映画コラム

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2017年12月14日

『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』特別座談会!闇の姉妹の魅力やストップモーションアニメの意義を大いに語る!

『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』特別座談会!闇の姉妹の魅力やストップモーションアニメの意義を大いに語る!




連日、口コミにより大盛況となっている映画『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』(以下、『クボ』)。本作の魅力を、イラストレーターのぬまがさワタリさん、『東京喰種 トーキョーグール』などの脚本家である楠野一郎さん、映画ライターのヒナタカの3名が、宣伝担当者の方を交えて大いに語りました! その座談会の内容を以下にお伝えします。

※以下は核心的なネタバレはありませんが、少しだけ本編の内容に触れています。予備知識なく映画を観たいという方はご注意を!



1:「一生のお願い」やファンアートで口コミが広がっていった!



楠野一郎:『クボ』はファンの方が盛り上げてくれていることが、何よりありがたいですよね。Twitterで広まった「#一生のお願いだからクボを観て」という切実な訴えは、アクション俳優ドニー・イェンの大ファンで有名な“手芸センターポリス”さんのツイートから始まったんだと思います。『クボ』は言葉であれこれと説明するよりも、気持ちが先走って「一生のお願い!」くらいしか言えなくなってしまうんですよね。



ヒナタカ:「細かいことはいいから、とにかく観て!」だけで終わりたいという気持ち、すごくわかります。それで口コミが広まっているから素晴らしいですよね。

ぬまがさワタリ:ファンが自発的に作り出したムーブメントに、公式さんが柔軟に対応している流れも素晴らしいな、と思います。ファンアートを募集して公式サイトに載せるだけでなくスタジオライカにも届けてくれたり、撮影会をされたり、オフ会を開催した方たちにプレゼントを贈ってくれたり……。

楠野一郎:『クボ』は特にTwitterで絵を描いている方にハマったという印象ですね。ぬまがさワタリさんの紹介マンガも素晴らしかったです。



ぬまがさワタリ:自分の場合、ファンアートというより文章を読んでもらうという感じなんですけどね。

ヒナタカ:ファンアートのおかげで、格段に親しみやすさが増したとも思うんです。『クボ』はポスターやキャラクターの“パッと見”ではとっつきづらい印象もあるとは思うんですが、ファンの皆さんはとてもかわいい絵で描いてくださっていることが多いので。


ぬまがさワタリ:確かに、『クボ』はパッと見ではキャッチーさには欠けてしまうところもあるとは思うんですけど、デザイン自体はめちゃくちゃ良いですよ! 映画を観ると、自分も「何かマネしてみたいなと」思うところがあるんですよね。サルの“ケモノっぽさ”は地上の“不完全さ”を象徴するキャラにピッタリですし、その対比となる闇の姉妹の“クールさ”や“表情が見えないお面”は天上の“完璧さ”を示しているかようで恐ろしい。この2人は、特にファンアートで描いている方が多かったですね。

ヒナタカ:そうですね。また、パッと見ではとっつきが悪くても、実際の映画を観るとどのキャラクターもとても愛らしいんです。ファンの方たちのイラストも、彼らの魅力をいろいろな視点で描いてくれていて、とても嬉しかったですね。



2:闇の姉妹の素晴らしさを本気で語る!






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ぬまがさワタリ:どうしてもこの場で語っておきたかったのは、その闇の姉妹の魅力です。彼女たちは外見だけでなく内面も素晴らしいんですよ(興奮気味に)! 悪役であり、救いのないようなキャラにも思えますが、“奥行き”を想像させるところも多分にあるんです。たとえば、彼女たちは「自分たちは完璧な存在で、地上の存在とはぜんぜん違う」と思い込んでいるんですが、実は姉(クボの母)やクボにすごく執着していて、そこで“完璧さ”は欠けているため、実は彼女たちにも“物語が生まれている”んです。

