独断と偏見!監禁・失踪映画ベスト10!
©2017 NON-STOP PRODUCTIONS – WHY NOT PRODUCTIONS
映画『ラブレス』より
4月7日(土)より、『ラブレス』と『ベルリン・シンドローム』が公開されます。
実は、この両作品とも“監禁”または“失踪”を描いた映画です。一筋縄ではいかない予想外の物語運び、俳優たちの熱演なども共通しており、「2018年の中でも(早くも)必見の名作が生まれた!」と断言してしまえるほどの完成度を誇っていました。
ここでは、『ラブレス』と『ベルリン・シンドローム』と同様に監禁または失踪が描かれた映画と合わせ、筆者が独断と偏見で選んだ“監禁&失踪映画ベスト10”を紹介します。
10位 『コロニア』
独裁政権下のチリに実在していた拷問施設を舞台にした作品です。物語は「主人公の女性が捕らわれた恋人を救うため、カルト教団に入信したふりをして、拷問施設からの脱出も図る」というシンプルなもの。狂信的な人間たちの恐ろしさ、登場人物の思惑が錯綜するドラマだけでなく、追いかけられるも知恵を絞りながら逃げる脱出劇が展開するなど、娯楽性も存分に高い作品に仕上がっていました。
主演は『ハリー・ポッター』シリーズや2017年の実写映画『美女と野獣』でもおなじみのエマ・ワトソン、その恋人を演じたのは『ラッシュ/プライドと友情』でも卓越した演技を見せたダニエル・ブリュール。切迫した状況でも、希望を見失わない強さを感じさせる、俳優たちの存在感にも注目です。
9位 『ホステル』
大学生たちが田舎町のホステルに訪れると、“拷問を趣味としている人間”が集う組織に監禁されてしまうというおぞましいホラーです。前半はエロ描写がふんだんで、後半は目を覆いたくなるほど直接な残酷シーンのオンパレード。R18+指定には誰もが納得できるでしょう。後半には意外なアクションや脱出サスペンスのシークエンスもあり、勧善懲悪的にスカッとできるということもポイント。ただ残虐で悪趣味というわけでなはなく娯楽性も十分なので、ぱっと見のイメージよりは親しみやすい内容と言える(?)のかもしれません。
この映画の恐ろしいところは、拷問そのものはもちろん、「こういう拷問クラブが現実に存在するかもしれない」というリアリティがあること。続編の『ホステル2』ではその拷問クラブの会員側の「人間を一度でいいから拷問して殺してみたい」と願う中年男性の心理も描かれており、良い意味でゲンナリとさせられました。「こういうのに巻き込まれなくてよかった」と、ある意味で幸せを教えてくれる作品です。
8位 『ミザリー』
映画を観ていない、またはスティーヴン・キングの原作小説を読んでいなくても、ミザリーと聞けば「ファンの女性が小説家を監禁する」という話だと知っている方は多いでしょう。何より、監禁をする看護師が“ぱっと見はその辺りにいそうなおばちゃんだったのに、豹変すると尋常じゃない狂気を見せる”のが怖い! そのおばちゃんを演じたキャシー・ベイツがアカデミー主演女優賞を受賞したことも大納得、下手をすれば一生のトラウマになるほどの凄まじいインパクトを残してくれます。
悪霊や怪物やゾンビももちろん怖いですが、本作の「身動きが取れない状況で、頭のおかしい人間の言いなりにならなきゃいけない」はある意味で究極的な恐怖とも言えるのではないでしょうか。直球な内容だからでこそ俳優たちの名演が映える、今観ても色あせない古典的名作です。
7位 『私が、生きる肌』
最愛の妻を亡くした医者が、ある女性を拉致監禁するばかりか、人工の皮膚を彼女の全身に移植し、亡き妻へと“作り変えよう”とするという常軌を逸した物語です。この映画が巧みなのは、「監禁された女性は何者なのか?」「なぜ女性は逃げようとしないのか?」「なぜ主人公の医者の妻が死んだのか?」といった複数の謎をひとつひとつ解き明かしていく構成。そこには絶対にネタバレ厳禁、叫びたくなるほど衝撃的な“秘密”がありました。
性描写が多く、R15+指定でもやや甘めなのではないでしょうか。明かされる真相も含めて、良い意味で変態的な内容と言い切っていいでしょう。主演のアントニオ・バンデラスの“大人の色気”を期待する人、狂気に満ちた非日常的なミステリーが観たい人におすすめします。
6位 『プリズナーズ』
