映画コラム

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2019年02月09日

『天才作家の妻 -40年目の真実-』は、現代社会に生きづらさを感じるあなたにオススメしたい

『天才作家の妻 -40年目の真実-』は、現代社会に生きづらさを感じるあなたにオススメしたい

■橋本淳の「おこがまシネマ」

どうも、橋本淳です。

27回目の更新となりました。今回もどうぞよろしくお願いします。

大人数の飲み会というのが、昔から苦手でして、なんとか避けられないかなぁと毎度思っているのです。しかし、皆さんご存知の通り、飲み会(付き合い)というものとは、なかなか距離を取りづらい。欠席という選択肢も、もちろん取ることは出来ますが、付き合いを大事にすることは必要で、その精神的葛藤に毎度苛まれます。

もちろん確率的に五分五分で、よしいこうと決断し、その飲み会(大人数の)に参加して、その会がとても有意義、もしくは楽しかった場合、これは結果的に最高です。しかし、中には予想通りツマラナイ、もしくは予想を遥かに下回る猛烈にひどい会もあるのです。

(わりと落ち着いている年齢のはずが)学生のような盛り上がり、品のない騒ぎが始まると、もちろんこちらは引き、黙するわけです。そうするとこちらには干渉してこないので、平和に過ごせる。ですが、例外というものはどこにでも付き物で、そんなことお構いなしに突っ込んでくる事故物件的な奴もいるのです。
「なんで黙ってるんすか〜?」と雑な絡みに、こちらはニコニコと対応。色んな雑な絡みは中略し、最終的には「静かなんですね」もしくは「優しいですね」という具合に運んでいく。しかし仮面を被ったこちらの心の中は、相手を罵倒する言葉でパンパンな状態。

誰も相手の気持ち、相手の境遇からなる本当の心情なんて読めないものです。

現代社会で生きづらい、そんなあなたに、黙し続けた妻を描いたこちらの映画をご紹介。

『天才作家の妻 -40年目の真実-』




(c)META FILM LONDON LIMITED 2017


主演のグレン・クローズがゴールデングローブ賞 主演女優賞を受賞し、本年度のアカデミー賞でも主演女優賞ノミネートされた、注目の作品。

早朝に現代文学で世界的に活躍している、ジョセフ・キャッスルマン(ジョナサン・ブライス)の元に電話が掛かってくる。スウェーデンからの国際電話。「今年のノーベル文学賞にあなたに決まりました」。その待ちに待った吉報を聞き、妻・ジョーン(グレン・クローズ)とともにジョセフは大喜びする。

授賞式に出席するために、夫婦と息子のデビッド(マックス・アイアンズ)は、スウェーデンのストックホルムへ向かう。息子のデビッドも作家であるが、偉大すぎる父親に劣等感を感じていた。ジョセフは舞い上がって落ち着かない。そんな夫にジョーンは辟易しながらも、しっかりと支えながら、タイトなスケジュールをこなしていく。

しかし夫の対応に疲れ、少し離れたジョーン。そこに現れるナサニエル・ボーン(クリスチャン・スレーター)。彼は記者であり、ジョセフの伝記本を書こうとして、夫妻のことを調べていた。

夫妻がどう出会ったのか、結婚後に夫の小説が飛躍的によくなった、など色々な質問を、投げかける。

そして「疲れませんか? 影として、彼の伝説をつくることに」と真に迫った質問をぶつけられる。ジョーンは、上手く切り返し、その場を後にする。しかし心中は落ち着かない。

夫が注目され、最高のスポットライトを浴びる中、ジョーンの複雑な感情が膨れ上がる。

ジョーンは、このまま影としてい続けるか、真実を告げ自分を取り戻すのか、そして物語は展開していく。



(c)META FILM LONDON LIMITED 2017


さまざまな評から予測はしていましたが、グレン・クローズの芝居が素晴らしい。台詞ではなく、旦那の後ろに居ながらも表情や雰囲気での表現が素晴らしい。丁寧であり繊細でありながら、大胆な人物造形は見事の一言です。

過去6回アカデミー賞に助演、主演でノミネートされ惜しくも受賞を逃しているグレン・クローズ。そういう実際のことも役に乗っている気がします。様々な葛藤を抱え、芯をしっかりと持った女性でありながら、黙してキッチリ語っている。そんな芝居を他に誰が出来るのか、と言わしめるほどの芝居でした。

今作は、「時代的に女性作家は栄冠に輝くことが難しく、夫のゴーストライターになり、最後は自分が書いた!と告白し衝撃を与え、彼女にスポットライトが当たる」みたいな単純な話ではないのが、いいのです!

2人は共に支え合い、生きている。愛し合っているから、関係がうまくいかないとお互いに失うものが大きい。愛する男性を失いたくない、幸せになって欲しいという思いから、ジョーンのように影に回る選択をする、という行動に出たことはとても共感できる、とグレン・グレースも語っている通り、とても普遍的なテーマであると感じられました。

この作品を、鑑賞する多くの人はジョーンに共感し、夫のジョセフを敵対するでしょう。そういう流れになっているのでそれは至極当然。(私も完全に、ジョーン言ったれ!目線で観ていました。笑)

しかし、ジョセフ目線でも見れる。というかジョセフの小さい男感、小者感がそういうキャラクター造形が絶妙にいいんです。授賞を聞いてから、元から口数が多く落ち着きのないジョセフがさらに欲望に対して、抑えられなくなる。お菓子を食べるのが止まらない、女性を口説きに走る、沸点が低くなる、など。

ただ単に、女性の自我の目覚めだけではない。作品全体のバランス感覚に、秀でた映画です。

もちろん、主演2人の演技合戦に、グレン・グレースとクリスチャン・スレーターのチェスの試合さながらのヒリヒリとした会話、など見事なシーンの、積み重ねがそうさせている大きな要素でも、あります。

妻の目線、夫の目線、意識してみると、鑑賞時の面白さがグンと上がるのではないでしょうか。是非!

それでは今回も、おこがましくも紹介させていただきました。

(文:橋本淳)

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