映画コラム
ハロウィンの渋谷に集う者たちも『アナベル 死霊人形の誕生』で絶望を味わうべき
ハロウィンの渋谷に集う者たちも『アナベル 死霊人形の誕生』で絶望を味わうべき
(C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
10月も半ばを過ぎ、いよいよハロウィンが近づいてきた。
今年もきっと10月31日の渋谷スクランブル交差点はパリピどもが百鬼夜行のごとく埋め尽くし、その様子を各メディアが取り上げて、翌日のゴミで荒れた街の様子がSNSで流れてきてハロウィン批判が巻き起こるという、ここ数年のお決まりの流れとなるのでしょう。もう覚えた。
もはやハロウィンの意義などとうに失われ、怖い幽霊や怪物、お化けの格好をして悪霊から身を守るという意味がこもった仮装も、一人では出来ないけどみんなとお揃いだから仮装する、いいね!がエサのSNS自己承認欲求モンスターの群れのショーケースとなってしまった。
そんなにハロウィンが好きなら、本当の地獄を見せてやるわ! 私だってハロウィンの渋谷で「ウェイwww」したいと言わんばかりに、先週末の13日の金曜日に日本公開されたのが、史上最も呪われた実在の人形が見る者を恐怖のドン底に落とす『アナベル 死霊人形の誕生』。
本作は、まさに映画館で見るジェットコースター+お化け屋敷! ジェットコースターが坂を登るがごとく、「来るぞ、来るぞ…」とすぐそこまで迫った恐怖、そしてどんなショック演出がどこからやってくるかというお化け屋敷のような感覚が、映画館で体験出来る!
ハロウィンに浮かれているパリピも、そうじゃない人も、このシーズンだからこそホラー映画で絶望を味わってみてはどうだろうか?『アナベル 死霊人形の誕生』の何がそんなに怖いのか、お教えしよう…
そもそも人形は怖い!幸せから不幸への転落も怖い!
(C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
本来は子供を楽しませ、愛でられるはずの人形。しかし、洋の東西を問わず、人形は恐怖の対象でもある。あなたも、身近にある人形に恐れを抱いたことがあるのでは。
動かないはずのものが動く、そこにないはずの魂の存在を感じさせてしまうなど、恐れられる理由は様々に考えられるが、本作はタイトルの通り史上最も呪われたアナベルという人形が主役。
『死霊館』シリーズに登場し、おなじみとなっているこのアナベル人形は、いかにして恐ろしい人形となってしまったのか? 本作はその起源を明かす「エピソード1」的な作品である。すべてのはじまりのストーリーなので、これまでのシリーズを見ていなくても単独の作品として十分楽しめる。エンディングが気になったら、時系列的に続きとなるシリーズ作品を見ると良いだろう。
そのはじまりは、他の人形と同様に愛にあふれたものであったにも関わらず、不幸な出来事をきっかけに幸せだった家族は暗転し、大切な人を思うあまり忌まわしきものへと変貌していく。
その落差は激しく、本当に恐ろしい限りだ。
逃げられない絶望の状況設定!
(C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
本作で恐怖のドン底に落とされるのは、孤児院の少女たちとシスター。彼女たちは、新たな家として招き入れてくれた夫婦の館に住まうことに。
家は本来、心やすらぐ場所のはず。しかし、その家に恐ろしい「何か」がいたとしたら? そして、その館は周囲に人の気配のないド田舎にあり、怪異が起きても逃げようがない…
そもそも、孤児院の少女たちにはもともと身寄りがないので「家」がない。つまり恐ろしい館だったとしても、ほかに住む場所がない非力な子供である以上、そこから逃げ出すことは出来ないのだ…
この寄る辺のなさは、現実に存在する恐怖だ。たとえ相手が死霊ではなかったとしても、恐ろしいものから逃げ出せない子供たちは、現実にいる。
足が悪くても寝たきりでも襲撃!死霊のターゲットはバリアフリー!
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本作でスリルを増しているのは、孤児院の少女たちのひとりであるジャニス(タリタ・ベイトマン)がポリオで足を悪くしており、装具を付けて歩いているという設定。
何かが部屋の中にいる…という状況であれば、誰しもがパニックになりながら駆け出して、今すぐにこの部屋から出たいと思うだろう。
しかし、ジャニスは足が悪いので杖をつきながらゆっくりと逃げ出すしかない!この恐るべきじれったさと、弱者を平気で狙う容赦のなさに戦慄!
さらに、何年も寝たきりのエスター(ミランダ・オットー)をも襲撃するという、バリアフリーな被害者選定は悪魔の名に恥じない!
計算し尽くされた恐怖演出!
こうした恐怖のシチュエーションを、さらに増幅させるのが計算された恐怖演出だ。
観客の視線を恐怖の対象に誘導する画面設計、不安定な心理状態の時や被写体以外の何者かの存在を感じさせる時に使われる手持ちカメラ、心臓がビクッとなるショックへと導く音響と音楽、ソフトフォーカスでボヤけた背景に動く「何か」…
あらゆるテクニックを駆使して、その間合いも含めて計算し尽くされている。シリーズも4作目となり、制作スタッフにはきっと「恐怖の方程式」が見えているのだろう。
今年、映画館でハロウィンを楽しむなら…
暗闇に包まれた映画館で見るホラー映画は、それ自体がお化け屋敷のようなエンターテイメント感があって、また格別(日常の場である自宅で見ると、一人でいる時に「何かがいたら…」と思ってしまうので、それはそれで怖い)だ。
映画館でハロウィン気分を楽しむなら、今年はよく練られたホラー映画である『アナベル
死霊人形の誕生』を見て絶望を味わった上で、渋谷のスクランブル交差点で「マジヤバイwww」「ウェイwww」と「死霊の盆踊り」をしてみてはどうだろうか。
(文:藤井隆史)
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