『午後8時の訪問者』〝カンヌの申し子〟ダルデンヌ兄弟が貫く信念

■「〜幻影は映画に乗って旅をする〜」

これまで7作連続で作品をカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品し、2度のパルムドールを含み、5作品が何らかの主要な賞に輝いている。まさにダルデンヌ兄弟は〝カンヌの申し子〟なのである。
そんな彼らの最新作『午後8時の訪問者』が4月7日より日本で公開となる。これまでヒューマンドラマに徹してきた彼らだが、その淡々と物語る演出は、サスペンスというジャンルでもその力を遺憾なく発揮している。

〜幻影は映画に乗って旅をする〜vol.25:『午後8時の訪問者』〝カンヌの申し子〟ダルデンヌ兄弟が貫く信念>

(c)Christine Plenus

小さな診療所で働く女医のジェニー。診察時間を過ぎた午後8時に診療所のドアベルが鳴るが、応じようとした研修医を制止しする。翌日になり、診療所の近くで身元不明の女性の遺体が発見される。それは前日夜に診療所に訪れた女性だったのである。ジェニーは罪悪感に苛まれ、その彼女の身元を調べようと奔走するのだ。

ダルデンヌ兄弟の作品を一言でいえば、「演出の映画」と言ってもいいだろう。それらのプロット自体はいたってシンプルで、例えば前作『サンドラの週末』では「会社を解雇されそうになった女性が、その撤回のために同僚にボーナスを諦めることを説得して回る」だったり、初のパルムドール作となった『ロゼッタ』は「お腹痛くなりやすいロゼッタちゃんが、仕事を探す」といった感じに、いずれも一言で説明ができる。
無論、本作も同じように一言で説明できる。しかし、まるで「世にも奇妙な物語」の一編かのようなミステリアスなプロットを、長編映画にただ引き伸ばすようなことはせずに、サスペンスとしての要素を残しながらも、これまでと変わらずに社会的な弱者を描き出すヒューマンドラマとして成立させる。その淡々さ、必要なショットだけを必要なだけ切り取る構成の巧みさは、作品作りを重ねるごとにブラッシュアップされている。

前述した2作品のように「労働問題」を扱ったり、『少年と自転車』のように少年が他者からの愛情によって成長していく様を描いたり、はたまた『ロルナの祈り』のように「移民問題」を扱ったりと、彼らの描くテーマは一貫してこの三つに分類される。それは、出世作の『イゴールの約束』から変わらない彼らの信念そのものだ。

イゴールの約束(字幕版)

不法移民の労働を斡旋する父の仕事を手伝う、15歳の少年イゴール。ある時、一人の労働者アミドゥが事故を起こすのだが、不法労働であることを隠すために医者に連れて行かず、結果死なせてしまう。イゴールはアミドゥとの約束を守るために、残されたアミドゥの妻子を気にかけるのだが、そんな折イゴールの父が彼女たちを売りに出そうとしていることを知る。

この「労働問題」「移民問題」「少年の成長」という3つの要素をすべて掛け合わせた同作で、ダルデンヌ兄弟という作家は世界から発見されることになる。フランスのセザール賞の外国語映画賞の候補に上がるだけでなく、アメリカの主要な批評家協会賞では外国語映画賞をいくつも受賞するなど、その知名度を挙げ、続く『ロゼッタ』でカンヌに招待されることにつながる。

この作家としてのポリシーを、繰り返し繰り返し維持しながら、それぞれの時代に合わせた物語に推移させて行くという点が、何年も同じ映画祭で愛されている理由なのだろう。考えてみれば、先日このコラムで紹介した『わたしは、ダニエル・ブレイク』のケン・ローチとも共通している部分がある。
ローチはアイルランドの、ダルデンヌはベルギーの、いずれもヨーロッパを代表する大国に隣接した小さな国の社会情勢を、世界に発信し続ける作家というわけだ。

今作『午後8時の訪問者』もまた、「労働問題」と「移民問題」にフォーカスを当てているのだが、これまでとの大きな違いは、主人公は移民でもなく、労働環境は充足されているということだ。主観的な物語から、客観的な視点へと向き合い方をシフトさせることで、近年ヨーロッパでとくに大きな問題となっている「移民問題」に対しての関心を強める狙いがあるのだろうか。

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(文:久保田和馬)

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