『ばるぼら』レビュー:色気、そしてエロスとは何か?異常性欲を抱える主人公と不思議な女の結末は…
どうも、橋本淳です。
70回目の更新、よろしくお願いいたします。
12月に入り、一段と寒さが増してきましたが、皆様はいかがお過ごしでしょうか?この連載も2020年は残り2回の更新となりました。早いものですね。
2020年は自分と向き合う時間が多く持てました。思ったり考えたりボーっとしたり、まぁ色々ですが。
ふと色気とは何ぞやと思いを馳せる。
「色気があるねぇ」
と、自分が言ったり、他人が言うのを耳にすることはあれど、その基準とは何なのでしょう。
当然色気に数値がある訳でもないので、人それぞれの価値観なのでしょうが、不思議な要素です。
持って生まれるものなのか、はたまた何かの拍子で身につくものなのか。わたしも出来れば欲しいものです。
そして、その色気は人だけでなく、モノにもそれは当てはまります。絵画や写真、さまざまな芸術作品からも個人的にはそれを感じ取れる。
その場合、色気というよりはエロスといったほうが馴染むかもしれません。
そのエロスが芸術として昇華すると、美として表現されて、さらに輝き、美しくなる。その美しさが芸術を支えているひとつの要素なのかもしれません。
そうした昇華した美を目の当たりにすると、息を飲むように魅入ってしまう。その感動はなにものにも変えられない財産になり、人生に光をもたらしてもらえるような心地になります。
大袈裟に感じてしまいますが、芸術にはそのようなチカラがあると、信じていますし、実感しています。
今回もそんな素晴らしい作品に出会いました。
それでは、コチラをご紹介します。
『ばるぼら』
人気小説家である美倉洋介(稲垣吾郎)は、地位と名声を手にしていた。しかし彼は、どこか物足りない日々を過ごし、世間が求めるものと、自身が追い求めるものの違いに違和感を感じ、そして悩みを抱えていた。
異常性欲を抱える彼は、街のショーウィンドウに並ぶマネキンや、犬にさえも、幻覚を見てしまい欲情してしまう。
ある夜、街の暗がりに、汚れたコートを身にまとい、酒にまみれた女(二階堂ふみ)が酔い潰れ横たわっている。そこを美倉が通りかかり、足を止め、思いがけず女を家に連れ帰る。女は、ばるぼらと名乗った。
ばるぼらが、居るようになってから、美倉は創作意欲が不思議と湧き上がり筆が進むようになる。
酒を片手にふらふらと彷徨うばるぼら。ふわふわと漂う、天真爛漫で不思議な存在の彼女のお陰か、美倉は次々と文章を創り出す。
そしていつしか、2人はお互いにお互いを求め、離れることが出来なくなる。結婚を誓うが、結婚式までいくが、2人を引き裂くように中断されてしまう。
美倉の元から、忽然と姿を消してしまったばるぼら。ミューズを失った美倉は、生きる気力も失いボロボロに堕ちていくが、突如、二人は再会する。そして2人は逃避行を企てるが。
手塚治虫の原作を、実子の手塚眞監督により映画化した注目作。
観賞後は、余韻に浸り続けました。芸術的な作品でこれが邦画ということを忘れてしまいます。
カメラマンは、世界的に活躍しているクリストファー・ドイル。
各シーン、各カット全てが美しい!
どこを切り取っても絵画のような作品で、呼吸を忘れてしまいます。光の加減、色合い、奥行き、陰影、素晴らしさに溢れているシーンばかりで100分という尺があっという間に過ぎていく。
終わった後も、夢から醒めきらないような不思議な感覚でした。
キャストは、稲垣吾郎さんと二階堂ふみさんをメインとしてそれぞれが盤石の布陣。
メインお二人は特に、それぞれの魅力がふんだんに盛り込まれています。色気、雰囲気、質感、そして何より印象深いのはそれぞれの"余白"の部分。2人の人物の見えない部分の表現のバランスが見事でした。
人間誰しも、分からない部分は必ずあり、そこをとてもリアルにそして魅力的に演じあげるのは至難の技。多面的に創り上げたそれぞれの役が、美しい世界の中で、縦横無尽に光を放っていました。
街並みも"新宿"と具体的に出しているものの、どこかアジアのようにも感じたり、シーンによってはヨーロッパのようにも見えたりする。具体から抽象への飛びかたもシームレスで、観るものを自然に誘ってもらえるので、不条理だとしても、それが違和感なくリアルに没入できる。
世界基準のアート邦画といっても過言ではなく、日本映画の神髄を感じました。
兎にも角にも、"美しい"。
言葉では表せないない感情に、コラムを書く難しさに、わたしはいまぶち当たっていますが、ぜひ皆様にも共有したく、この作品をご紹介させていただきました。
芸術を全身で感じてほしい。
そう思うからこそ、この映画をオススメします。
それでは、今回も、おこがましくも紹介させていただきました。
(文:橋本淳)
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