映画『ホットギミック』が今年の邦画ベスト1である「3つ」の理由!
(C) 相原実貴・小学館/2019「ホットギミック」製作委員会
人気少女コミックを原作に、本作が映画初主演となる、乃木坂46の堀未央奈をヒロインに迎えて実写化した『ホットギミック ガールミーツボーイ』が6月28日から全国公開された。
実はネットのレビューや感想でも、その評価が絶賛か、全否定かで完全に分かれてしまっている本作。
確かに予告編からは青春ラブストーリーの印象が強かっただけに、かなりの不安を抱きながらも、山戸結希監督作品への期待と共に鑑賞に臨んだのだが、果たしてその内容と出来はどうだったのか?
ストーリー
都内のマンションに住む女子高生・成田初(堀未央奈)は、ある日、妹の茜(桜田ひより)に頼まれて親に内緒で購入した妊娠検査キットを、同じマンションに住む橘亮輝(清水尋也)に知られてしまう。秘密を握られた初は、その日を境に亮輝の"奴隷"として、無茶な命令に振り回されることになる。そんな時、今や人気モデルとして活躍する、小学校時代の幼馴染の小田切梓(板垣瑞生)がマンションに帰ってくる。昔と変わらない梓の姿に初は心惹かれ、二人は遂に付き合うことに。だが、梓の本当の目的を知って深く傷ついた初を支えてくれたのは、実の兄の凌(間宮祥太朗)だった。
3人の男性との恋に揺れ動きながら、最後に彼女が見出した本当の気持ちとは?
予告編
理由1:OPタイトル登場までの10分間が既に凄い!
人気コミックの実写化ながら、決して原作に登場するキャラクターのイメージに囚われることなく、独自の映像美や様々な手法により、更に濃密な人間ドラマが描かれる本作。
それだけに、過去にあった様な少女コミックの実写化作品のつもりで観に行くと、かなり好き嫌いが分かれる内容になっている点は否定できない。
事実、冒頭でも触れた通り、本作への観客の評価は、見事に真っ二つに割れているからだ。
2016年に公開された監督作『溺れるナイフ』でも、非常にその評価が分かれた山戸結希監督だが、彼女の才能が溢れんばかりに盛り込まれた本作こそ、正に彼女が本当に描きたかった世界と言えるだろう。
(C) 相原実貴・小学館/2019「ホットギミック」製作委員会
中でも印象的だったのが、映画のOPからタイトルが出るまでの長い間、全く映画の流れが止まらないという点!
実はBGMや登場人物の動きはもちろん、映画全体が流れる様に動き続けながら、その中で主要な登場人物の紹介と人間関係の説明が展開するのを観た時点で、既に傑作の予感しかしなかった本作。
絶賛か、それとも全否定か? その判定は、是非ご自分の目で確かめて頂ければと思う。
理由2:実は重いテーマと際どい描写が満載!
人気少女コミックの実写化作品と聞いて、過去の類似作品の印象から劇場での鑑賞をスルーしようと考えている方も多いかもしれないが、是非劇場に足を運ぶことを強くオススメする。
確かに原作が12巻に及ぶ長編のため、映画では亮輝の家庭教師や、初たち3人の小学校時代のエピソードが登場しないなど、人物関係やエピソードがかなり整理されている本作。
その他にも細かい設定に変更はあるが、ほぼ原作コミックに忠実に展開する中で、初の妹(中学生)の妊娠騒ぎや、暴行未遂に不倫など、少女コミックとしては非常に攻めた内容の原作の設定から決して逃げず、むしろより際どく現実的に描こうとした山戸監督の選択は、今回見事に成功している。
(C) 相原実貴・小学館/2019「ホットギミック」製作委員会
確かに、予告編や原作コミックのキャラクターのイメージを期待した観客には、少なからず違和感を与え、必ずしもメインの観客層向けの内容では無かったかもしれない本作。
ただ、過去に公開された人気コミックの実写化作品に少なからず感じた、生身の人間が原作コミックのキャラクターに外見や演技を寄せることへの違和感や拒否反応に対して、今回の演出やキャスティングへのこだわりは、一つの回答を示したと言えるだろう。
登場キャラクターの絵柄によって、原作コミックではかなりマイルドに感じられた内容を、映画独自のキャスティングにより、現実的な生身の高校生たちの物語へと変貌させた点は、絶対に評価すべき!