ヒナタカ:本作のテーマは、まさに“物語”ですものね。闇の姉妹が「姉は男を選んだんだ!」と叫ぶシーンも印象的でした。ああ、姉に嫉妬しているんだなあって。

ぬまがさワタリ:そうそう、闇の姉妹の姉に向ける執着は、“百合勢”の間では「これはヤバイな」というものなんです(笑)。その情念が直接的には描かれないというのもいいですよね。私に“百合バイアス”がかかっているせいもあるかもしれないですけど、そういう奥行きを多分に感じさせてくれるキャラ造形が本当に素晴らしいな、と。

楠野一郎:闇の姉妹は“フランケンシュタインの怪物”を思わせるところもありました。彼女たちは同じ顔をしているので、一見すると“作られた存在”のようですが、仮面が割れて口が見えた時には、確かな“怒り”という感情が見える。そこで、彼女たちにも新しい物語が与えられているんだな、と想像ができますよね。

ぬまがさワタリ:仮面が割れちゃったことで、彼女たちも地上の“不完全さ”に近づいたのかもしれませんね。冷徹な悪役なんだけど、彼女たちは彼女たちで不完全なものを抱えている……そこが愛おしいんですよ。

楠野一郎:初めて『クボ』を観た時は主人公たち3人の物語に注目していたのですが、2回目、3回目から闇の姉妹のほうにグッと来ることが多かったですね。

ぬまがさワタリ:私ももう一度観て、闇の姉妹に感情移入して、「なんて哀しい存在なんだ……」と思って泣いてしまいました。彼女たちにとって、完璧な存在のままでいるよりも、不完全の象徴である地上に落ちて物語を与えられるということのほうが、実は“救い”になるのではないでしょうか。彼女たちが辿る結末は悲劇のようであっても、それが不幸であると、誰が言えるのか……そう思うんです。



3:吹替版と字幕版、どちらがおすすめ?






楠野一郎:「『クボ』は吹替版と字幕版のどちらを観たら良いですか?」と、よく聞かれるんですよ。

ヒナタカ:本音を言えば両方観て欲しいのですが、僕は「どちらでも良いからとにかく観て!」と人にすすめています。なかなか観る時間が合わない、ということもありますから。

ぬまがさワタリ:私も「とにかく近くでやっているところで観ろ!」ですね。強調しておくべきなのは、「吹替えだから良くない」ということが、全くないということです。

楠野一郎:吹替のクオリティが本当に高いんですよね。ピエール瀧さんはもちろん、小林幸子さんも最高でした。女優さんのイメージはあまりないかもしれませんが、もともと芸歴が長い方で、子役をされていたこともあるんですよね。小林幸子さんが声をあてていることを知らないまま観に行って、最後のクレジットでびっくりする方もいたようです。

(宣伝担当者から) 小林さんが演技できることは存じ上げていましたし、“日本らしさ”というところでブッキングをさせていただいたんです。想像以上におばあさん役にマッチしていたことはもちろん、ご本人の仕事の取り組み方も情熱的で、台本に赤でたくさん書き込みをされていたりもしました。

ヒナタカ:さすがはプロですね! 川栄李奈さんの闇の姉妹もバツグンにハマっていましたね。『デスノート Light up the NEW world』や『亜人』でも川栄さんは“演技派女優”でしたから、「彼女なら大丈夫」と安心できましたもの。

ぬまがさワタリ:川栄さんは、闇の姉妹の“心のゆらぎ”も見事に表現されていましたね。

楠野一郎:羽佐間道夫さんは大ベテランですので、もう言うことはないですね。

ヒナタカ:田中敦子さんのサルのカッコよさ、矢島晶子さんの少しハスキーボイスで健気な感じも素晴らしかったですね。

ぬまがさワタリ:日本語吹替は軽視されがちですが、子ども観てもらう場合はほとんど吹替という選択になりますし、作品としてずっと残るわけですですから、ものすごく大事な仕事だと思うんです。キャスティングも、実際の演技も本当に誠実なものであり、奇跡的とも言えるアンサンブルでした。

ヒナタカ:その通りですね。もちろん字幕版のシャーリーズ・セロン演じるサルも超カッコよかったですし、マシュー・マコノヒーのクワガタも愛らしかったですし……。




ぬまがさワタリ:字幕版でクボを演じたのは『ゲーム・オブ・スローンズ』などのアート・パーキンソンですよね。彼もバッチリでした。

楠野一郎:結論としては、字幕版か吹替版かは好みで選べば良い。「いいから、近くの映画館でとにかく観て!」ということですね(笑)。



4:翻訳や主題歌のここが素晴らしい!






