイオリニスト奏者として挑むジョニー役のニコラス・ガリツィンも英国でミュージシャンとしての活動を行う若手俳優。どこか憂いを帯びたルックスが印象的で新たなファンを掴んだのではないでしょうか。
そしてジョニーとルビーの良き理解者であり協力も惜しまない“スイッチ・ステップス”のメンバーもそれぞれの舞台で活躍する本物のダンサーで、彼ら以外にも劇中に登場するダンサーも各ジャンルの本物のダンサーというこだわりよう。
さまざまな人種が集まり、多種多様な文化を発信するニューヨークという舞台を見事に映画製作にも活かした形で、ダミアン夫妻の並々ならぬ「本物指向」が伝わってきて来ます。
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まとめ
本作はアカペラバトルを描いた『ピッチ・パーフェクト』と共通するところも多く、誰でも受け入れやすい映画となっています。ダンス、クラシック、ヒップホップ、コンテンポラリーの融合という、今まであるようでなかった新しいジャンルを切り拓く熱量がこの映画にはあります。残念なことに全国ロードショーの形ではなく順次公開による小規模展開のため、なかなか鑑賞する機会が少ない作品ではありますが、公式HPによればゆっくりと公開館数が増えてもいるようです。可能であれば、映画館のスクリーンで、音響で観るべき作品ですので、一度チェックされてみては。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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(文:葦見川和哉)
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