©︎2023 劇場版「美しい彼〜eternal〜」製作委員会
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映画コラム

REGULAR

2023年04月06日

<劇場版公開記念>「美しい彼」原作、ドラマ、劇場版の魅力を語り尽くす!

<劇場版公開記念>「美しい彼」原作、ドラマ、劇場版の魅力を語り尽くす!



すべては原作「美しい彼」から始まった


「流浪の月」で知られる作家・凪良ゆうによる原作小説から始まった「美しい彼」シリーズ。2023年現在は、「美しい彼」「憎らしい彼」「悩ましい彼」「interlude 美しい彼番外編集」の4作が発表されている。あらためて、原作の魅力を3つのポイントに分けて解説したい。

 ポイント1. 凪良ゆうの丁寧な筆致

「美しい彼」の魅力のひとつに、まざまざと情景が浮かんでくる繊細な筆致、そして登場人物の細やかな心理描写が挙げられる。

主人公・平良は、なぜ清居のことを一目見ただけで惹かれてしまったのか。高校二年生になった春(ドラマ版では高校三年生の設定)、自己紹介の場で初めて清居を見た平良は「彼は美しかった」と独白している。まさに、抗いがたい引力に引きつけられる“どうしようもなさ”が、凪良ゆうらしい微細でエモーショナルなタッチで描かれている。

幼い頃からの吃音症に悩む平良は、極端に緊張する場に立つと声が詰まってしまう。新学期、自己紹介の場で久々にどもってしまった平良は、孤独を感じた。誰よりも美しい佇まい、自然と周囲に人が集まる魅力を備えながらも“ひとり”である清居に対し、どんな過程で気が惹かれたのかが精緻に書かれている。

ちなみにこの自己紹介のシーン、ドラマ版では、平良が自己紹介をするも言葉に詰まってしまったタイミングで清居が登場。そのおかげで教師や生徒の意識が清居に向き、平良はそれ以上の注目から逃れられた。後に音楽室で「助けてくれてありがとう」と清居に礼を言う平良のシーンが描かれている。

ポイント2. キャラクターの厚み

平良、清居の“キャラクターの厚み”についても触れておきたい。それぞれ負っている背景まで細やかに描かれているため、読者はすぐに感情移入できる。

前述したとおり、平良は幼少期からの吃音症に悩んでいる。そのせいで引っ込み思案になってしまわないようにと、両親は小学生だった平良に「何か外に出る趣味を」と一眼レフを買い与えるが……。カメラにも写真にも強い興味を持てない平良は、両親を心配させない程度に風景写真などを撮り、写り込んだ人間だけを消す加工を繰り返していた

平良がなぜ卑屈で後ろ向きな性格になってしまったのか、幼少期のエピソードまで丁寧に描き出している点は、さすが凪良ゆうによる手腕だ。同じように、清居の“少々屈折した内面”についても微細に表現されている。

清居は表面的にはクールで、何事にも執着しない性格のように見える。しかし、幼少期に植え付けられた“寂しさ”から、「テレビの世界に入りたい」と夢を抱くに至った

仕事で忙しく、家にいることが少なかった母親。幼い清居は鍵っ子で、ひとりで過ごすことが多かった。母親が再婚してからは幸せな時間が増えたが、義父との間に生まれた妹・弟の存在が、またもや安寧を覆す。小さな赤ん坊に両親の注目を奪われた清居は、またもやひとりになる。

何にも邪魔されず、ただ自分だけを見てほしい。混じり気のない視線で、自分だけに意識を向けてほしい。密かにそんな執着を内面に宿して育った清居は、やがて平良に出会った。求めていた視線を一身に向けてくれる彼に対し、少しずつ清居の意識も変化していく。その過程も「美しい彼」の魅力のひとつである。

ポイント3. あえて“セクシャルマイノリティ”は主軸に置かない

「美しい彼」は「ボーイズラブ」と呼ばれるジャンルに括られる作品である。男性同士が恋愛をする過程を物語に反映しているが、“同性の恋愛”といった観点に重きは置かれていない。

もともと清居が同性愛者であることは、ドラマシリーズならびに劇場版ではサラリと触れられる程度で、周囲は特別に騒ぎ立てることもなく「一般的なこと」として扱っている(原作では、清居が同性愛者である自覚を抱いたのは中学生のころであると書かれている)。

ドラマのシーズン1において、清居が平良に「男が好きなの?」と訊ねるシーンがあるが、それに対し平良は「……わからない」と返答。同性愛者である自覚がない、というよりは、性別に関係なく「清居というひとりの人間に惹かれた」ことをアピールしている

あくまで「美しい彼」は、同性を好きになってしまったことによる切なさ、思いの通じなさに主眼が置かれているのではなく、平良と清居という人間同士がすれ違い、ぶつかり合い、最後には不器用ながらも想いを伝え合う過程が主軸なのである。

「ボーイズラブ」はちょっと……な方にこそ知ってほしい


「美しい彼」は、男性同士の恋愛や同性愛には重きを置いておらず、あくまで「高校生同士の淡い恋心」からスタートする青春純愛ものである。原作ものでありながら、ありがちな「イメージと違う」系の批判が一切ない点でも稀有な作品と言えるだろう。それはひとえに、原作のエッセンスを上手い具合に抽出している脚本の妙である。

「ボーイズラブ作品はちょっと……」と食わず嫌いをしてしまう場合は多い。そんな方にこそ、この『美しい彼』シリーズに触れてほしい。

原作が有する引力、目を離せない映像美、そして平良と清居の心のすれ違いがもどかしいほどに反映された脚本。お節介を承知で「『美しい彼』を知らない人生はもったいない」と全ファンが口を揃える理由が、わかってもらえるはずだから。

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(文・北村有)

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