インタビュー

2019年02月05日

登坂広臣のイメージが「崩れてほしいなと思った」『雪の華』橋本光二郎監督インタビュー


登坂広臣のイメージが「崩れてほしいなと思った」『雪の華』橋本光二郎監督インタビュー


2003年に大ヒットし、冬を彩る名曲として今も愛されている中島美嘉さんの「雪の華」にインスパイアされた映画『雪の華』。


身体が弱く1年の余命宣告を受けながら、恋をすることとフィンランドで赤いオーロラを見ることを夢見る美雪(中条あやみ)が、ガラス工芸作家を目指す青年・悠輔(登坂広臣)に惹かれ、「100万円と引き換えに一か月間だけ恋人になってほしい」と持ちかけ、期間限定の恋人同士になった二人がフィンランドへの旅などを通して心を近づけていくラブストーリーです。

本作について、メガホンをとった橋本光二郎監督にお話を伺いました。





──本作は中島美嘉さんの歌う『雪の華』がモチーフになっていますが、監督自身は、この曲にどういうイメージをお持ちでしたか?

橋本光二郎監督(以下、橋本):曲のパブリックイメージでもあると思うんですけれど、切ない冬の恋の歌という印象を持っていました。中島美嘉さんの声の切なさのイメージが強くあってそう思っていたんですが、今回この仕事をすることになって、歌詞を改めて読みなおしてみると、決して悲しい何かを歌っているわけではなく、一人の人間の一途な思いみたいなものを切々と歌詞で書いていることに気づきました。

なので、ただただ切なく悲しい物語にするよりは、恋や愛の中にある温かさみたいなものがちゃんと見えるようにしたいと思いました。作品を通して二人の恋を見守り、最後まで見届けることによって温かい気持ちになってほしいなというのが、今回作っていて一番大きいところでした。




──今回、メインの二人を演じた中条あやみさん、登坂広臣さんとの仕事はいかがでしたか?



橋本:中条さんと登坂さんのキャスティングは、ほぼほぼ企画の当初から決まっていたのですが、非常に今をときめく、映画などの露出が多すぎない、すごくよいタイミングで両名に出てもらうことができました。

中条さんは、すごく綺麗なだけに、これまで感情面が求められるというよりもいわゆる綺麗な女の子の役柄が多かった気がしているんですけれど、今回は余命宣告を受けて恋に頑張るひとりの女の子の等身大の感じをすごく頑張って作り上げていってくれました。

登坂くんは、三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEの活動や『HiGH&LOW』などで、少しワイルドでコワモテなイメージがあったんですけれど、実際にお会いしてみると、すごく物事を冷静に考えている賢い方でした。とても気さくで、悠輔という人物像を作り上げていくにあたって、ものすごくいろいろと考えて提案をしてくれた。「こういう言い方はしないんじゃないか」というだけでなく、「悠輔だったらこういう言い方をすると思う」というところまでちゃんと提示してくれて、「真摯な方だな」と思いました。この二人が今一緒に出てもらえたというのが、これもまたひとつ大きな奇跡だなと思いますね。






──主人公の美雪は、余命宣告という悲しいものを背負っている一方で、ちょっとズレた発言でまわりを驚かせるようなコミカルな一面もありますが、彼女のキャラクターはどう膨らませていったのでしょうか?

橋本:美雪は病気を抱えていたせいで、恋をしたことがなく、たぶん学校もそんなに行けず、本来普通に暮らしていればできるはずのいろいろな人生経験をあまりできないままに育ってしまった女の子なんじゃないかと、中条さんとも話しました。

「100万円で恋人になってください」という場面など、あまり生っぽくなってしまうと、美雪が見ている人にとって近寄りがたい人間になってしまうんじゃないかと思ったんです。そうならないためのフォローの意味でも、見方によっては子供っぽく見える行動を起こしてしまうところが、美雪という女の子のかわいらしさのひとつに見えるようにと、中条さんと話し合って、実際、クランクインする前に、大事なシーンの何か所かを登坂さん含めみんなでリハーサルする中で、作り上げていきました。




──悠輔についてもお聞きしたいです。一見ぶっきらぼうだけど実は優しい青年…という彼のキャラクター性で意識されたことは?



橋本:登坂くんがもともと持っているイメージとはちょっと崩れてほしいなと思っていました。美雪が若干子供っぽく恋に突っ走っているわけですけれど、それを受けて翻弄される側の男の人として、鋭さだけでなく、見ている側、特に女性が「あ、この人かわいいな」って、思ってもらえるように。

悠輔は、最初のうちはみんな「怖い人だな」と感じると思うんです。けれど、怖い人が見せる一瞬一瞬のかわいさなどが積み重なることで、観ている人が徐々に悠輔というキャラクターを好きになっていく。そして、彼を好きになれるから、美雪の恋を一緒に応援してあげられる気持ちになってくれるんじゃないかなと。そういった意味でいうと、登坂さんにワイルドなイメージを持っている人たちがこの映画を通して、「こういう一面を持った人なんだ」と、登坂さんに出会いなおす形にもなってくれたらうれしいなと思います。






──本作では、美雪と悠輔が少しずつ距離を縮めていくのが映像でも伝わってきたのですが、この二人の距離感というのはかなりこだわって撮られたのでしょうか?

