『パッドマン 5億人の女性を救った男』がインド映画の新たな名作である「5つ」の理由!

12月7日公開の『パッドマン 5億人の女性を救った男』が最っ高のインド映画でした! 映画情報サービスIMDbでは8.1点、Rotten Tomatoesでは驚異の100%の満足度を記録するのも大納得、物語としての面白さと、老若男女が楽しめる間口の広さと、実在の偉大な人物を讃えた尊さなどなど……これ以上は求められないほどの完成度を誇っているのです。

そして、(詳細は後述しますが)本作は“全ての男性に観て欲しい映画”であり、実は“スーパーヒーロー映画”でもありました。その魅力と特徴を、ネタバレのない範囲で以下にたっぷりとお伝えします!

1:主人公はお節介を通り越して時にクレイジー!
だからこそ応援したくなる!

本作の主人公が何を成し遂げるのか、その功績がいかに偉大であるか……ということは後述しますが、まずは彼が前半にお節介を飛び越えて変人、いや、それどころか周りから見ればほぼほぼクレイジーな行動もやらかしてしまうことを、お伝えしなければならないでしょう。どれくらいおかしいかと言うと、作中で“(PADならぬ)MAD”と言われてしまうほどなのですから。

主人公は最愛の妻が不衛生な布で生理の処置をしているのを目にし、雑貨店で生理用ナプキンを購入するのですが、その高価さに妻からは反発されてしまいます。映画の公式サイト掲載の松岡環氏のコラムによると、当時のインドの物価感覚における生理用ナプキンの値段はファーストフード店で飲めるソフトドリンクの11倍、日本円にして1パック約1100円相当だというのですから、それも無理はありません。

そこで彼は、妻のために安価で清潔な手作りのナプキンを作ろうとリサーチと研究を重ねていくのですが……女子医大の門の前に立って女学生にサンプルを配ってアンケートを取ろうとしたり、自身の仕事を休んでまでナプキン作りを優先したり、図らずも(ネタバレになるので具体的には書きませんが)「それはさすがにダメだ!」と思ってしまう一線をも超えてしまったりと……彼は親戚どころか村人たちから白い目で見られるようになり、当の最愛の妻からもナプキン作りをやめてほしいと泣きながら頼まれるまでになってしまうのです。

しかしながら、「普通はここまでするはずがない!」な彼のクレイジーなまでの行動力こそが、本作の一番の感動へとつながっていきます。周りからどう思われようとも、見放されて1人だけになっても、決してあきらめることなく愛する妻のために猪突猛進になっていく主人公に「頑張れ!」「どうしてここまでしているのにみんなはわかってくれないんだ!」とたっぷりと感情移入ができるのです。

その彼の努力が結実するまでの道のりは、その後も困難という言葉では足りません。これ以上なく主人公をいじめ抜き、ほとんど絶望的ともまで言える状況までに追い込んでいく前半は苦しくもありますが、彼が目的のためにあの手この手を尽くしていく様はそれだけで面白く、それがあってこそ後半からの躍進に心の底から嬉しくなります。この“時にはクレイジーな行動もする主人公”を心から応援できることこそが、本作の根源的なエンターテインメントになっているのです。

2:インドにある女性への“差別的かつ矛盾した常識”が描かれていた!

主人公の行動がほぼクレイジーにもなっていくと前述はしましたが、裏を返せば彼だけがある意味で正しく、村の人々の方が間違った価値観で凝り固まっていた、とも言えます。

何しろ、作中では生理が“穢れ(けがれ)”とされており、その期間中の女性はベランダにある檻(!)に入れられ、家事もできず、社会進出も阻まれ、学校で教育を受けることすら叶わないのですから。インドにある女性への“差別的な常識”のせいで、主人公の妻のみならず多くの女性たちが不遇な扱いをされていたのです。詳しくは観ていただきたいのですが、初潮を迎えた少女がお昼には盛大にお祝いをされるのに、その夜には……というシーンには呆れ果ててしまうほどの“矛盾した常識”もありました。そもそもの主人公のナプキン作りも、「こんなバカな話があってたまるか!」ということが行動原理の一つになっているのです。これが、2001年という極めて最近のことというのも信じられない!