高校生の恋愛を描く青春ラブストーリーと見せて、実はかなり際どい描写と独特の映像美が登場する、その衝撃的な内容は是非劇場で!
(C) 相原実貴・小学館/2019「ホットギミック」製作委員会
理由3:出演キャスト陣が魅力的!
今回の出演キャスト陣の演技に対しても、実は観た人によって完全に意見が分かれてしまっている本作。
否定評については敢えて書かないが、彼らの演技に対する絶賛評の中でも目立ったのが、「間宮祥太朗がヤバい!」という意見だった。
確かに、実の妹である初への秘めた想いを抱きつつ、一線を越えるか越えないか、ギリギリの危うい関係のままで漂う様なその存在感は、内に秘めた衝動を無理やり抑え込んでいることが観客にも伝わってくる、素晴らしいものとなっている。
(C) 相原実貴・小学館/2019「ホットギミック」製作委員会
だが本作で特筆すべきなのは、やはりヒロインの初を演じる堀未央奈の遠くを見る様な眼差しと、その透明感溢れる佇まいだろう。
下手に演じてしまうと、3人の男の間をフラフラと立ち回って惑わせるだけの"単にイヤな女"に見えてしまうところを、充分に観客に納得させる自然な演技と存在感は、今回が映画初主演とは思えないほど!
その他にも、原作コミックとは違った暗い印象ながら、ストーリーが進行するにつれて、どんどん人間的魅力を増していく清水尋也や、奔放な妹を演じる桜田ひより、そしてワンポイント出演ながら非常に印象に残る吉岡里帆など、普段の出演作品のイメージとは違う役柄に挑戦する彼らの姿には、今後の更なる活躍を期待せずにはいられなかった。
確かに独特のセリフ回しや複雑な人間関係が、作品世界に入り込むためのノイズとなることも充分理解できる本作。
とはいえ、原作コミックと映画版とは本来別物であり、観た人の評価が大きく分かれる作品ほど、実は傑作だったりするのも事実なのだ。
記事のタイトルにも書いた通り、個人的には今年の邦画ベスト1だった本作。果たしてあなたは、どのような感想を持たれるだろうか?
最後に
いや、これは久々に面白かった!
全12巻にわたる原作コミックのストーリーに沿いながら、独自の映像美と実験的手法を用いて、山戸監督が最後まで全力で突っ走ったかの様なその内容が、文字通り観客をねじ伏せる程の力強さに満ちていたからだ。
(C) 相原実貴・小学館/2019「ホットギミック」製作委員会
ただその反面、独特なセリフ回しや登場人物たちの距離感、そして単なる優柔不断と感じる方も多いかもしれないヒロインの性格や行動など、確かに観客の好みによっては、かなりの拒否反応を起こすのも充分理解できる本作。
だが、原作コミックの絵柄でかなり中和されていた、その重く際どい内容を、更に現実的で生々しいものとして描きながら最終的に青春ラブストーリーへと着地させるその展開に、完全に圧倒されてしまったのも事実。
「バカになりたい、バカでいいんだ!」
ヒロインのセリフに象徴される、単純だが確実に人生の真理を突いたその結論に対し、果たして観客が納得・共感できるかどうか? 本作の評価はそこにかかっていると言えるだろう。
昨年公開された『リバーズ・エッジ』、更に今年公開されて現在も続映中の『愛がなんだ』の世界にハマった方にこそ、全力でオススメします!
(文:滝口アキラ)
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