『100日間生きたワニ』の「本当に信頼できる」感想・解説記事12選|〜ネットいじめと批判の違いとは〜
映画『100日間生きたワニ』において、「レビューサイトの荒らし」や「予約システムで遊ぶ迷惑行為」が横行した。
このことについては、自身が苛烈な誹謗中傷を受けたスマイリーキクチさんも「業務妨害罪になるかもしれません」「『ノリ』と『空気』は凶暴化します。“こいつには何をやってもいい”と決めつけた群衆ほど怖いものはない」と警鐘を鳴らしている。
映画のレビューに中傷を書いたり、イタズラで座席を予約して、キャンセルして遊ぶと業務妨害罪になるかもしれません。
『ノリ』と『空気』は凶暴化します。
“こいつには何をやってもいい”と決めつけた群衆ほど怖いものはない。
みんなもやっているから、自分もやる。
この考え方を捨てましょう。 — スマイリーキクチ (@smiley_kikuchi) July 8, 2021
まさにその通り、映画『100日間生きたワニ』への異常なバッシングムードは、苛烈なネットいじめと化していた。それだけでなく、ネット上での同作を褒めた感想には「いくら積まれたんですか?」「またステマか」など、「賞賛の意見はカネをもらっている」と決めつけのコメントが届くのも「当たり前」になっていた(上田慎一郎監督は「そういうのは一切ありません!」とTwitterで強く訴えている)。
だが、その悪意に満ちた空気は変わってきた。そのことについては別媒体のこちらの記事にも書いたので、ぜひ合わせて読んでいただきたい↓
映画『100日間生きたワニ』叩きやすいものを叩いて嘲笑うネットいじめへの激しい怒り | bizSPA!フレッシュ
そして、通常であれば映画を観る際の参考になり、観た後に意見を交わす場であるレビューサイトでの荒らしは、誠実な批評をも貶める行為であり、その点数も信頼できない状況になってしまっている。
そのため、ここでは個人のブログなどのレビュー記事をリンクで掲載してまとめ、それぞれについて簡潔に紹介する。肯定的にせよ批判的にせよ、誠実に感想や解説を書いている方が多かったからだ。ぜひ、読み応えのあるこれらの記事をチェックし、映画と合わせて楽しむか、または観る前の参考にしてみてほしい。
注意点
・以下の記事は全て掲載の許可をいただいている・記事タイトルをクリックすると外部の記事に飛ぶ
・順不同での紹介である
・記事執筆者のTwitterアカウントへのリンクも貼っている
・記事内に書かれていた内容から「一言の評価」も抜粋した
・ネタバレの記述の注意も記している
肯定的でも批判的でも、「信頼できる」レビュー記事12選
その1:
『100日間生きたワニ』の感想|品田遊(ダ・ヴィンチ・恐山)|note
執筆者:品田遊(ダ・ヴィンチ・恐山)さん 記事内で拾えた一言評価:良い映画だと思った
※人にもよるが、ごく小さなネタバレがあると言えるので注意
まずは、大反響を呼んだこちらの記事から。
「巷に溢れている悪評と比較して自分はどうだったのか? 」という趣旨で書かれており、
①100ワニは「紙芝居」なのか
②100ワニは「テンポが悪い」のか
③100ワニは「作画崩壊」なのか
④100ワニは「オリキャラがウザい」のか
⑤100ワニは「即席の手抜き映画」なのか
について、1つ1つ丁寧に答えられている。
最後の「自分自身を『その他大勢』に押し込めるような生き方からいつか脱してほしいと思う」という意見に、筆者も大いに同意する。
なお、品田遊さんはYouTubeの動画(音声)レビューも投稿されている。
その2:
目を曇らされるな!『100ワニを観た感想』 - 地獄八景亡者戯の小説 - pixiv
執筆者:えごしPさん記事内で拾えた一言評価:60点
※記事の途中から大きなネタバレ注意!(警告あり)
1万4000字を超える力作。全くの見当違いと思った指摘に対して「『玄米は白くないし精米に比べて食感が硬い』みたいな言い分」とズバッと答える様が気持ちいい。「(映画館で観る際は)後部座席の真ん中の方での視聴をお勧めする」「要はワニは原作ファン向けのアニメである」「『手抜き作画』では断じてない。ただ単純に原作に忠実であるだけ」という理由もなるほどと納得できた。後半からはネタバレ全開で、賛否両論を呼んだ映画オリジナルキャラのカエルについて、的確かつ奥深い分析をしている。
その3:
映画『100日間生きたワニ』ネタバレ感想&評価 ボロクソ言うほどではないが、普通の凡作ではないでしょうか - 物語る亀
執筆者:物語るカメ@井中カエルさん記事内で拾えた一言評価:普通の駄作寄りの凡作
※ネタバレはほぼなし
