映画コラム

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2018年01月26日

『殺人者の記憶法』は殺人鬼バトル版『ファインディング・ドリー』!?その魅力を解説!

『殺人者の記憶法』は殺人鬼バトル版『ファインディング・ドリー』!?その魅力を解説!



(C)2017 SHOWBOX AND W-PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.


1月27日より、『殺人者の記憶法』が公開されます。ベストセラー小説を原作とし、韓国で初登場1位を記録した本作は、サスペンス映画としてのアイデアが抜群に優れており、なおかつ“まさか”の展開の連続で楽しめる、とんでもない秀作でした! その魅力を以下に紹介します。

1:アルツハイマーの元殺人鬼VS現在の殺人鬼! 究極かつ最高の対戦カードが組まれた!


本作の何よりの特徴は、主人公がアルツハイマー病を発症しており、なおかつ“元”殺人鬼であるということ。彼はかつて「死んで当然のクズは殺してやる」という、「デスノート」の主人公と同様の(間違った)矜持に乗っ取り、殺人を繰り返していたのです。

そんな主人公を“応援する側に回れる”というのも、本作の面白いところ。彼の生い立ちは同情すべきところもありますし、何より現在は娘を育てながら獣医師の仕事を続けている、平凡とも言える“父親”になっているのですから。(もちろん殺人は絶対に許されないことですが)元殺人鬼の主人公に感情移入ができるような工夫が随所に凝らされていること、ある種の“アンチヒーロー”的な魅力があることも、本作の美点でしょう。

そんなアルツハイマーの元殺人鬼の男が対戦するのは、端正な顔立ちで若々しい警察官。主人公は自分と同じ殺人鬼の香りを彼に感じている、つまり“主人公だけが殺人鬼であることに気づいている”のですが、周りにはその訴えを一蹴されてしまうため、たった1人での戦いを余儀なくされます。しかも、この警察官はあろうことか主人公の娘に接近していくのです。

主人公は元殺人鬼なだけに殺しの能力に長けているもの、アルツハイマーという圧倒的な“ハンデ”を抱えている。一方で対戦相手の若い警官は聡明で体力もあり、病気などのハンデもない。この不利な状況を主人公がどのように打破していくかも、見どころになっているのです。



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2:これは殺人鬼バトル版『ファインディング・ドリー』だ!


映画において、“登場人物が知らないことを観客だけが知っている”ことから生まれるサスペンスがあります。観客は「そっちに行ったら危ないんだよ!」「後ろにいるよー!」とわかっているけど、登場人物はそのことを知らないので“もう見届けるしかない”というハラハラ……これは映画でしか成し得ない面白さとも言えます。

本作『殺人者の記憶法』においては、主人公はアルツハイマーであるため、時おり直前の記憶を失ってしまいます。つまり、主人公が「ここはどこ?」となっている状況で、観客は「あんたは今ヤバイ状況なんだって!」と叫びたくなる……そんなサスペンスが生まれているのです。

“この記憶を失ってしまう”ことから生まれるサスペンスで思い出したのは『ファインディング・ドリー』でした、こちらも主人公が記憶を失ってしまうからでこその“最悪の状況”に陥った時の孤独感や絶望感が存分に描かれており、大人でもハラハラしてしまうサスペンスをつくることに成功してしました。

さらに、『ファインディング・ドリー』と『殺人者の記憶法』のどちらも、主人公が記憶を失ってしまうことに過度にイライラしないような工夫がされています。それはキャラクターに魅力があることと、記憶を失ってしまうハンデを十分に補うほどに“能力や知恵を振り絞って”問題に立ち向かうためでもあるのでしょう。



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3:役者の入魂の演技、圧倒的なクオリティの画の数々を見逃すな!


役者の入魂の演技を語らないわけにはいけません。主演のソル・ギョングは『シルミド/SILMIDO』や『ソウォン/願い』など多くの韓国映画に出演し“カメレオン俳優”と呼ばれる演技派。本作では特殊メイクなしでも老人に見えるよう、炭水化物を遠ざけるのは序の口で、毎日撮影に入る直前に2時間ずつ1万回の縄跳びをして体重維持に務めたのだとか。専門医からのアドバイスを受けながらのアルツハイマーの症状の演技は真に迫っており、たまに表情が“笑いを忘れて狂気にまみれた明石家さんま”にも見えるのが怖い!