この「インドの差別的かつ矛盾した常識に反旗をひるがえす」も、本作の痛快無比なところ。作中ではハヌマーンという神様を崇めるための宗教的な装置が登場するのですが、主人公にはそれにも「これはおかしいだろ?」と正論を言うのです。村社会のような場所でも同調圧力に屈することなく、間違っているものを間違っていると断言する主人公の姿は、日本人も憧れるところが多いことでしょう。

3:スーパーヒーロー映画である理由はこれだ!

本作はアルナーチャラム・ムルガナンダムという実在の人物をモデルとした伝記映画です。映画の主人公はラクシュミという名前に変わっており、物語には創作の部分も多くあるようですが、作中の動物の血を使った実験や、女子医大生へ協力を仰ぐといった苦闘は、実際にもあったものなのだそうです。

彼が成し遂げたのは、「安価で清潔な生理用ナプキンを作った」ということだけではなく、「女性の雇用を生み出した」や「女性の経済的な自立を促した」ということにもある、ということが重要です。前述した通り当時のインドには女性への差別的な常識がまかり通っており、女性の社会進出も阻まれていたのですが、彼が発明したナプキン製造機は、それすらも覆していくのですから(その詳細な経緯は実際に観て欲しい!)

彼が“PADMAN”というどこかで聞いたようなスーパーヒーローのような名前で呼ばれるのも、サブタイトル通りに「5億人の女性を救った男」となったことが理由に他なりません。また、アメコミのスーパーヒーローは物理的に悪党や泥棒を倒すことできても、社会的に女性を救ったりはしていません。そういう意味では、主人公はフィクションをも超えた、本当のスーパーヒーローと言ってもいいでしょう。

映画を観た後は「こんなにスゲえ人が現実にいるのか!」とそれだけで感動を呼びますし、彼の “聖人”と言っても良いほどの尊い考え方そのものにも涙してしまいます。加えて、彼はもともと地位も学歴もなかったのに、前述した通り崖っぷちに追い込まれても決して諦めることなく、長年に渡り目的のために邁進し、この偉業を達成した……何かの夢を持っている人のみならず、働いている全ての人にとって勇気付けられることは、間違いないでしょう。

4:全ての男性に観て欲しい理由はこれだ!

本作は「全ての男性に観て欲しい!」と心から願える、究極的なまでにフェミニズムに溢れている映画と言えます。女性(の生理)について当事者ではない男性がひたすらに頑張り、それこそが差別的だった常識を変え、多く(5億人!)の女性を救うという物語になっているのですから。

言うまでもないことですが、男性は女性の生理の苦しみを知ることができません。主人公はナプキン作りの過程において生理の大変さを(擬似的にではありますが)思い知り、さらに「どうしてここまでできるのか」というほどの行動力を見せ、その理由のほとんどが「妻が大好きだから」って……これは全ての男性が見習わなきゃいけない姿ではないですか!

男性に観て欲しいもう1つの理由は、「男性だけでは絶対にわからないこともあるんだよ」というメッセージが投げかけられることにもあります。詳しくは観ていただきたいのですが、後半から登場する“第二のヒロイン”と呼べる女性は、客観的にそのことを教えてくれるのです。同時に、「男性だけで世の中を変えることは困難」ことや、「問題解決では女性との協力がどこかで必要になる」ことも訴えられていました。

映画を観た後は、女性への向き合い方や、またはどのように男性と女性が協力して仕事をしていけばよいか……など、さまざまな学びが得られることでしょう。

5:『ボヘミアン・ラプソディ』に通ずるクライマックスに大感動!

