「キセキ ーあの日のソビトー, 」のオープニング成績は、けっこう大したものなのである。

■「役に立たない映画の話」

(C)2017「キセキ あの日のソビト」製作委員会

なんでもかんでもランキングで決めるな!!

後輩 先週末の興行ランキングで2位になったのが、東映の「キセキ –あの日のソビト-」でしたが・・。

先輩 あのさあ、そのランキングってヤツで映画に優劣つけるの、やめない?

後輩 はあ?だって、どの映画がヒットしているか分かって便利じゃないですか。

先輩 知っているかもしれないが、興行通信社が配信しているランキングというのは、興行収入ではなく入場者数を基準にしているからな。だから「スター・ウォーズ」が「妖怪ウォッチ」に負けたりするんだよ。ファミリー番組はお子ちゃまが多いから。でも興収の面では「スター・ウォーズ」が上だからな。

後輩 だって、入場者数も興収も書いてないから分かりませんよ。

先輩 だいたいが、興行のプロたちは入場者数ではなく興収で判断するんだよ。いくら上がったかが大事なわけで。

後輩 そうですか。まあそのへんは、配給会社の情報開示の姿勢によりますね。

先輩 まあな。ところで先週1月28日から公開された東映の「キセキ -あの日のソビト-」のオープニング成績を見て、びっくりしたよ。今年最初のサプライズだ(笑)。

後輩 どれぐらいの成績だったんですか?

先輩 全国157スクリーンで、週末2日間計、入場者数18万2044名、興行収入2億3281万4600円。このペースで行けば、興収10億円突破は確実。15億円行くかもな。

後輩 全国157スクリーンでの上映ですか? ちょっと少なめな感じがしますが。

(C)2017「キセキ あの日のソビト」製作委員会

「もしあなたがシネコンを経営していたら、どの作品を選びますか?」という視点の反映。

先輩 その通り。東映が配給する作品。それも全国公開という範疇では、最小規模に近い編成だけど、それが良いほうに出たんだよ、今回は。

後輩 どういうことですか?

先輩 オープニング成績を見て驚いたのは、興収2億円を超えていたこともさることながら、1スクリーンあたりの興収が148万3214円。これにはびっくりした。

後輩 1スクリーンあたりの興収って、先輩たちがよく「パーアベ」って呼んでる数値ですか?

先輩 そうそう。正式には「パー・スクリーン・アベレージ」と言うんだけど、略して「パーアベ」って呼んでる。興行関係の人たちと話す時、皆総体的な興収も気にするけど、どちらかといえば1スクリーンあたりの興収に注目する傾向が強い。

後輩 たくさんのスクリーン数で公開されば、それだけ興収も上がるでしょうに。

先輩 そうとも限らない。だからパーアベって「もしあなたがシネコンを経営しているとしたら、どの作品を選びますか?」といった視点を反映しているんだよ。そりゃ全国500スクリーン、800スクリーンで公開すれば興収が上がって配給会社は喜ぶけれど、実際に上映している映画館としたら、そのうちの1スクリーンの数値がどれだけ上がるか?というほうが気になる。「キセキ」の148万3214円って数値は、極めて高い額でね。先週末上映された作品の中で、興収100万円を超えているのは「キセキ」だけ。しかもダントツだよ。

後輩 先輩のデータベースから、同じような数値をピックアップすると、どんな作品がありますか?

先輩 そうだなあ。この正月作品以降ならば、「映画妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン!」が近いかな。こちらはオープニング2日間で1スクリーンあたり興収146万5140円。「モンスターストライク THE MOVIE」が139万1600円。電卓で割り算すれば、簡単に出るじゃないか。

後輩 「妖怪ウォッチ」って今、興収いくら行ってるんですか?

先輩 目下のところ累計31.2億円。

後輩 じゃあ「キセキ」も、そのぐらい行くってことですか?凄いですね、大ヒットじゃないですか!?

先輩 いやいや、世の中そんなに甘くない(笑)。あくまでこれはオープニング2日間の成績なわけで、平日がどういう動きになるのか、あるいは2週目の週末もこのペースが持続出来るのか。現状は157スクリーン体制だけど、強力な作品があってスクリーン数が減ることだってあるだろうし。

後輩 あくまでオープニングの段階で、という評価なわけですね。

先輩 でも、作品の評判が良いし、音楽のGReeeeNも話題になっているから、もしかすると来週になって興収がアップするかもしれないしね。昨今ではSNSを通してクチコミが伝わるから、そうなる可能性だって充分にある。

(C)2017「キセキ あの日のソビト」製作委員会

大規模な拡大公開作品、中小規模の作品、どちらも成功させなくては・・。

後輩 さっき先輩のあげた作品は、両方ともアニメでしたが、実写の日本映画で「キセキ」と同じぐらいのパーアベを上げた作品ってないんですか?

先輩 スクリーン数を基準に見ると・・昨年の作品だけど、これが近いかな。「黒崎くんの言いなりになんてならない」。2016年2月27日から160スクリーンで公開して、オープニングの1スクリーンあたり興収が119万1912円。なかなか157スクリーン公開との日本映画が見当たらなくて。

後輩 「黒崎くん・・」は、最終的にいくら興収を上げたんですか?

先輩 12.3億円。このあたりがひとつの基準になるんじゃないかな。

後輩 映画のヒットの仕方って、色々なケースがあるんですねえ。

先輩 そう。必ずしもたくさんのスクリーンで全国一斉公開すればヒットするというわれじゃないんだよ。それと、大切なのは作品を上映する映画館にとって、どれだけメリットがあるか。同じ作品を近隣の映画館と同時に上映していれば、よほどの大ヒット作にならない限り、自分と1スクリーンあたりの収入は減ってくるよな。

後輩 パーアベを出すことで、マーケット・サイズに囚われない、作品の興行力を測ることが出来るってわけですね。

先輩 確かにそうだけど、あくまでこれは平均値ということは、認識しておくべきだろう。例えば僕と君が同じテストをやって、僕が100点をとって君が0点だったとする。でも平均値をとると50点になってしまうだろ。それは僕と君、どちらの現実を反映していないってことになる。平均値とかアベレージというのは、参考にすぎない。

後輩 よく映画館の人が「週アベいくらで・・」とか言ってますが、あれもまたアベレージですから平均値なわけですね。

先輩 そうそう。だからその平均値そのものを上げるためにはどうしたら良いか?を考えるべきで。

後輩 最終的にどこまで成績を伸ばすのか、注目ですね。

先輩 「キセキ」もさることながら、東映としては11日から公開する「相棒 劇場版Ⅳ」が勝負作で、こちらはたくさんのスクリーンを占拠してくることだろう。願わくばこうした大規模公開の作品と、「キセキ」のような中小規模の公開作品、両方を成功させて欲しいものだね。

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(文:斉藤守彦)

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    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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