『犬どろぼう完全計画』に大人も共感!家族で楽しめる「3つ」の見どころ





第3回:『犬どろぼう完全計画

全国的に映画館が長期休館に入り、劇場での新作映画鑑賞ができない現在、ご自宅やスマホで配信作品を楽しんでいる方も多いと思います。

確かに、外出せずに観られる配信作品は便利なのですが、さすがにこれだけ長期化すると、どの映画を観たらいいのか? 作品選びに頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。

そんな方たちのために、Amazonプライム・ビデオで鑑賞可能な韓国映画の中から、特にオススメの作品を紹介する、この連載。

今回取り上げるのは、2015年に日本公開された韓国映画『犬どろぼう完全計画』です。

同名の海外児童文学を原作に、舞台を韓国に置き換えて映画化した本作は、子供だけでなく大人も感動・共感できる内容になっています。

その魅力と見どころとは、果たしてどのようなものなのでしょうか?

ストーリー


ピザ屋を経営していた父親が行方不明になってしまった小学生のジソ(イ・レ)は、母親のジョンヒョン(カン・ヘジョン)、弟のジソクと共に家を追い出され、ピザ屋のライトバンで車中生活を送る毎日。
目前に迫る自分の誕生日のパーティーを、我が家で盛大に開けないことを嘆くジソは、不動産屋で見た坪単価500万ウォン(日本円で約50万円)の家のチラシを誤解して、500万ウォンで一軒家が買えると思い込んでしまう。
たまたま町で、報奨金500万ウォンの迷い犬探しの張り紙を見たジソは、これで家が買えると連絡先に電話するが、すでに犬は見つかったあと。
そこでジソは頼りになる友達と共に、ジョンヒョンが働いていたレストランの経営者であるマダム(キム・ヘジャ)の飼い犬を誘拐し、彼女に返して謝礼の500万ウォンを手に入れる計画を立てるのだが…。


見どころ1:半地下よりも厳しい暮らしが描かれる!



ピザ屋の経営に失敗した父親の失踪で我が家を失い、母子3人、電気も水道もない車上生活を送っている小学生のジソ。

そんな彼女が自分の誕生日パーティーを開く家を手に入れるため、親友の女の子や大人を巻き込んで、金持ちの飼い犬の誘拐を計画! 後で自分が見つけたように持ち主に返して報酬を得ようとするのだが…。



このあらすじだけ聞くと、まるで映画『パラサイト 半地下の家族』のような展開を連想してしまうのですが、原作が有名な海外児童文学なので、当然ながら殺人が起きたり悲劇的な結末には至りませんので、ご安心を!

本作で描かれるのは、確かに半地下の部屋よりも更に厳しい車上生活の親子の姿ですが、同時に主人公の小学生・ジソの成長や、親友の女の子との友情・冒険が、子供の視点から描かれることになります。

とはいえ、そこに描かれている貧富の差や格差社会の厳しさは、『パラサイト 半地下の家族』に通じる部分があるのも事実。

例えば、電気が無い車内で家族3人が頭にライトをバンドで巻いて夕食の宅配ピザを食べる描写や、駐車場の洗面所で髪を洗うジョンヒョンの姿など、子供の目を通して描かれるその生活は、観客の目にも実に厳しいと思えるもの。

ただ映画の中では、ジソの父親はピザ屋の経営に失敗して借金を負ったせいで失踪中、母親は自分で料理を作ったことが無いとセリフで説明されており、ジソが通う小学校も裕福な家庭の子供たちが通う学校らしく、将来のために今の学校は辞めさせられないと母親が言っていることからも、車上生活に入る以前のジソ一家が、実は結構裕福な生活を送っていたことが伺えるのです。

ところが、父親の失踪により1ヶ月前に自宅や家財を差し押さえられ、現在はピザ屋のライトバンで車上生活を余儀なくされることに。

それまで働いた経験のない母親は、生活のために早朝から必死に働くのですが、自分の誕生日パーティーを家で開くことが最優先で、家の無い貧しい暮らしに不満ばかりのジソは、母親の苦労や深い愛情に気づくことができません。

こうした先の見えない状況の中、犬どろぼう計画を通じて知り合ったホームレスのおじさんや、レストラン経営者のマダムとの触れ合いを通して、ジソたち家族の和解と再生が描かれていくことになる本作。

その感動的な結末は、ぜひご自分の目でご確認頂ければと思います。

見どころ2:子役たちの演技が凄い!



決してセリフに頼らず、細かい描写の積み重ねでジソの暮らしぶりを理解させる演出が、非常に上手いと感じさせる本作。

児童文学の映画化とはいえ、小学生の子供の間にも格差が存在するなど、韓国の現実を反映した内容にアレンジされている本作ですが、同時に貧富の差や格差に左右されない子供たちの友情が描かれる点は、現実社会の厳しさに救いや希望を与えてくれるものとなっているのです。

例えば映画の冒頭、親友の女の子に自分が車上生活を送っていることを知られ、ごまかしきれずに泣いてしまったり、「私といると恥をかくよ。友達やめたとしても、恨まないから安心して」と親友に告げるジソの姿は、大人も感情移入ぜずにはいられないほど。

こうした現実の厳しさを和らげて物語に説得力を与えてくれるのが、何といっても子役たちの自然な表情と抜群の演技力!

