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映画『ムーンライト』バリー・ジェンキンス監督、こだわりの演出方法とは?
映画『ムーンライト』バリー・ジェンキンス監督、こだわりの演出方法とは?
本年度アカデミー賞にて、作品賞、脚色賞、助演男優賞の3冠に輝いた映画『ムーンライト』。
自分の居場所を探し求める主人公の姿を幼年期、少年期、青年期と3つの時代で描いた本作だが、3つの時代を“同じ瞳を持つ”異なる3人の役者が演じていることでも話題を集めている。
LGBTQのラブストーリーが作品賞を受賞したのはアカデミー賞史上初のことで、さらに黒人だけのキャスト・監督・脚本家による作品が作品賞に輝いたのも史上初と、2つの史上初を達成した本作。純粋な愛を描いた本作は、監督の独特の演出方法によっ てその世界観が綿密に構築されているといえる。
同じ雰囲気を感じさせる目を持つ3人を探した
本作でメガホンを取るバリー・ジェンキンス監督は、主人公・シャロンをキャスティングする際に、同じフィーリング、同じ雰囲気、同じ要素を持つ俳優を探したといい、「フランシス・フォード・コッポラの映画の編集や音響を手掛けているウォルター・マーチが書いた“映画の瞬き”という本で、目は魂を見せる窓だと語っている。つまり映画において、目は、観客のための窓なんだ。だから、同じ雰囲気を感じさせる目を持つ3人を探した」と明かす。
その上で、シャロンを演じた3人の俳優について「お互いと会うことを許さなかったし、彼らにはほかのシャロンの映像を見ることを禁じた。ほかの俳優の演技を見て、自分もそれに通じることをやろうとしたら、正直でなくなる。ほかの役者がどうやったのかを考えることもしてほしくなかった」と話し、リハーサルも一切行わず、シャロンを演じる3人の役者を撮影期間中に会わせることはしなかったという。
それにも関わらず、各々が見事にシャロンを演じきり、一貫して同じ雰囲気をまとうシャロン像が完成。特に第三章のシャロンについて、バリー・ジェンキンス監督は「大きくて筋肉もあって、昔とはまるで別人のようだけど、彼の眼に子供の頃のシャロンを感じさせるものがあれば、観客は絶対についてきてくれると思った」と語る。
また、大人になったシャロンが10年ぶりにケヴィンと再会するシーンでは、青年期のシャロンを演じたトレヴァンテ・ローズと青年期のケヴィンを演じたアンドレ・ホーランドの2人も事前に会わせることをせず、リハーサルすら行わず、撮影本番で初めて会わせることで、シャロンとケヴィンの10年ぶりの再会を見事に体現。シャロン役のトラヴァンテ・ローズは「アンドレ(大人になったケヴィン)が電話をかけてくるシーンで初めて彼の声を聞いた」と明かしている。
バリー・ジェンキンス監督はその演出方法について「10年という歳月は2人を別人にしていた。離れてしまった人物と再会し、また関係を築くための戸惑いや緊張感が欲しかった。だから会わない方がいいと思ったんだ」とこだわりを見せている。
アシュトン・サンダース「俳優の“勘”を信頼して尊重してくれる」
10代のシャロンを演じたアシュトン・サンダースは、バリー・ジェンキンス監督について「監督は役をつかめるまで僕のやり方でやるのを許してくれた。必要なら何だってやってもいいが、覚えておくべきことはシャロンがどういう人物かということだと言われた」と語る。
さらに、青年期のケヴィン役アンドレ・ホーランドは「彼には鮮明なイメージがあるのに、俳優の“勘”を信頼して尊重してくれる」、本作でアカデミー賞助演男優賞を受賞したマハーシャラ・アリは「バリーの一番スゴいところは沈黙の使い方が見事で、俳優にセリフの言い回しや動き方を考え判断する余地を与えてくれる」と話す。
目指すものや明確なビジョンを持ちながらも、俳優を自由に演技させるバリー・ジェンキンス監督。監督と俳優、お互いの信頼関係があってこそ成り立つ演出であることが伺える。
シャロンの母親役のナオミ・ハリスは、監督が撮影現場で俳優に対し「間違いはない、すべてが正解だから」と話していたことを明かし「そういう環境だと俳優たちは奇跡を起こせる。ベストの力が発揮できるから」と、監督の演出を称えた。
映画『ムーンライト』は、現在公開中。
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