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ヒナタカ:声優さんたちの演技だけでなく、字幕と吹替それぞれの翻訳も素晴らしいと思います。たとえば、クボたちが「I spy with my one eye, something beginning with “S”.」という遊びを始めるところでは、字幕ではSではなくて「さ行で始まるもの」になっています。吹替では「きれいなものみーつけた、空から来るものだよ!」と遊びの内容そのものが変わっていて、その後にクワガタが答える単語も自然に合うようになっているんですよ。

ぬまがさワタリ:Songの字幕が“調べ”になっていて、“さ行”に合うものになっていたのは感動しました。

ヒナタカ:その他にも、Moon Kingを“月の帝”という『竹取物語』を意識した名前にしていたり、Ruleも“理(ことわり)”にしていたりもする。翻訳家の方の本気をまざまざと見せつけられました。

楠野一郎:クワガタの一人称が“拙者”であったり、セリフに時代劇らしさが反映されているのもよかったですね。それらの日本語の響き、美しさを耳で聞いて実感できるので、個人的にはやはり吹替版をおすすめしたくなります。

ぬまがさワタリ:日本が舞台であることも含めて、こんなにも吹替がハマる作品もないですもんね。

楠野一郎:それでいて、字幕版で観て、キャラクターが英語でしゃべっているのを観ても、まったく違和感がないんですよね。

ぬまがさワタリ:英語を話したとしても“これはこれで成立する”見事な世界が構築されていますものね。そうそう、吹替版の主題歌も素晴らしかったです。もともとの楽曲をリスペクトしつつ、吉田兄弟という三味線のプロ中のプロの演奏による、最高にカッコイイ楽曲が作り出されているんですから。


ぬまがさワタリ:もちろんオリジナル版(字幕版)の主題歌もめちゃくちゃ好きなのですが、日本語吹替版ではコーラスの部分も三味線で演奏するっていうのが“粋”でした。

(宣伝担当者から) 吉田兄弟のお2人によると、「While My Guitar Gently Weeps」のメロディラインって、日本人の琴線にすごく合致するそうなんです。

ぬまがさワタリ:まさに“琴線”に触れるんですね(笑)。

楠野一郎:そういえば、字幕を見て初めて知ったのですが、カブトムシだけでなくクワガタも“Beatle”、で表せるんですね。

ぬまがさワタリ:クワガタは正確にはStag Beatleですけど、Beatleだけでも良いんですよね。

楠野一郎:「While My Guitar Gently Weeps」はビートルズが原曲なのですが、主題歌の歌詞が物語にハマっているだけでなく、クワガタ、まさにBeetleが劇中にいるというのも面白いなあと。

ヒナタカ:『クボ』はいろいろな要素が絶妙にマッチしているので、たとえ後付けだとしても、「ひょっとしてこうなのかも!」と想像が膨らみますよね。

ぬまがさワタリ:「While My Guitar Gently Weeps」のタイトルからすれば、今回のアレンジでは三味線をギターって言い張っているわけですよね(笑)。日本人だったらムッとしてしまうところかもしれませんが、ここまで見事な世界を作り上げたのであれば、もう「参りました!」としか言いようがありません。



5:日本へのリスペクトがここにも! 『子連れ狼』からの影響も?






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楠野一郎:そうそう、『クボ』で多くの方が気になるであろうことは、主人公のクボが苗字ではなく名前になっていることですよね。でも作中の発音が「くぼう」に聞こえることもあったので、実は“久坊”と書くんじゃないかな、と解釈しました。かつては三味線での芸を見せながら旅をしている人たちを“坊様”と呼んでいたこともあったので、実はそれもリスペクトしていたのかなあと。まあ、実際はスタッフのご友人からクボとつけたのだそうですが。

ぬまがさワタリ:これで主人公の名前が“太郎”とかだったらそれはそれで違うっていう気がしますし(笑)。

ヒナタカ:クボという名前の主人公というのは、なかなか類を見ないと思いますし、「クボっていったい何?」というところから、作品を知ることができる、というのも、実はプラスに働いているんじゃないかな、とは思いますね。

