『父を探して』10の魅力!セリフなし、テロップなしの傑作!

今回は、現在上映中のアニメーション映画『父を探して』を紹介します。

本作は2016年(第88回)のアカデミー賞にノミネートされた作品。その魅力はひと言ではとても表すことができません。ひとつずつ、以下に紹介しましょう。

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1.全編セリフなし!テロップなし!

本作は、全編において、セリフも、テロップも、いっさいありません! あるのは、少年による奇想天外な冒険だけ。強いて言うのであれば、“登場人物が何かをしゃべる”シーンはあるのですが、それはどこの国のものかもわからない音の羅列にすぎないため、セリフとは認識できないのです。

言葉がなくてもわかるということは、翻訳をしなくても、そのまま世界中の人々が楽しめる映画になっているということ。そして、セリフやテロップがなくても、何が起こっているのか理解でき、はたまた“観客に考えさせる余地”を残していることが本作のうまいところです。

物語は“少年が、出稼ぎにでてしまった父親を追いかける”というシンプルなものである一方、映し出されるさまざまなものには何らかの“メタファー(隠喩、たとえ)”が隠されているような奥深さもあります。なんとなく観ているだけでも、この不思議な世界にどっぷりと浸れるでしょう。

2.絵画の世界へようこそ!

本作の画は、クレヨン、色鉛筆、切り絵、油絵具などを使い分ける“手描き”となっています。手描きによるジャングルの色彩は暖かく、ときには都会の冷たさを表現したりもします。

映画の製作期間は3年、アニメーション化の過程では数人のアシスタントがいたとはいえ、アブレウ監督は背景から登場人物の作画まで手がけたというのだから驚きです。なお、映画の半分は手作業、もう半分はデジタル製作とのことですが、作画の違和感はまるでありません。

アニメーションのおもしろさの理由は“絵が動くこと”。色鮮やかな絵画をたっぷり使ったアニメーションで観られるというこのぜいたくを、ぜひ味わってほしいです。

3.音楽がクセになる!

本作の音楽は、6人組のパーカッショングループ、サンパウロNo.1と称されるラッパーのEMICIDA(エミシーダ、エンディング曲を担当)など、さまざまなミュージシャンが作り上げています。

ドラム缶を軽く叩くような親しみやすい音が響き、リズミカルに構成され、全体を聞けばどこか浮遊感もあるような、この不思議な音楽。これだけでも本作を体験する価値があるでしょう。

4.主人公の少年がかわいい!

本作の大きな魅力となっているのは、キャラクターのかわいさ。とくに主人公の少年は、丸顔で、どこかのお化けのような毛が3本生えていて、手や足は棒のようで、ほっぺたが赤く染まっているというルックスです。

この子が劇中において、飛んだり跳ねたり、必死になって冒険するんですから、萌え殺すつもりかとさえ思うくらいです。かわいいもの好きにはたまらんでしょう。

5.意外と怖い?

主役の男の子がかわいいとはいえ、本作は決して“子ども向け”ではありません(とはいえ、子どもが観てはいけないということはありません)。

劇中には、世界が急に真っ黒になったり、“世界が牙を剥く”ような、ホラーかと思うくらいの演出があるのです。この、“怖さ”は作品のテーマと密接に絡んでいます。

6.描いているのは“世界の縮図”

少年が冒険する世界は、決して楽しいものではない、それどころか恐ろしいものとして描かれています。

具体的には、“過酷な労働が強いられる工場や村”や、“無機質な都会”がはっきりとした形で登場するのです。これは少年が暮らしていた(はじめにいた)のどかな村とは対照的です。

なぜこのような表現になっているかというと……じつは本作は“ブラジルの社会”を表現しているのです。ブラジルという国は長い独裁政権下にあったという歴史がありますし、経済成長の最中でもさまざまな問題がはびこっているのです。

また、本作で描かれたことは、ブラジルに限らず、発展途上国(または先進国でも)で起こりうることです。私たち日本人であっても、かつての日本では高度経済成長期において、工業汚染などの環境問題が浮上したことがあるのですから、劇中の描写にハッとすることは多いでしょう。

本作『父を探して』は、“世界の縮図”を、とても恐ろしい形で映し出しているのです。

とはいえ、露骨に環境保護を訴えている内容ではない、ということがおもしろいところ。本作は、描かれた世界そのものが“どうであったか”という判断を、観客に投げかけているかのようです。

7.結末はどう解釈する?

本作の結末は“観る人によって分かれる”ものになっています。ネタバレになるので書きませんが、「◯◯だからこうだ」「いや、ここでは◯◯になっていた」と、友達どうしで観ると議論に花が咲くでしょう。

解釈の糸口は多分に用意されています。たとえば“赤い鳥の正体は?”、“少年が地面に隠したものは何か?”などなど……。けっきょくのところ、“答え”はないかもしれないのですが……。

私が本作の結末から思い浮かんだテーマは“自由”でした。しかし、これも個人の解釈です。観る人にとっては、また違ったテーマが思い浮かぶのかもしれません。

8.アニメーション作家としてのメッセージもある

公式サイトに掲載されているアブレウ監督のインタビューでは、「私がこの映画を制作した方法そのものが政治的なメッセージです」「アニメーションのクリエイティブな可能性についてのメッセージでもあります」と書かれています。

このアニメーション映画は、確かに一般的なアニメーションの製作過程とはまったく異なるものでした。結果として本作『父を探して』は40の国際的な賞を受賞、アカデミー賞にノミネートされたのですから、そのメッセージは観る人々に伝わったのではないでしょうか。

こうした監督の作品作りの目的が、作品にそのまま反映しているのも、またおもしろいものです。

9.監督は高畑勲や宮崎駿にも影響を受けていた!

アブレウ監督は、フランス・チェコスロヴァキア合作のアニメーション映画『ファンタスティック・プラネット』に夢中になったため、アニメーションという普遍的な分野で大人のテーマを扱うというアイデアを、本作『父を探して』に取り入れたようです。

『ファンタスティック・プラネット』は知る人ぞ知るカルト的な人気を誇る“トラウマアニメーション映画”なので、こちらが好きな方は本作も気に入るかもしれません。

なお、監督は、高畑勲や宮崎駿によるスタジオジブリ作品にも影響を受けていると明言しています。本作と、ジブリ作品の共通点を探してみるのもおもしろいかもしれませんね。

10.とにかく、唯一無二の魅力のある作品だ!

『父を探して』の魅力は、これまで書いてきたとおり、ひと言では表せません。
言葉ではなく、観てこそわかる魅力があるので、ぜひ劇場に足を運んで欲しいのです。

2016年3月下旬現在、本作を鑑賞できるのは東京のシアター・イメージフォーラムただ1館だけではありますが、今後は拡大公開が予定されています。ぜひ、唯一無二の魅力を体感してください。

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(文:ヒナタカ)


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    ヒナタカ

    ヒナタカ

    ヒナタカ 「カゲヒナタの映画レビューブログ」運営中のフリーライター。All Aboutでも映画ガイドとして執筆中。映画に対しては毒舌コメントをしながら愛することをモットーとしています。

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