早くも今年のベスト1候補! 『最愛の子』から浮かび上がる中国の闇

■「キネマニア共和国」

最愛の子

(C)2014 We Pictures Ltd.

 

『ラブソング』(96)『ウォーロード/男たちの誓い』(07)など、多彩なジャンルに挑戦し続けながら常に映画的カタルシスをもたらしてくれる才人ピーター・チャン監督が、今度は現代中国社会の闇を描きます……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~》

中国国内における児童誘拐をモチーフにした『最愛の子』です。

我が子を奪い去られた
親たちの哀しみと執念

現在、中国では年間20万人もの子どもたちが行方不明になっているそうですが、要は子どもをさらっての人身売買などが今なお行われている中、2008年3月に誘拐された子どもが3年後の2011年2月に両親の許へ帰ってきたという実際に起きた誘拐事件を基にドラマが組み立てられています。

こう書くと、我が子を誘拐された親の必死の行動を描いた作品かと思われがちですが、そこはピーター・チャン監督、単なる感動作で終わらせたりはしていません。

本作の秀逸かつ衝撃的な部分は、誘拐された子を我が子のように育てていた女の悲劇までも描いていることです。

本作は大きく2部構成が採られていて、前半は3歳の息子ポンポンを誘拐された父親ティエンが決死の捜索を繰り広げていきます。幾度も危ない橋を渡り、時に殺されそうになりつつも、それこそ美談などといった言葉が空々しく響いてしまうほどの父親の壮絶な執念が描かれていきます。

そして後半は、もはや奇跡としか言いようのない息子が見つかり、親許に返されますが、その3年の間、ポンポンが誘拐された子であることを知らぬまま、我が子のように育てていた誘拐犯(既に病死)の妻ホンチンがいました。しかもホンチンにはもうひとり、ポンポンの妹として育てていた幼女ジーファンがいたのですが、彼女も警察に連れていかれてしまいます。

一気にふたりの子どもを亡くしたホンチンは、嘆き哀しみの極致の中、ふたりにまた会いたい一心で、ティエンらの住む町まで引っ越してきますが……。

生みの親と育ての親
それぞれの深き愛の描出

前半は被害者たる父の執念がダイレクトに、しかし後半は加害者であることを知らぬまま、実は被害者にもなってしまう母の哀しみが、あたかも対のように描かれていくことで、こうした児童誘拐事件のもたらす救いのない真の悲劇が如実に顕れていきます。

また劇中はこればかりではなく、一人っ子政策にまつわる中国社会ならではの問題点はもとより、諸所に置かれた微妙な人間関係の数々、さらには正義の拳をふりあげる市民団体の虚と実などなど、犯罪が社会と人間に与える壮絶な負の想いが如実に描出されていきます。

今回もっともその想いを代弁しているのが、ホンチンに扮したヴィッキー・チャオで、今や中国四大女優のひとりとしてその名を知られ、『So Young~過ぎ去りし青春に捧ぐ~』(13)で監督デビューも果たした才女は、今回の企画の趣旨に大いに賛同し、全編ノーメイクで役に挑みながら、中国の実情がもたらす“母”の哀しみを全身で体現しており、既にチャイニーズ・アメリカン映画祭をはじめ世界各国の女優賞を受賞しています。

ピーター・チャン監督はこうした俳優たちの肉体から発散される嘆きそのものをあますところなく捉え続けることで、一見救いのないような内容ながらもその問題提起をしつつ、同時に生みの親と育ての親、それぞれの愛の深さを濃厚に示しながら、哀しみの中から見る者に心の浄化をもたらしてくれます。

2016年が始まって、早くもベスト1候補になり得る名作の登場です。ここで描かれる親たちの、そして子供たちの運命を、ぜひとも見届けてあげてください。

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(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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