本作でさらなる感動を呼ぶのは、主人公が“演説”をするクライマックスです。詳しくは書きませんが、彼の演説はある一点において“下手”であるのにも関わらず、もう涙なしでは観られない、思わず立ち上がって拍手したくなるほどの高揚感があるのです。

なぜこの演説が心を震わせるのか……それは今まで観てきた彼がやってきたこと、その尊い行動原理と価値観が、この演説にストレートに表れているからでしょう。「物語がクライマックスのために積み立てられている」「主人公の想いがクライマックスで結実する」「俳優が本人が憑依したかのような名演を見せる」「リアルすぎてその時代にタイムスリップしたかのような感覚も得られる」というのは、現在公開中の『ボヘミアン・ラプソディ』のあの感動に決して引けを取りません!

なお、以下のアルナーチャラム・ムルガナンダムの実際の“TED”の動画も、作中の物語ともリンクする素晴らしいものになっています。日本語字幕も設定可能ですので、ぜひ映画と合わせて観ていただきたいです。

まとめ:“少数精鋭”のインド映画をもっと観て欲しい!
『バジュランギおじさんと、小さな迷子』も要チェック!

インドは世界最大の映画大国であり、年間に製作される本数はなんと2000本近くにも及ぶそうです。その中から日本で公開されるのは、年間でわずか数本のみ。言い換えれば、日本で公開されるインド映画はまさに少数精鋭、選ばれたごくごくわずかな傑作のみが観られるという現状であり、本作『パッドマン』もその1つなのです。もう、これだけで必見なんですよ!(力説)

『パッドマン』に通ずるインド映画の名作をあげるのであれば、『PK』と『きっと、うまくいく』になるでしょうか。この3本は、インド(もしくは世界)に根付く社会問題を描きつつ、誰もが楽しめるエンターテインメントに昇華されている、ということが共通しているのですから。

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『PK』では、風変わりな男の行動を追うことで、“コミュニティ(宗教)に根付くシステムを批判する”だけでなく、そこで“生きる人たちに正しい道を示していく”という、尊い物語が紡がれていました。

『きっと、うまくいく』では“格差が激しいインドにおける大学の制度の問題”を描き出していきます。3人のおバカな主人公たちによる物語は“どう生きるべきなのか”について、普遍的に全ての人に通ずるメッセージ性も備えていました。

映画は娯楽ではありますが、人の生き方や価値観を変える力をも持っています。『PK』と『きっと、うまくいく』と『パッドマン』は、間違いなくそうした作品であると断言していいでしょう。

さらに、来年2019年1月18日には『バジュランギおじさんと、小さな迷子』という、新たなインド映画が公開されます。

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『バジュランギおじさんと、小さな迷子』は、『ダンガル きっと、つよくなる』『バーフバリ 王の凱旋』に次ぐインド映画の世界興収歴代興行成績3位を継続中という大ヒット作であり、IMDbでは8.0点、Rotten Tomatoesでは100%評価という『パッドマン』とほぼ同等の高評価を記録しています。

『バジュランギおじさんと、小さな迷子』の内容は、“おバカでお人好しのおじさんが、迷子になってしまった失声症の女の子を家に送り届けて上げようとするロードームービー”であり、その旅路はほっこりと笑顔になるユーモアに溢れ、インド映画らしい豪華な歌と踊りで彩られているという、こちらもエンターテインメントとして申し分のない内容になっていました。“子供から大人まで楽しめる映画”としても、1つの理想形と言えるのではないでしょうか。

さらに、現在は不器用な父と子のヒューマンドラマの『ガンジスに還る』、インド映画のクオリティを日本に知らしめた『ムトゥ 踊るマハラジャ』の4K&5.1chデジタルリマスター版が、全国の劇場で上映中です。ぜひぜひ、少数精鋭のこれらのインド映画も、合わせてご覧ください!

(文:ヒナタカ)


    ライタープロフィール

    ヒナタカ

    ヒナタカ

    ヒナタカ 「カゲヒナタの映画レビューブログ」運営中のフリーライター。All Aboutでも映画ガイドとして執筆中。なぜか中高生向けの恋愛映画もよく観ています。

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