かなり批判よりのレビューも紹介しよう。先程は「『手抜き作画』では断じてない」という意見も紹介したが、こちらでは「よく言えば作画枚数を減らす工夫、悪く言えば手抜きがあまりにも多すぎた」「アニメーションの絵の作りに関しては何も面白くない」などと、アニメ映画を良く観るライターとしての手厳しい意見を記している。筆者個人の主観も含むが、本作のアニメの表現における「紙芝居」「作画崩壊」などの意見は、映画を実際に観た身として、的外れ、または極端すぎると言えるものであった。だが、これらの物語る亀さんの意見は、納得できる。昨今のクオリティの高いアニメ映画における美麗な絵や、よく動く作画とは、全く違う性質を持っているだけに、これらの意見は否定できないのである。個人的にも「そもそも映画に向かない題材」であることは同意するし、「日常をアニメで描くこと(それを伝えること)の難しさ」は、確かに思い知らされた作品だった。
その4:
MAD CINEMAX -ムービー・ロード- - 【第66回】★100日間生きたワニ
執筆者:浦切三語@アマチュア小説家さん記事内で拾えた一言評価:普通に鑑賞に耐えられるだけの佳作・良作映画
※途中から重大なネタバレがあるので注意!(初めから警告あり)
「『画面を行き渡る情報量を爆上げしたアニメーション』の対岸に位置する」魅力について、見事な評論を書き上げた記事。「『意味のある余白』として成立させているために、たしかにこれは『映画』となっている」という意見に膝を打った。なお、執筆者の浦切三語さんによると「阿部和重さんや伊藤計劃さんの映画時評に強い影響を受けており、『読み物として』の映画レビューはちょっと上から目線で書いた方が面白いという持論があるため、あえて『偉そうな書き方』をしている」とのこと。決して読み手を煽る意図はないとのことなので、それも意識して読んでみてほしい。
その5:
ゆっくり映画レビュー#120『100日間生きたワニ』 - YouTube
動画製作者:ヨッシー/映画当たり屋CHさん記事内で拾えた一言評価:トータルの評価としては微妙なところ
※後半からそれなりのネタバレがあるので注意(警告あり)
動画のレビューも紹介する。対話式の解説で人気を博しているチャンネルで、「当たり屋」と名乗っている通りヤバそうな映画も積極的に観に行っているのだが、実際は観てからしっかり作品の良し悪しについて誠実に語られている。今回は原作のプロモーションの炎上に触れ、レビューサイトでの荒らしにも苦言を呈した上で、「あの原作を映画にするという点ではある程度まとめ上げていたとは思う」「ちゃんと良いところもあるし僕は全然嫌いではない」と主観的かつ建設的な意見を述べている。ただ「ここまでコスパの悪さが誰の目にも明らかな映画は滅多にない」という意見は、とても厳しい。
その6:
映画『100日間生きたワニ』大傑作!とりあえず観ろ!! 評価&感想【No.626】 - KOUTAの映画DASH!!
執筆者:KOUTA@映画ブログさん記事内で拾えた一言評価:10/10
※途中から大きなネタバレがあるので注意!
「かなり好き嫌いは分かれる」という記述も含みながらも、大絶賛派の意見を記している。「Twitterの場合『100日後に死ぬワニの運命を描いた作品』ならば、映画に関しては『100日間の平凡な生活を描いた作品』ととらえている」という意見はとても納得できた。Twitterと映画という媒体の違いによる表現方法も的確に書かれている。「亡くなった高校の友人」と劇中のキャラが似ていたからこそ、より共感したという意見も「わかる」方はきっといるだろう。
その7:
喪失とその後を描いた再構成作品!『100日間生きたワニ』良かった! - 絶対SIMPLE主義
執筆者:ラー油/Vゲームブロガーらあゆちゃんさん記事内で拾えた一言評価:絶賛するほどではないけど(中略)面白かったよ
※人によるが、それなりのネタバレもあると言えるので注意
特に共感できたのは、「本当にどうでもいいようなダラッとした会話の繰り返しで、キャラの内面を静かに積み上げていく。アニメではなく邦画な作りを目指したそうで、これはよほど画に自信ないとできない」という記述。「音響」のこだわりについても「それは気づかなかった!」という目から鱗の意見がある。「(一見すると簡素な作りのアニメに見えるかもしれないが)決して手を抜いて作られた作品じゃない」主張が伝わってきた。それでいて、「『間の取り方が良い』と感じるか『間が過剰過ぎて退屈』と感じるかで好き嫌いハッキリ分かれるだろう」という、中立的な意見も述べられている。
その8:
アンチを粉砕する映画感想『100日間生きたワニ』 | 映画にわか
執筆者:映画にわか(bot)さん記事内で拾えた一言評価:素直におもしろい!