橋本:リアルなカメラを通して見たとき、「この人たちは付き合っていないな」「付き合ってないけど、ちょっと寄り添いたいなと思い始めてる」というのは、物理的な距離に現れると思ったので、そこはちゃんと意識しました。

二人の距離のある芝居が途中であるんですが、前半の芝居の過程では悠輔から近づくことはないんですね。基本的には美雪の側から「恋人になってください」「フィンランドに行きましょう」と距離を詰めていく。それが、やがて悠輔が初めて彼のほうから距離を詰めていくみたいな、二人の距離でそういったことが見てる人にも理屈じゃなく伝わるんじゃないかと思って撮っていきました。



──劇中では、二人が恋をしていく過程にかなり時間をかけていますよね。



橋本:そうですね。逆にいうと、この映画の中で、恋に落ちて愛が生まれる過程を描く以上のことを求められていなかった気がしていたんです。それがこの作品の特徴だと思うんですけれど、今は、映画にしろドラマにしろ複雑なものが多いと思うんですね。




恋愛だけじゃ成り立たないから、事件を抱えたり、キャラクターが暗い何かを抱えていたりと、ドラマが複雑化していく中で、今回はある突発的な出来事によって恋が始まって、最初は偽物だったのかもしれないけれど、時間を共有していく中で想いが高まって距離が縮んでいくという恋愛らしい時間の行程をきちんと描いた物語になりました。現場でも台本に書かれていること以上にいろいろと足して二人に演じていただき、丁寧にやれたことが楽しかったです。




──本作はシーンの半分をフィンランドで撮影されたとのことですが、フィンランドのロケについてはいかがでしたか?



橋本:寒かったです(笑)。でも、二人の芝居の背景となる風景の美しさなど、寒い場所に行ったからこそ撮れる絵というのがあって、映画にとってすごく大事な要素でもありました。この映画の中では、フィンランドの夏と冬の違いが面白いところだと思いますが、夏のフィンランドは、美雪が最も楽しい思い出の幸福に彩られた場所。実際夏のヘルシンキは色彩と緑にあふれた素敵な町で、その風景をバックにフィンランド旅行が繰り広げられます。

一方、美雪や悠輔の背景に広がっている冬のフィンランドは、美しいけれど、ただ甘やかなだけでない厳しさみたいなものをもっている。人生ってやっぱりそういうものじゃないですか。決して甘いものだけではない、厳しさの中に存在する美しさもあるし、厳しさを知ったからこそ感じられる人の思いもある。そういう意味での二つの局面を映すことができたのはすごく面白かったですね。



──フィンランドの場面と日本でのシーンと合わせて、劇中で一年の四季折々がしっかり描かれているのも印象的でした。

橋本:そうですね。『雪の華』の曲に代表される冬のシーズンは、物語の二人の出会いと最後の部分。美雪が余命を宣告されているということで、映画上で一年というラインを引いていますけれど、そのラインがあるからこそ彼女も頑張ったという部分があり、季節が移ろっていくという様は、彼女の死期が近づいていくということでもあるので、丁寧に描かなければいけないなと思いました。






──フィンランドということでいうと、映画の中に出てくる北欧の小物がすごくかわいらしいですよね。こちらもこだわって探されたんですか?



橋本:そうですね。美術部さんや装飾部さん含めてロケハンに行っている間に探してきてくれたり、ないものは作ってくれたりしました。我々映画スタッフは、けっこうおじさん揃いなんですけれど(笑)、若い女の子が見たときにもちゃんと魅力的に見えるように、細部まで気を遣いました。






──最後に映画を楽しみにしている方々に向けて、監督がこの作品を通して一番伝えたかったことを教えてください。



橋本:この映画の中で「声出してけよ、声」という一言があります。これってすごくベーシックなことだけれど意外とやれていないこと。やっぱり、みんな自分自身で引きこもって、なんとなく自分の枠だけで生きていってしまうと思うんです。けれど、たったひと言発した言葉によって、人生が大きく好転したり、好転しなくても半歩前進できたりするときがある。なので、もしもこの映画を観ていただいて、一歩踏み出すためのきっかけの勇気みたいなものになってくれたらうれしいなと思います。

(取材・文:田下愛)

(C)2019映画「雪の華」製作委員会

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