シネマとクラシック~「2つのヴァイオリンのための協奏曲」で極上の発表会が開かれた!『ミュージック・オブ・ハート』

シネマズ公式ライターの田下愛です。

小さいころヴァイオリンのレッスンを受けていた筆者は、練習が大嫌いでしたが、大人になってオーケストラを始めてからは、演奏が楽しくてたまらず、楽器や音楽に触れる機会を与えてくれた両親に感謝をしつつ、日々ヴァイオリンの練習に励んでいます。

今回、ご紹介する映画『ミュージック・オブ・ハート』は、多くの子供たちにヴァイオリンを演奏する楽しみと希望を教えた一人の女性の実話を元にした物語です。

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1000人以上の子どもたちにヴァイオリンを教えた教師・ロベルタ

軍人の夫に裏切られてしまったロベルタ(メリル・ストリープ)は、2人の息子を抱えて生きるため、ニューヨークのハーレムの小学校でヴァイオリン教師になります。いざクラスが始まると、子どもたちは言うことを聞かず、「白人の音楽を習わせたくない」と黒人の母親が子供をクラスから引き離すなど、苦難の日々。しかし、それでもロベルタは果敢に授業に取り組んでいきます。

「下手に弾くと聞いている人がゲロを吐く」と、歯に衣着せぬ言葉で指導するロベルタは決して優しい先生ではありません。しかし、「厳しすぎる」と父兄からクレームを受けたロベルタが態度を和らげると、ほかならぬ子どもたちが「優しい先生は大勢いる」「いつものほうが楽しい」と希望します。そう、厳しいけれど、生徒本気で向き合おうとするロベルタの心意気を、彼らはしっかり受けとめていくのです。そして、ロベルタの指導のもと、練習を重ねた生徒たちは演奏会で腕前を披露して、観客たちから、スタンディングオベーションで讃えられます。

その後、ロベルタはヴァイオリン教師の仕事に打ち込むこと10年。1000人以上もの生徒たちを指導しますが、そんな彼女に最大のピンチが訪れます。市が予算をカットしたため、ヴァイオリンのクラスが打ち切られてしまうのです。しかし、ここであきらめるものかと、ロベルタはクラス存続の資金集めにチャリティーコンサートを計画。なんと、あのカーネギーホールの舞台に教え子たちとともに立つことに――

子どもたちの努力が希望を実現させた「2つのヴァイオリンのための協奏曲」

この作品は、一部登場するプロの演奏も素敵ですが、むしろ、つたない部分もあるロベルタの教え子たちの演奏に心を動かされます。最初はヴァイオリンを抱えてふざけていた彼らが、練習を重ねていき、コンサートで懸命に演奏する姿はとても感動的。「ああ、がんばってこんなに上手になったんだね」と、思わず映像に向かって拍手せずにいられません。そして、映画のクライマックスで、彼らは、ロベルタに賛同したイツァーク・パールマンら著名な演奏家たちとともに舞台でバッハの「2つのヴァイオリンのための協奏曲」を演奏します。

「音楽の父」ことヨハン・ゼバスティアン・バッハは、カンタータ(礼拝用音楽)を多数作曲し、礼儀正しくアカデミックな作風で知られる作曲家。彼が描き出す秩序正しい音の奥からは、気高く美しい音楽を作ろうとする静かな情熱が伝わってきます。そして、彼が書いた3曲のヴァイオリン協奏曲のうちの1つ「2つのヴァイオリンのための協奏曲」は、2つのヴァイオリンが奏でる旋律が厳格かつパッショナート(情熱的)なハーモニーを織りなす名曲。

コンサートの舞台では、大人も子供もプロもアマチュアも入り混じって一人一人が集中してこの曲を奏で、心をこめた演奏で、聴衆の心を動かします。

この「2つのヴァイオリンのための協奏曲」は、いわゆるレッスン教室の発表会の課題になることが多い印象が筆者はあるのですが、この映画で開催されるチャリティーコンサートもまた、資金集めイベントであると同時に、子どもたちの発表会でもあります。ロベルタと教え子たちは、その努力で彼らの“発表会”を極上のものに仕上げるのです。

よい音楽を奏でるために必要なのは、練習すること、そして心から弾くこと。先生ロベルタが教えてくれた希望を、子どもたちが実現させる「2つのヴァイオリンのための協奏曲」には、プロの演奏家たちだけでは決してなしえない感動があります。音楽やヴァイオリンの響きに惹かれたことがある方なら、きっと彼らの努力の結晶が心に響くはず! ぜひ見届けてみてくださいね。

(文:田下愛)


    ライタープロフィール

    田下愛

    田下愛

    フリーランス・ライター。雑誌、書籍、Webメディアで、幅広いジャンルの仕事をこなして活動中。ファンタジー映画が大好物で、『オズの魔法使い』『ナルニア国物語』『アリス・イン・ワンダーランド』など、魔法やおとぎの国を扱った作品にはすぐ飛びついてしまいますが、一方、『レインマン』のような人間をきっちり描いたドラマも好き。石ノ森章太郎先生をリスペクトする昭和特撮フリークでもあります。

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