※人によるが、少しだけネタバレと言える記述もあるので注意
「毒舌気味でユーモア満載の小気味いい文章」で笑いたいならぜひ読んでほしい記事だ。口調はかなり乱暴だが、実は独自の視点と、豊富な知識で真っ当に語られている。「紙芝居とか揶揄する声もあるようですが基本的に引き算の作り」という意見にも納得だ。そして「おまけ」として、
Q.紙芝居じゃんw
Q.60分しかないのに通常料金1900円とかボッタクリじゃんw
Q.所詮電通でしょw
という散々な意見にも、それぞれ辛辣すぎる締めで返している。これもまたネットいじめだと思われる方もいるかもしれないが、筆者はそうは思わない。確かに言葉そのものは激烈だが、特定の個人や作品ではなく、悪意(のあるコメント)そのものへのの批判であるからだ。なお、コメント欄では「そもそも電通案件じゃない」ことについての議論が記されている。
その9:
【ネタバレ考察】『100日間生きたワニ』名もなきワニ、二度死ぬ チェ・ブンブンのティーマ
執筆者:che bunbun@映画の伝道師さん記事内で拾えた一言評価:40点
※それなりのネタバレがあるので注意(警告あり)
「奇妙な映画」であることを前提としつつ、「未来が見えない若者のモラトリアムな日常が小っ恥ずかしくなる程に眼前に並べられる。そうです、本作は名もなき者たちの肖像画なのである」という論調が面白い。マニアックな映画に詳しい執筆者ならではの視点で、ビアトリクス・ポターの「のねずみチュウチュウおくさんのおはなし」や映画『劇場版3D あたしンち 情熱のちょ〜超能力♪ 母大暴走!』との類似点について記しているのは、この記事だけだろう。総じて「惜しい」という素直な感想も伝わってくる。
その10:
これは再生の物語。【100日間生きたワニ感想】 - りっとの部屋
執筆者:りっと。さん記事内で拾えた一言評価:自分で映画館で噛んでみて正解だった
※人にもよるが、それなりにネタバレと言える記述もあるので注意
「正直、乗り気ではなかった」導入から、ネット上にさんざん溢れた意見である
・紙芝居レビューについて
・オリジナルキャラクターカエルについて
・作画崩壊について
などに丁寧な回答をしている。特に「上田慎一郎監督の作品では「再生」が共通している」という意見が面白い。この方は「『カメラを止めるな!』に人生をグイっと変えられたっていう話」を綴った記事でも上田監督や映画への愛情もわかるので、ぜひ読んでみてほしい。
その11:
映画『100日間生きたワニ』感想。「死ぬ」から「生きた」にタイトルを変えた意味を考えたい。 - 社会の独房から
執筆者:社畜のよーださん記事内で拾えた一言評価:ネットで叩かれるほど酷い内容では決してない
※大いにネタバレ注意(警告あり)
冒頭の赤字部分である「同じ1900円払うならハサウェイとかシンエヴァとかゴジラVSコングとかをオススメしたいし、親が『この映画観に行こうと思う』って言ったら『本当に良いの?』って聞くと思う」という記述から、なかなか辛辣な記事だ。中盤のネタバレ解説はとてもまともだが、最後に書かれている、原作の『100日後に死ぬワニ』から映画の『100日間生きたワニ』へとタイトルが変わった意味の解釈が独特すぎてすごかった(褒めている)。
その12:
映画『100日間生きたワニ』がとても丁寧な青春映画だった話。 - 廣島城天守閣
執筆者:an_shidaさん記事内で拾えた一言評価:何も知らない人が観たら「なんかよかった」と言ってもらえるような佳品
※途中から大いにネタバレがあるので注意!(警告あり)
冒頭の「『青春映画』や『邦画』『文芸映画』というジャンルになじみがないと意味が分からないのかもしれないとも思った」「『つまらなかった』と言うのは自由だけど、見方を変えることで楽しめる幅が広がったらそれは受け手にとっていいことなんじゃないかと思った」などの記述から、書き手の真摯な姿勢が伝わってくる記事だ。
①最低の駄作ではない
②非常に細かく編み込まれたストーリー(青春映画)だ
という軸を提示しながらも、ネタバレで内容を深く鋭く解説されている。執筆者が語っているように、この記事を読んだ方が、本作に限らず、楽しめるものが増えると嬉しく思う。
まとめその1:賛否両論だが共通点もある
こうして多数の映画『100日間生きたワニ』への感想・解説をまとめてみると、多種多様な意見があり、賛否両論でもあるが、その一方で共通点もあると思えた。それは、往々にして「決して全否定されたり無闇やたらに酷評されるような内容じゃない」ということ。そして、この記事の初めに掲げた「異常なバッシングムードやネットいじめ(ほぼほぼ犯罪行為)を批判している」ことだ。それでいて、ネット上の苛烈な反応に惑わされることなく、それぞれの意見を、ご自身の正直な気持ちのまま綴られているように思う。
筆者個人の主観であり、ざっくりした印象で恐縮だが、こうして、誠実に書かれた感想を集め、映画『100日間生きたワニ』の満足度を平均値に置き換えれば、100点満点で60〜70点くらいにはならないだろうか。
現在の荒らされたレビューサイトにおいて、映画.comでの2.1点やFilmarksの2.9点はまだしも、Yahoo!映画の1.57点の評価はいくらなんでも理不尽な点数(2021年7月中旬現在)であると思う。もちろん、中には肯定的にせよ批判的にせよ、しっかり映画を観た上での誠実なレビューを書かれている方もいる。その正当な意見でさえも、過剰な悪意に覆い隠されたという事実が、改めて悲しい。
まとめその2:「批判」とは、いったい何であるのか?
