坂本龍一、その音楽的探究心に触れる旅『Ryuichi Sakamoto:CODA』



©2017 SKMTDOC, LLC


こんにちは、八雲ふみねです。

今回ご紹介するのは、11月4日から公開の『Ryuichi Sakamoto:CODA』。日本が誇る世界的音楽家・坂本龍一追った初の劇場版ドキュメンタリーです。

八雲ふみねの What a Fantastics! ~映画にまつわるアレコレ~ vol.129



2012年、宮城県名取市。

坂本龍一は一台のピアノと出会う。

それは3.11による津波という、自然の猛威によって水に溺れたピアノだった。

このピアノとの出会いがきっかけで、坂本龍一の音作りに大きな変化が生まれていく…。



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坂本龍一が新たな“音”と出会う瞬間とは…。


イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)の一員として、日本のエレクトロニクスやテクノロジーを象徴するポップアイコンとなり、その後、常に第一線で活躍し続ける坂本龍一は、映画界においても重要なキーパーソンです。

出演し音楽も手がけた『戦場のメリークリスマス』で英国アカデミー賞作曲賞、『ラストエンペラー』では第60回アカデミー賞作曲賞をはじめ数々の賞に輝き、現在も国内外を問わず多くの作品に楽曲を提供しています。

2014年に中咽頭ガンを公表し1年近い闘病生活を経て、第88回アカデミー賞で3部門を受賞した『レヴェナント:蘇りし者』と『母と暮らせば』の音楽で復帰。瑞々しい才能を発揮したその仕事ぶりは、皆さんの記憶にも新しいことでしょう。

そんな坂本龍一に、2012年から5年にもわたって密着取材を行い、さらには幼少からの膨大なアーカイブ素材やプライベート映像、写真を織り交ぜながら1本のドキュメンタリー映画としてまとめ上げたのが、スティーヴン・ノムラ・シブル監督。

「東日本大震災以降、坂本龍一の音楽表現の変化に興味を持った」ことが、坂本龍一に密着するきっかけだったとのこと。

現在と過去を行き来しながら彼の音楽活動を数々の名曲と共に追いかけることで、坂本龍一の音楽と思索の旅路を静かに、かつエモーショナルに描き出すドキュメンタリー映画が誕生しました。



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普段我々が生活する中で何気なく耳にする“音”と坂本龍一が紡ぎ出す“音楽”がひとつのなる瞬間、私たちは感動に包まれる。


本作で描かれているなかで非常に興味深いのが、アルバム制作の様子。

被災したピアノの、津波という“自然の調律”を受けた音色。

自ら防護服を着用して福島第一原発を囲む帰還困難区域に足を踏み入れ、いまでは無人の地と 化してしまった集落の残音。頭にかぶったバケツを跳ね返る雨音。

それら自然が奏でる“音”を小さなiPhoneを使ってサンプリングしていく姿がとても印象的です。

しかも自分が求める音に出会った瞬間の坂本龍一の笑顔があまりのピュアで、観る人はドキリとしてしまうことでしょう。少年のような無垢な心をいまも持ち合わせているからこそ、人々の心を惹き付けてやまない音楽を生み出すことが出来る。

坂本龍一の原点がこの映画の中には、確実に存在しています。



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第30回東京国際映画祭で「第4回SAMURAI(サムライ)賞」を受賞!
トロフィーから“教授”が受けたインスピレーションは…。


第74回ヴェネチア国際映画祭アウト・オブ・コンペティション部門に出品され、世界中から集まった映画人の喝采を浴びた本作は、先日開催された第30回東京国際映画祭でも上映されました。

そして、比類なき感性で“サムライ”のごとく時代を切り開き、その才能を世界に向けて発信し続けてきた映画人を称える「第4回SAMURAI(サムライ)賞」が坂本龍一氏に贈られました。




日本刀をモチーフにしたデザインのトロフィーを手にして「『戦場のメリークリスマス』での居合をするシーンを思い出します」と、しみじみと語る坂本龍一。

しかしフォトセッションではトロフィーを刀に見立て、振り回してみたり首に当ててみたり…。自由奔放すぎる“教授”に会場からは、大きな笑いが。




授賞式に続いて行われた『Ryuichi Sakamoto:CODA』の舞台挨拶では、スティーヴン・ノムラ・シブル監督も登壇。

「音を感じる映画になっています」と、本作の完成度に大きな手応えを感じているご様子。

そんなシブル監督を「撮影の途中でいろんなことが起こって…。僕が病気になったり、ね。映画製作者としては『シメた!』と思ったでしょ?!」とからかう坂本さん。

その茶目っ気あふれる表情は、本編で見せる新しい“音”に出会った時の少年のような姿と重なり、司会を務めた私も自然と笑みがこぼれました。

作品情報


『Ryuichi Sakamoto:CODA』
2017年11月4日から角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー
監督:スティーヴン・ノムラ・シブル
出演:坂本龍一
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公式サイト http://ryuichisakamoto-coda.com/

八雲ふみね fumine yakumo


八雲ふみね

大阪市出身。映画コメンテーター・エッセイスト。
映画に特化した番組を中心に、レギュラーパーソナリティ経験多数。
機転の利いたテンポあるトークが好評で、映画関連イベントを中心に司会者としてもおなじみ。
「シネマズ by 松竹」では、ティーチイン試写会シリーズのナビゲーターも務めている。

八雲ふみね公式サイト yakumox.com

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