対戦相手となる若い警官には、『後悔なんてしない』や『パイレーツ』のキム・ナムギル。主演のソル・ギョングとは逆に14キロの増量を果たしており、普通に見えても“その中には不気味な何かがある”という危険性を感じさせる役を見事に演じています。パッと見では優しいイケメンなので“安心してしまいそうになる”ことが怖い!

主人公の娘を演じたのは、女性アイドルグループ“AOA”のメンバーであるキム・ソリョン。可憐でありながら、芯の通った強さを感じさせる彼女も格別の存在感を放っていました。主演のソル・ギョングが、彼女に“父親”としてどのような行動をしていくのかにも、注目してみるといいでしょう。

もちろん、クオリティが高いのは役者の演技だけではありません。対決シーンは派手に殴り合うだけでなく“互いを疑い感情がにじみ出るような”緊迫感のある見事な画に仕上げていますし、序盤の事故のシーンでは360度回転するカメラを製作してCGなしの大迫力の映像を誕生させています。役者とスタッフの力は、申し分ないほど発揮されていると断言していいでしょう。



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まとめ:新たな“ナメてた相手が実は殺人マシーンだった”系映画の秀作だ!


映画には“ナメてた相手が実は殺人マシーンでした”(映画ライターのギンティ小林さん命名)というジャンルがあります。近年であれば『ジョン・ウィック』や『ドント・ブリーズ』や『ザ・コンサルタント』、韓国映画であれば『アジョシ』もこれに当たりますね。

本作『殺人者の記憶法』は、いわば「ナメてた相手が実は殺人マシーンだったが、アルツハイマーなのでなんとかなりそうだぞ!」というものなのです。殺人マシーンというものは往々にして超人的な能力を持っており、その強さの度がすぎると「こいつは無敵だから大丈夫だな」とハラハラしなくなっちゃいそうなものですが、『殺人鬼の記憶法』ではそんな心配は全くの無用です。主人公が培ってきた殺人術が“記憶の喪失”というただ1点の弱点のために、良い意味で安心できなくなるですから。

『殺人者の記憶法』は新たなナメてた相手が実は殺人マシーンでした系のアクション映画でありながら、『メメント』のように記憶の喪失が物語に深く関わるサスペンス映画でもあり、『アイ・アム・サム』や『gifted ギフテッド』のような“子育てもの”のの要素もあるという、盛りだくさんな内容です。それぞれの魅力が打ち消し合うことなく、相乗的に面白さが増しているというのも、本作の大きな美点です。

おまけ:この“記憶を失ってしまう病”の映画も観てほしい!


最後に、これまで挙げてきた映画以外で、『殺人鬼の記憶法』と合わせて観て欲しい、“記憶を失ってしまう病”にまつわる3つの映画をご紹介します。

1:『ガチ☆ボーイ』



新しいことを覚えられなくなった青年が学生プロレスに挑む物語です。眠るとその日の記憶が失われてしまうという症状はファンタジーめいていますが、プロレスの技術はもちろん人生のさまざまな“積み重ね”ができない主人公の姿は胸を打ちます。観終わると“当たり前に生きている1日1日”が、きっとかけがえのないものに思えてくるでしょう。『ちはやふる』の小泉徳宏監督による、迫力の試合シーンも必見です。

2:『アリスのままで』



言語学者が若年性アルツハイマーを発症してしまう物語です。徐々にその症状が重くなっていく過程は観ていてとても苦しく、時にはホラー映画のような演出もあり、哀しいと同時に“他人事ではない恐ろしさ”も存分に感じさせる作品でした。妻に献身的にかまおうとする夫や、役者志望で母にやや反抗的だった娘の反応もなんともリアル。結末には言葉にならないほどの感動がありました。同じくアルツハイマー病を題材とした映画では、日本の『明日の記憶』や、韓国の『私の頭の中の消しゴム』も観てみるといいでしょう。

3:『フラッシュバックメモリーズ』



劇中のほとんどが、“ディジュリドゥ”という聞きなれない楽器が響くライブ映像で占められている、一風変わったドキュメンタリー映画です。事故により高次脳機能障害を発症し、新しいことを覚えられず、昔のこともどんどん忘れてしまうミュージシャンの姿をライブに重なった映像で語っていく様は、記憶がいかに人間にとっていかに重要で、かけがえのないものなのかを痛切に感じさせるでしょう。

(文:ヒナタカ)

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