映画コラム

REGULAR

2016年10月28日

わたしのいけにえ体験

わたしのいけにえ体験

2014年、『悪魔のいけにえ』が全米で初公開されてから40年という記念すべき年を迎えました。そして2016年は私が初めて『悪魔のいけにえ』を観てからちょうど10年のスペシャルイヤー。

今回はそんな記念すべき『悪魔のいけにえ』の魅力ついてお伝え致します!

悪魔のいけにえ


(C) MCMLXXIV BY VORTEX, INC.


『悪魔のいけにえ』は、自宅の極小17インチテレビの中でチェーンソーを振り回すレザーフェイスと出会ってから、このハイテンションな惨劇に魅せられ、現在までずっと好きなホラー映画ベストワンに君臨しています。

初めて本作を手に取ったのは、レンタルコーナーの「フィルムはニューヨーク近代美術館に保管されている!」という文句にまんまと好奇心が乗せられたからでした。

当時は学生で、サイコスリラーやJホラー、『ハロウィン』のような外国ホラーを好んで観ていたのですが、本作がそうした作品群とは全く違う作りでとにかく仰天!

ホラー映画の定石は、ふつう幽霊が出たり殺人鬼が出るときは、“出そうな予感”というものがあります。音楽がおどろおどろしくなり、意味ありげなカメラワークが物影や少しだけ開いたドアを映したり「あ、なんか出そう、ヤダなァ〜怖いな〜」(?)というイヤ〜な雰囲気が恐怖の感情を煽ってきます。ちなみにその後何かをちゃんと出すパターンもあれば、あえて出さないという場合もあります。

さて、『悪魔のいけにえ』にはそんなお決まりのパターンはありません。

この映画で最初の“いけにえ”となる青年は、玄関から進んで突き当りの廊下に足を踏み入れるくらいのところで、左からひょっこり現れたレザーフェイスと鉢合わせていきなりハンマーで殴られます。彼には悲鳴をあげる暇すら与えられませんでした。

私はというと、レザーフェイス登場までの心の準備を十分与えられなかったため、あまりの突然の出来事に自分もいけにえになった気分です。

さらに強烈なのは、殴られた青年の肉体反射がリアルなこと!倒れた青年は気絶していて無表情ですが、体が激しく痙攣するのです。人間とはこんなにも痙攣するのか!という肉体の即物的な表現に言葉を失いつつ、本映画が一般のホラー映画とまるで異なる尋常ならざるものであることをこの瞬間に悟るのです。

そんな緊張感溢れる映画ですが、幾つか間が抜けたようなシーンもあります。

今回VODで初めて本作ご覧になるみなさんは、記念すべきいけにえデビューの方もいらっしゃるでしょう。

この作品を観て衝撃を受けたなら、4Kマスターのブルーレイを大きなモニターで観たり、スクリーンで上映される機会があれば足を運んでみたり、爆音上映が開催されたらやはり足を運んでみてください。

私は今年の夏、YCAM爆音映画祭という映画祭で『悪魔のいけにえ』をステレオの爆音で観るという体験をしたのですが、これまで何度も観た作品にも関わらず、ステレオのクリアなサウンドと巨大スクリーンの迫力のせいか、全く別の映画のように迫ってくるという体験をしました。

本作品は観る度に新鮮な衝撃を受けることと思いますので、このVODをきっかけに人生終わるまで何度も何度も何度もこの映画の“いけにえ”になっていただければと思います。

[この映画を見れる動画配信サイト](2016年10月28日現在配信中)
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とここまで書いてきましたが、語り足りずなのでネタバレありで語りを続けます!

※ここからネタバレを含みますので、未鑑賞の方は鑑賞後にお読みください。

精肉業を引退し、ヨボヨボになった一家のじいさまが、息子たちに引っ張り出されてヒロインを殴って屠殺しようとするシーン。これ、全く殴れていません。じいさまの容貌を見る限りほとんどミイラのような姿で到底殴れそうな力が無いのに、なぜか一家の長の威厳を示させようと、殴らせるのを諦めない息子たちとの攻防がしばらく続きます。

ところで、最初に観たとき、私はこのじいさまは完全に死んでる人だと思っていました 。やはり17インチは相当小さい画面だったらしく、後によーく観たらじいさまの口がまごまご動いているじゃありませんか!「あ、生きてる!」と口走ったのを覚えています。

人皮を被った恐ろしいレザーフェイスにもちょっと抜けているところがあります。映画のヒロイン、マリリン・チェンバースを追いかけてチェーンソーをブンブン鳴らしながら走っている最中、ふとしたことでレザーフェイスが転ぶシーンがありますが、その拍子に落下したチェーンソーで彼は自分の足を切ってしまうのです。

これ、だいぶ最後の方のシーンです。マリリンがまだ一度もチェーンソーで傷ついてないのに、先にレザーフェイスが怪我するとは、意外すぎます。

この一家の一連の計画性のなさは、実はかなり間抜けだと思うんですが、それが物語の異様さを助長していて、総合的にめちゃめちゃ面白くしているというのがこの映画のミソな気がします。

本作はテンションのピーク状態がずっと続いた末、ラストで朝焼けをバックにレザーフェイスがチェーンソーを振りまわすというシーンで、唐突に幕が下ります。狂気を通り越して一心不乱に踊り狂うレザーフェイスのシルエットは、冒頭のレンタルコーナーの文句も納得するくらい芸術性を帯びています。

この作品を観ていちばん驚かされるのは、一般の映画で予測できるような予定調和が全く皆無である点と、それが狙ってそうなったようには見えないところです。

また、「悪魔のいけにえ」を観るという行為は「視聴」を超えた一種の「体験」です。単純に感想を述べれば整理できる類のものではなく、訳のわからないパワーに圧倒され、張り詰めた緊張が終わったときにはただ呆然し、果たして自分は何を観てしまったのだろうかという、一種のショックの体験です。それは単なる恐怖とは一線を画すもので、この作品によって無理矢理自分が変えられてしまうような、強烈なものです。

(文:とみだ嬢)

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