ぬまがさワタリ:そういえば、紹介マンガを描く上で気をつけたことがあって、それは「日本がすごい!」という主張にならないようにすることだったんです。そうではなく、「『クボ』のスタッフはこんなに日本の良さをすごくわかってくれている!」「これほどに他の文化にリスペクトして、こんなに面白い映画を作ってくれることこそがすごい!」ことを訴えたかったんですよ。

ヒナタカ:まさに! 「日本をこれだけ愛してくれているあなたたちがすごい!」ですものね。

ぬまがさワタリ:日本人である自分たちを振り返っても、他の国や他の文化をここまでわかっているか、または日本についてここまで知っているかどうかなんて、わからないですよね。

ヒナタカ:僕たちが知らないことでさえも、『クボ』のスタッフは入念に調べて、愛して、ストーリーにも上手く組み込んでいる、そこも素晴らしいなと。

楠野一郎:おそらく『子連れ狼 三途の川の乳母車』にも影響を受けていますよね。そちらでは“弁天来三兄弟”という凄腕の刺客が登場するのですが、これが『クボ』の闇の姉妹にも似ているんです。武器の鎖鎌に分銅ではなく“鉄の爪”のようなものがついているのもそのためなのかも? 弁天来三兄弟はジョン・カーペンター監督の『ゴースト・ハンターズ』でもオマージュされていましたね。

(宣伝担当者から) トラヴィス・ナイト監督は、幼少期に日本に来たときに日本のマンガを知って、買い集めていたのだとか。その中でも『子連れ狼』は特にお気に入りだったそうですよ。

楠野一郎:やっぱり! 『クボ』と『子連れ狼 三途の川の乳母車』は、けっこう物語の構造も似ているんですよ。柳生烈堂っていうキャラは『クボ』の月の帝にそっくりで、彼が家族に差し向ける刺客がその弁天来三兄弟っていう……。クボの眼帯は柳生十兵衛をモデルとしているという事実もありますし、トラヴィス・ナイト監督が黒澤明やと宮崎駿の作品だけでなく、『子連れ狼』を参考にしていたのは間違いなさそうですね。



6:子どもやクリエイターにこそ観て欲しい理由とは?






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楠野一郎:闇の姉妹が登場するところは、“三途の川”のイメージもあって、とても恐ろしく感じました。僕は田舎のああいう光景をそれほど観たことはないのですが、それでも「田舎が夜に包まれていく感じってこれだよね」って、納得できました。

ヒナタカ:そうそう、闇の表現が非常に怖いですよね。怖いけど、子どもにも観て欲しいと思うシーンでした。

楠野一郎:『クボ』こそ、真の意味でファミリームービーであると思うんです。物語の最後にどうしてああいうことになるのか、小学校低学年くらいのお子さんはわからないと思うんですよ。お父さんお母さんと観てみて、「きっとこういうことなんだよ」と教えてあげてほしいですよね。

ぬまがさワタリ:表面的にわかることがすべてじゃないですものね。子どものころに見て意味がわからなかったことが、記憶に強烈に植え付けられていて、大人になってから「もしかしたらこれは……」っていうことは、映画にはよくありますもの。

(宣伝担当者から) 『まんが日本昔ばなし』にあったような「子どものころに意味がわからなかったものを、親に聞く」ということが、『クボ』でも踏襲されていますよね。

楠野一郎:『クボ』は、ただ楽しかったねっていうだけでなく、「ここはどう思ったか」などと、話合ってみてほしいですね。

ぬまがさワタリ:それでいて、単純な家族主義みたいなところに陥っていないのも素晴らしいな、と。『クボ』の物語というテーマは、家族がどうとかを超えて、人々がずーっと続けてきたことなんですから。物語を語り継ぐという、永遠の命よりももっと大事なことがある、そこが一番大事なんだな、と。