6歳の娘とその友人の子どもが姿を消したことから、父親が常軌を逸した行動を起こしていく……というミステリーです。「2人の子どもはどこに誘拐されているのか?」「真犯人は誰なのか?」「そもそもの誘拐した理由は?」といった疑問の答えをなかなか出さず、時にはちょっぴりとだけ“ほのめかす”物語運びにグイグイと引きつけられることでしょう。『メッセージ』や『ブレードランナー2049』で高い評価を得たドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の演出にも、妥協がまったく見られません。
『グレイテスト・ショーマン』のヒュー・ジャックマンと、『ナイトクローラー』のジェイク・ギレンホールという実力と人気を兼ね備えた俳優がW主演をしていることも大きな魅力。この2人が誘拐事件に立ち向かう人間を鬼気迫る表情で演じていることはもちろん、時間経過とともにどんどん疲れていっているように見えることもすごい! “子どもが急にいなくなってしまった苦しみ”がこれでもかと描かれているからこそ、子どもを持つ親にこそ観て欲しい作品です。
5位 『ラブレス』(4月7日より劇場公開)
(C)2017 NON-STOP PRODUCTIONS - WHY NOT PRODUCTIONS
前述した『プリズナーズ』と同様に「失踪した子どもを探す」ミステリーなのですが、さらなる“地獄”になっているのは「その子どもが愛されていなかった」ということ。両親の仲は険悪どころではなく離婚調停中で、それぞれ別のパートナーもすでにいるという状況。あまつさえ、どちらが息子を引き取るかを言い争い、時には口汚く罵っているのですから……。
「考察のしがいがある」「あらゆるところにヒントが隠されている」内容でもあるので、全てのシーンで気を抜かずに観てみると良いでしょう。寒々としたロシアの風景は“空虚”な登場人物の心情を表しているかのよう。とにかく画と演出が計算しつくされており、アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたことも納得の、重圧な空気感に満ち満ちていました。
身勝手な両親の姿は、反面教師的に子どものみならず、大切な存在とどう向き合うべきか、を教えてくれるでしょう。観終われば、タイトルの『LOVELESS』および、キャッチコピーの「幸せを渇望し、愛を見失う。」の意味を痛烈に感じられるはず。“良い意味で超イヤな気分になる映画”を観たい方は、ぜひ。
4位 『ベルリン・シンドローム』(4月7日より劇場公開)
(C)2016 Berlin Syndrome Holdings Pty Ltd, Screen Australia
ベルリンにやって来たカメラマンの女性が、英語教師の男に監禁されてしまう物語です。恐ろしいのは、その監禁をする男が、表向きは“普通の生活”をしていること。まっとうに学校で授業をしているばかりか、(女性を騙して部屋に連れ込めるくらいですから)人当たりも悪くはない。そんな生活を、自宅で女性を監禁中の時にも“平気で続けている”ことにゾッとするのです。
また、監禁をする男の些細なセリフや行動からは“歪んだ理由”も徐々に見えるようになっていきます。彼の支配欲はどのようなところから生じたのか、なぜ監禁をしなければならなかったのか……そんな(わかりたくもない)犯罪者の心理を教えてくれる一方で、どのような理由があろうとも監禁をする人間は許してはいけない、という倫理観もしっかり示されていました。
パッと見のイメージではホラーのようですが、実は澄み切った音楽と、美しい映像のアンサンブルに魅了される、芸術性も高い作品にもなっています。閉鎖的な空間での監禁を描いた作品であるのにもかかわらず(だからでこそ)旅行の開放的な気分に浸りたくなるというのも、本作の美点でしょう。なお、本作で主演を務めたテリーサ・パーマーは『ライト/オフ』というホラー映画で弟想いのお姉ちゃんを演じており、こちらもアイデアと恐怖演出が優れた作品になっているのでおすすめですよ。
3位 『オールド・ボーイ』(2003年)
15年間に渡り監禁され続けた男が犯人に復讐を誓い、「なぜ監禁されたのか」の謎を追うミステリーです。日本のマンガを原作としており、カンヌ国際映画祭では審査員特別グランプリ賞を受賞、後にはハリウッドリメイクもされたほどの有名作ですが、暴力描写や性描写はかなり過激で、後の展開も良い意味で精神的にキツいものになっている、それなりに観る人を選ぶ映画と言っていいでしょう。