最後に、プロブロガーの海燕さんが執筆した以下の記事も、ぜひ読んでいただきたい。なお、映画『100日間生きたワニ』本編のネタバレには触れていない。何でもあり?映画『100日間生きたワニ』で考える「批判の倫理」。 - Something Orangek
この記事の中でも「『エスパー魔美』の「くたばれ評論家」の価値観はいまでは通用しないのではないか」という記述はとても重い。SNSの功罪は簡単に論ずることはできないが、「そういう時代」に生きていることは、多くの方が意識する必要があるだろう。そして、誰しもが「クリエイターへの『批判』にとどまらず『否定』になっていないか」は重々注意しないといけないと、筆者も強く思う。というのも、筆者もとある作品を嫌うあまり、酷評をしている(それ自体は真っ当な)意見を、「批判」ではなく「否定」と言えるひどい言葉を添えて引用リツイートして拡散させるという、恥ずべき行為をしてしまった経験があるからだ。
もちろん、(酷評を含め)「批判」そのものが悪いわけでないし、その批判によって何かの問題が改善できる、という側面はSNSには大いにある。たとえ酷評であったとしても、それが真っ当な意見であれば、クリエイターにとってプラスに働くことはあるだろう。
だが、過剰に悪意を膨らませた結果、誰かを深く傷つけたり、人格否定をしていないかと「一度立ち止まって考える」ように、これからも気をつけたい。
そして、他の人にも十分すぎるほどに気をつけてほしいのだ。ネットいじめは、ある種の「正義感」があってこそ加担してしてしまう、自分が悪いことをしているとさえ認めていないからこそ起こるものであり、その「流れ」に乗ってしまうのは簡単なことなのだから。
また、海燕さんは、以下の記事も追加で執筆された。
なぜ「正しく批判すること」はむずかしいのか。 - Something Orange
「よいところをしっかり指摘することも批判である」と「批判とは、ただ悪いところをあげつらい対象を全否定することではありえないのだ」というのは金言だ。そして、この記事でまとめた12本のレビュー記事は、どれもが、しっかりした批評(批判)であると、改めて思えたのだ。なお、上田慎一郎監督は『100日間生きたワニ』への理不尽なバッシングムードについて「無傷ではないですけど。頬をかすめるナイフで多少の出血はありますけど。でも心臓は無傷です!」と記している。
クリエイターが本当にしんどいのは誠実なものづくりが出来なかった時なんで。だからなんとか大丈夫です。もちろん無傷ではないですけど。頬をかすめるナイフで多少の出血はありますけど。でも心臓は無傷です! https://t.co/s8b84opCYt
— 上田慎一郎 Shinichiro Ueda (@shin0407) July 12, 2021
元来のポジティブな性格な上田監督であっても、「傷ついた」と打ち明ける様は、とても重い。ただ、後にはたくさんの誠実な意見が出てきたことにより、「この映画をつくって良かったと心の底から思ってます」とも答えているので、きっと大丈夫だろう。
この『100日間生きたワニ』について、異常なバッシングムードやネットいじめに加担したという方という方は、まずは「自覚」から始めて欲しい。違う映画の話題で恐縮だが、現在配信中の映画『許された子どもたち』の内藤瑛亮監督は「人は被害者であることは比較的容易に受け入れられるが、自分が加害者であるということは認めづらい」と語っている(その主張は『許された子どもたち』からも苛烈に伝わってくる)。
SNS時代に生きる私たちは、「いつ、誰しもが加害者になってしまうかもしれない」という危険性を自覚し、今一度、SNSの投稿ボタンを押す前に、立ち止まって考えてみたい。
(文:ヒナタカ)
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