楠野一郎:普遍的に、自分という存在よりも、“残したもの”のほうが残ることが多いという事実が、ものすごいことだと思いますよ。ぬまがさワタリさんのイラストも、僕の書いた脚本も、世に出たら100%自分よりも長く残ります。何かを楽しんだ人がいて、その人がさらに生きていく……僕たちだって、もうすでに亡くなった方の作品に親しんでいるわけですから。『クボ』は、ものを作る側の人であると、より強く響く映画なのかもしれないですね。

ぬまがさワタリ:小説家やマンガ家などはもちろん、ものづくりをされている方にこそに『クボ』を観て欲しいですよね。ファンアートがさらに広がっているのも、クリエイターの心に訴えるものがあるからだと思います。



7:ストップモーションアニメだからこその説得力とは?






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ぬまがさワタリ:「物語を語り継いで行くことが、永遠の命よりも大切なことである」という説得力を強めているのが、まさにストップモーションアニメという作り方にありますよね。ポスターなどのビジュアルを見てピンと来なかったとしても、観れば一発でわかるキャラクターの“実在感”、「人間が手を動かして、膨大な時間をかけて作ったんだよ」っていう事実が、見事にそのテーマを補強してくれるんです。

ヒナタカ:『クボ』の最後にメイキング映像もそうですが、初めの折り紙の見せ物のシーンでも、そのすごさが一発でわかりますよね。


ぬまがさワタリ:『クボ』のキャラクターが動いているところを見ると、「え?え?え?」ってなるんですよ。これがストップモーションと言われると「どういうことやねんっ!」てツッコみたくなるほどで。この折り紙のバトルが、その後のクボの冒険を暗示している、三味線の音色に乗せて展開するというのも素晴らしいですよね。

ヒナタカ:このシーンで、“物語を最後まで見せない”ことも重要になっていましたね。

楠野一郎:このシーンの音楽をサントラで聞くと、仕事を始めるときに良いんですよ(笑)。やる気が出るので、おすすめですよ。

ヒナタカ:この見せ物で、折り紙のニワトリの首を斬っちゃって、大人が「見ちゃいかん!」と言って子どもの目を塞ごうとするけど、結局子どもは見ちゃう、というシーンも大好きでした。「なんでも規制するのではなく、子どもにも少しくらい残酷なものを見せたっていいじゃない」というメッセージを勝手に受け取りました。

ぬまがさワタリ:そういうの、子どもは見ちゃいますよね(笑)。『クボ』はストップモーションアニメの最高峰で、もうCGと見分けがつかなくなるという領域にまで行っていると思うんですよ。だけど、折り紙バトルのシーンは、紙の質感、“もの感”がすごい。紙がこんなふうに生き生きと動いているということを、バーンと初めに見せてくれたということが素晴らしいですよね。



8:「まばたきするなら今のうちだ」に隠された意味とは?






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ぬまがさワタリ:映画の冒頭のほか、作中で何度も繰り返されている「まばたきするなら今のうちだ」という口上も大好きでした。物語の展開にも合っているんですよね。

ヒナタカ:冒頭でそれを示すことで、「この映画はまばたきするともったいないよ!じっくり観てね!」と言われているかのようでした。

楠野一郎:「1秒1秒を大切に観ないといけない!」って思いますよね。

ヒナタカ:何せ、映画の時間で3.31秒が過ぎたら、作っているほうは一週間が経過していますから(笑)

ぬまがさ まばたきが重いですよね(笑)。

楠野一郎:僕は映画を観ながら、監督や脚本家、衣装なり照明なりのスタッフの仕事はどうなっているのかな、と考えているんですけど、ストップモーションアニメであると、それがさらに重く感じられます。唇の震えといった“ゆらぎ”の瞬間で、「ああ、これはストップモーションアニメなんだ」と感じる時もありますね。

ヒナタカ:僕は楠野さんとはまったく反対で、ストップモーションアニメということを完全に忘れてしまいました。それほどに滑らかな動きになっている、キャラクターの実在感があるのもすごいな、と。

ぬまがさワタリ:そういえば、日本語字幕での口上は「まばたきするのは今のうちだ」なんですけど、吹替版だと「まばたきすら、してはならぬ」になっていて、初めは「あれっ?」と思ったりしたのですけど、観終わってみれば良い改変だったと思います。「まばたきするんじゃないぞ!」って いう圧がさらに高まっていていますから(笑)。



9:アニメ史上、最もおいしそうなお刺身!