描かれているのは「気づかないうちに誰かを傷つけてしまっているかもしれない」ということ。その“罪”は誰しもが背負い、誰しもが恨まれる理由にもなる……という点でゾッとしてしまうかもしれません。主演のチェ・ミンシクの“怪物”のような狂気的な演技、対する復讐相手のユ・ジテのクールな演技も圧巻、アクションや画も実に洗練されています。ちなみに、2003年は『殺人の追憶』も公開されており、韓国映画の凄まじさを如実に思い知らされる年でした。
2位 『ルーム』
“7年間”に渡り監禁されている女性と、その“5歳”の息子が部屋からの脱出を図る物語です(つまり息子は監禁中に生まれたということ)。その過程もサスペンスフルかつドラマティックに描かれていて見応えがありますが、真に重要なのは、“脱出した後”のことでしょう。被害者であるはずの女性に対し“正しい選択ができていたか”を問い詰めるシーンは胸が苦しくなりましたが、そうして辛い事実から逃げない描写こそが、逆説に世の中に溢れている幸せや、母親の意義をも教えてくれるのですから。
撮影と編集も素晴らしい仕上がりで、5歳の少年の“初めてみる世界の大きさを認識できない”という主観的な感覚を“ピンボケ”などで表現する様には感服しました。なお、本作で絶賛された子役のジェイコブ・トレンブレイは、6月公開予定の『ワンダー 君は太陽』では“遺伝子の疾患で人とは異なる顔”で生まれてきた少年を演じています。こちらも演技・作品の評価ともども絶賛されているので、期待が高まります。
1位 『チェンジリング』(2008年)
1920年代のロサンゼルスで実際に起こった誘拐事件を元に作られた映画です。恐ろしいのは「息子が見つかったと知らされたが、明らかに別人の男の子になっていた」ということ。その後に突きつけられる真相はさらにおぞましく、言葉にならないほどの衝撃がありました。『グラン・トリノ』や『15時17分、パリ行き』のクリント・イーストウッド監督の職人芸も冴え渡っており、特に(後の展開を暗示する)“路面電車が走り去ってしまう”シークエンスは見事の一言です。
描かれているのは、子どもに会いたい、無事でいてほしい、なんとしてでも救い出して欲しいという“母の愛”。アクション映画が目立ちがちであったアンジェリナー・ジョリーの熱演が素晴らしく、特に前述の「息子が見つかったと知らされた」時の表情は、それだけで感動的です(その後に彼女が息子とは違う男の子を目にするのが辛い……)。終盤で彼女が繰り返し“問い正す”シーンは、もう涙なしでは観られないでしょう。
まとめ:監禁や失踪を扱った映画の是非について
監禁や失踪という痛ましい事件は、残念ながら現代においても世界中で度々起こっています。そして、実在の事件をモチーフにした作品、またはそれに類似した出来事を描いたフィクションの存在を知り、「不謹慎ではないか」「実際の事件で被害にあった方がさらに傷つくのではないか」と疑問の声が上がることも少なくはないようです(それは全くもって正常な反応です)。だからでこそ、そうした犯罪や許されざる行為を描いたテーマを扱うクリエイターは、細心の注意をもって作品作りに当たらなければならないでしょう。
筆者は、この記事で挙げたいずれの映画も、まったくもって監禁や失踪を美化するものではないこと、むしろ過去にこうした痛ましい事件があったからでこそ(あるいはこのような事件が起こりうる世の中だからこそ)、作り手が訴えたかった尊いメッセージがある、作り手が十分に配慮している作品ばかりである、と明言します。(18禁ホラーの『ホステル』でさえも!)
何より、どの映画も“大切な人がいなくなる”ことの悲しみや、“勝手な価値観により監禁すること”のおぞましさがしっかり描かれています。そこには、ワイドショーや新聞の記事だけでは伝わらないであろう、人間の強さや尊さ(または人間の愚かさや恐ろしさ)も見えるのです。それこそが、映画という媒体の持つ力なのではないでしょうか。
上記作品には観る人を選ぶ作品もありますが、娯楽性の高い『コロニア』や、母の強い愛が描かれた感動作『ルーム』や『チェンジリング』は万人におすすめできます。そして、監禁&失踪映画の新たな名作『ラブレス』と『ベルリン・シンドローム』は、“逃れられない空間”の映画館で観られる今こそ鑑賞してみるのが良いでしょう。ぜひこれらの作品を観て、“大切な人がすぐそばにいる”、“自由な世界にいる”ことのありがたさ、幸せを噛みしめてほしいです。
(文:ヒナタカ)
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