今までの生活とは正反対の貧しい暮らしに、終始眉間にシワをよせた表情の主人公・ジソを演じるイ・レの演技は、もちろん大人顔負けなのですが、それ以外にも頼りになる彼女の親友や、一見抜けているように見えて実は鋭い意見を言う弟のジソクなど、本作の子役たちの名演はどれも必見!

加えて、ジソたちの標的となる犬のウォーリーの演技も素晴らしく、ジソたちの計画が果たして成功するのか? 最後まで観客をハラハラさせる名演を見せてくれるので、こちらもぜひお見逃しなく!

見どころ3:登場人物たちの成長に泣ける!



映画の冒頭で引用されるイソップ童話「ウサギとカエル」に象徴されるように、本作の登場人物は皆、過去の出来事に囚われていて、そのために自分が世界で一番不幸だと思っています。

家の無い生活を恥ずかしく思うジソはもちろんのこと、母親のジョンヒョンもジソを自分に反抗的な娘と思っていますし、レストラン経営者のマダムも、過去に自分の息子と仲たがいしてしまったことで、他人を信用できずにいるのです。

更に、マダムの甥も遺産に目がくらんでいて、彼女の本当の気持ちや寂しさを理解できず、実はホームレスのおじさんも、自分の娘や家族に向き合うことから逃げているなど、誰もが問題を抱えて人生に行き詰った状態にあることが描かれる本作。

そんな人々がジソの誘拐計画に巻き込まれることで、皆が成長して新たな人間関係を築いていく展開が、冒頭の「ウサギとカエル」のお話の教訓と一致する点も、実に見事なのです。

例えば、子供たちのために料理を作ったことが無かったジョンヒョンは、生活のために早朝からお弁当詰めのアルバイトに出かけるのですが、仕事中それまで履いていた派手な靴ではなく普通の靴に履き替える描写で、彼女の心境の変化が観客にもビジュアルで理解できることになります。

こうした今までとは正反対の厳しい暮らしの中で、ジョンヒョン自身も次第に母親として子供たちと向き合うようになっていくのですが、自分の誕生日パーティーのことばかり考えているジソには、そんな母親の想いや苦労が見えなくなっているのです。

ある夜、激しい言い争いになり、ついに車を飛び出してしまうジソ。そんな家族の危機を救ったのは、失踪した父親が残したあるメッセージでした。

他の靴は生活のために全て売ってしまったのに、なぜ派手な靴を1足だけ残して履き続けているのか? そして、なぜジョンヒョンがピザ屋のライトバンでの生活を続けるのか? その理由と母親の想いをジソが理解し、この家族の関係を失踪した父親の存在が繋ぎとめる展開は必見!

子供に対する大人たちの優しい眼差しと、逆に子供たちから勇気付けられて、縛られていた過去から一歩踏み出す勇気を貰う大人たちの姿が描かれる、この『犬どろぼう完全計画』。

自粛中のストレスを洗い流してくれる作品なので、ぜひこの機会にご鑑賞頂ければと思います。

最後に



海外児童文学の映画化と聞くと、きっと子供向けの内容なのでは? そう思ってしまいがちですが、ここまで紹介してきたように、韓国の厳しい格差社会を子供の目から描いた感動作に仕上がっている、この『犬どろぼう完全計画』。

殺人や復讐、ラブストーリーだけではない、韓国映画の奥深さを証明する作品としてユーザーの評価も高い本作は、子役たちや犬の名演技に泣かされ笑わされながら、最終的に登場人物全員が家族と向き合い、和解・再スタートを切るという、お家で家族揃って楽しむには最適な内容になっています。

例えば、ジョンヒョンが1足だけ残した派手な靴に隠された秘密や、彼女が二人の子供を抱えながらピザ屋のライトバンでの生活を続ける理由など、後への伏線が家族の強い絆や深い愛情へと回収されていく展開は、観て良かった! そう観客に思わせてくれるのです。

中でも観客の胸を打つのは、ジソの誕生日にジョンヒョンが贈ったプレゼントでしょう。そこには彼女が母親として成長した証に加えて、"家"とは決して他人に自慢できる立派な建物のことではなく、家族が笑って暮らせる場所ならば、どこであろうとそこが"家"になるのだ、そんな家族の本質が込められているからです。

決して自分だけが世界一不幸なのではない。

映画の冒頭で登場するイソップ童話「ウサギとカエル」の教訓が示すように、自分が世界一不幸だと思っていた少女が、犬どろぼう騒動の中で周囲の人々の境遇や母親の愛情に気づき、やがて家族の本質を理解するまでに成長する物語は、大人が観ても素直に感動できる素晴らしいものとなっているのです。

長期の休校でお子さんが家にいる今だからこそ、ぜひ親子で一緒に鑑賞して頂きたい作品なので、全力でオススメします!

(文:滝口アキラ)

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