ヒナタカ:僕が好きなのは、枯れ葉で舟を作るシーンなんです。サルとクワガタが「あの子はまだ子どもだよ!」「だがとても利発な子だ!」と“教育方針”を言い合っているんですよね。その後にちょっと仲良くなったサルとクワガタを見て、クボが「なんだか不気味なんだけど」と言うのも“あるある”だなあと(笑)。

ぬまがさワタリ:スタジオライカの作品は、そういうギャグというか掛け合いも面白いですよね。

楠野一郎:そういう微笑ましいシーンでさえも、2回3回と観ると、胸を締め付けられるんですよねえ……。

ぬまがさワタリ:クジラのお腹の中で、サルがクボにご飯をあげているところなんかも、グッと来ちゃいますよね……。

ヒナタカ:後は、あんなにおいしそうでやわらかそうな刺し身、アニメで観たことがないですよね。ひょっとしたらジブリ作品のリスペクトなのかも?

楠野一郎:お醤油が欲しくなりましたね(笑)。アニメで、あれだけお刺身をおいしそうに見せるのって、すごく難しいと思うんです。湯気も立てられないし、咀嚼した時のサクサク感などもないのに、日本人が観るとおいしそうだと思う。その技術もすごいなと。

ぬまがさワタリ:スタジオライカの作品はいつも食べ物がおいしそうなんですよね。『コララインとボタンの魔女』の最初のほうもそうでした。食べ物って、映画におけるディテールの最たるところだと思うので、ここがしっかり出来ているというのが信頼できるな、と。その他にも、背景に映る“大仏”などで、世界観や歴史の奥行きを感じられるのも良かったですね。

楠野一郎:個人的には、“サル”と“雪”の組み合わせもよかったですね。あれも日本らしいな、と。

ぬまがさワタリ:雪の景色にサルがポツンといる感じは、確かに日本ならではですよね。



10:悪役の辿る結末について






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ぬまがさワタリ:他の方の『クボ』の感想を読んでみると、「ラスボスが辿る結末があまりにも甘いのでは?」というものも見かけました。でも、私はそう思っていないんです。確かに彼に1つの“救い”が与えられて終わるわけですが、あれは救いであると同時に罰なのではないでしょうか? 悪人との処遇として、すごく理想的だとも思うんです。

楠野一郎:彼がその後に“思い出して”苦しむのかもしれませんね。それも1つの“物語”になりますし。

ヒナタカ:「なんで自分には片目しかないんだろう?」と思うかもしれませんね。

ぬまがさワタリ:『クボ』は物語を与えるということを肯定している。物語の力を信じているんですよね。そこも素晴らしいところだと思います。しかも、キャラクターの内面をセリフでベラベラと説明するのではなく、できるかぎり削って、最小限の描写をもって、観客に解釈を委ねている。だからこそ「映画って本当に面白い!」と思えました。

ヒナタカ:『クボ』を何度でも観たくなる理由も、まさにそこにありますよね。観るたびに、さらにキャラクターの内面が見えるようになり、より多くのことに想像が広がっていくんだと思います。



11:『かぐや姫の物語』の影響もあった?






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ヒナタカ:『クボ』の物語は、2013年の高畑勲監督によるアニメ映画『かぐや姫の物語』に影響を受けているところもあると思うんです。天上は完璧な存在だけど、地上は満たされていない世界である、といったところなどに……。

ぬまがさワタリ:私が素晴らしいと思うのは、『かぐや姫の物語』のオマージュでだけでなく、ある意味で“アンサー”になっていることだと思います。『かぐや姫の物語』は究極的には現世を肯定する内容ではないのですが、『クボ』では天上の永遠よりも素晴らしい“物語を語り継ぐ”ことがある、と訴えているんですよね。

ヒナタカ:それをストップモーションアニメでしか描けない、“だからでこその”表現に昇華していますよね。その物語を語り継ぐこと=不完全な現世の素晴らしさ=日本独自の“わびさび”という概念にも結びつけているというのも素晴らしい!



12:日本人であれば、絶対に映画館で観て欲しい!






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楠野一郎:総じて、『クボ』は世界のどの観客よりも、日本人こそが最も深いところで楽しめる作品ですよね。「だったら日本人が観ないと!」と訴え続けたいです。

ヒナタカ:まさにその通りですね。後は「Blu-rayやDVDで観ればいいや、とは間違っても思わないで!」「『ヒックとドラゴン』みたいに劇場で観なかったことを後悔するぞ!」ということです。

ぬまがさワタリ:映画館で観ることに、本当に価値がありますよね。でも、劇場数が少なく、観ること自体が難しいのも確かで、紹介マンガの読者の方からも「本当に観たいけど、隣の隣の県でしか上映していないよ!」などとも言われてしまいました。

ヒナタカ:「これから公開される劇場もありますので、公開されたらご家族ですかさず観て!」「遠出してでも観る価値があるよ!」と何度でも訴えたいですね。

楠野一郎:『クボ』がヒットしてくれると非常に心強いですよね。アニメ作品に限らず、劇場でかかる映画はお客さんがたくさん入るものと、入らないもので大きく差が開いているという現状がありますから。

ぬまがさワタリ:2016年の『この世界の片隅に』はSNSを中心とした口コミで観客動員数を増やし、上映館数も多くなったというブレイクスルーになりましたから、『クボ』もそれに続いて欲しいですね。年またぎで上映されていれば、まさに『この世界の片隅に』のような盛り上がりが生まれると思います。

楠野一郎:今は多くの方がTwitterの使い方を心得ている時代です。この座談会の冒頭でもぬまがさワタリさんが語っていましたが、ファンと配給会社さんが一丸となって、みんなの力で何かをやっていこうという感じになっているのも、本当に嬉しいです。

ぬまがさワタリ:後は、『クボ』の評判は映画ファンにはかなり浸透して来たと思うんですけど、それ以外の、あまり映画を観ない方にも届いて欲しい……ということですね。

楠野一郎:僕は、マンガ家さんにもっと観てほしいですね。人気のあるクリエイターさんの意見は“貫通力”が段違いだと思いますので。『クボ』というタイトルがただ広まるだけでなく、「じゃあ観に行こう!」と思えるフックがさらに増えるといいですね。

ぬまがさワタリ:個人的には、特撮ファンや“百合畑”の人にも観て欲しい……(笑)。

ヒナタカ:僕たち映画ファンの力1つ1つは弱いものだと思いますが、集まればかなり強い力になるのではないでしょうか。とにかく、『クボ』をもっと観てもらえるように、これからも応援しますよ!



【座談会参加者 プロフィール】



ぬまがさワタリ
映画と生きものと海外アニメと百合を愛するイラストレーター。最近は『KUBO』の紹介マンガをものすごい勢いで描きました(ついでに今回の座談会イラストも)。Twitter(@numagasa)では生きものトピックが多めですが、映画の感想や妄言も頻繁につぶやいているので覗いてみてください。映画ネタが異様に多い生きもの図解本『図解 なんかへんな生きもの』も12/15発売! 映画ファンの皆様もぜひお手に取ってみてくださいませ。

楠野一郎
脚本家・構成作家。『東京喰種 トーキョーグール』(2017年12月20日Blu-rayリリース)脚本を担当。他に『ケンとメリー 雨あがりの夜空に』、『天空の蜂』等の脚本も手掛ける。
またTVドラマ「ガチバカ!」(06/TBS)、「愛情イッポン!」(04/NTV)等の脚本や、「大槻ケンヂのオールナイトニッポン」(ニッポン放送)等ラジオ番組の構成も多数手がける。
演劇においては2007年より演劇ユニット・プロペラ犬を水野美紀と結成する。

ヒナタカ
シネマズ by 松竹などで活躍中のフリーライター。“カゲヒナタの映画レビューブログ”運営中。All Aboutでも映画ガイドとして執筆中。なぜか中高生向けの恋愛映画もよく観ています。

(文・構成:ヒナタカ、イラスト:ぬまがさワタリ)

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