日本映画の企画・製作について語り合う—前篇−
 塩田明彦×斉藤守彦対談


新東宝のプロフィット・シェアリングのメリット、デメリット

斉藤 で、率直な話、本を読まれていかがでしたか?

塩田 やっぱり、あってしかるべき本ですよね。あの素晴らしい「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」を書いた人に依頼される本だと思いました。前の2冊に比べると、確かに教科書っぽい書き方を意図的にしていますが、とても興味深く読みました。

斉藤 過去の出来事をまとめるのは大変な作業ですけど、調べて行く作業は楽しかったんです。特に楽しかったのは、新東宝という映画会社は、どうして潰れたかという点。

塩田 ああ、なるほど。

斉藤 新東宝は東宝と大変な闘いを繰り広げていて、佐生という当時の社長が、プロフィット・シェアリングという特殊な算定方式を用いたんですが、後に東宝が黒澤プロを作る時に、あれを使っているんですね。

塩田 そうなんですか。あのプロフィット・シェアリングというのは、若干気になりました。

斉藤 例えば塩田監督がプロダクションを作って映画を製作すると。それにプロフィット・シェアリングを採用すると、塩田監督にはお金が入ってきて儲かりますが、プロダクションにはお金がプール出来なくなってしまう。

塩田 ああ、なるほど。利益がプール出来なくなるんですね。

斉藤 そうです。利益分配の比率が、圧倒的に中心人物に行ってしまいますから。

塩田 企業としての内部留保が足りなくなるってことですか?

斉藤 そうですね。

塩田 でもアメリカでは当たり前に行われていますよね、監督とか脚本家が興行から歩合制で利益を得るという。日本映画では、バブルの時に一部でだけ行われましたけど。

斉藤 え、そうなんですか?

塩田 一瀬隆重さんが製作したホラー映画。「リング」とかでやっていたそうです。どのくらいの率かは知りませんけど。

斉藤 興行収入を元に起算するんですかね?

塩田 配給収入か興行収入かは分からないけど、劇場からの収益を分配するという。僕は一度も分配されたことありません。所謂二次使用でDVDの売上から印税と称するものを分配されたことはありますが、一次使用の収入からもらったことはありません。

この方式は「ネット・プロフィット」と呼ばれる利益分配方式で、興行収入から興行サイドが約半分を徴収した後の金額(配給収入)を、配給会社が配給手数料、P&A(上映用プリントの作成代と広告出稿料)をトップオフし、その残額が製作委員会の収入となる。この段階で出資額を回収することが出来た場合、当初の契約に則って制作(「製作」と「制作」の違いについては、「映画を知るための教科書 1912−1979」を参考されたし)側が成功報酬を受領し、それをネット・プロフィットと呼称する。対談での塩田監督の発言によると、その追加報酬を監督が受領したとのことだが、ネット・プロフィットの場合、報酬は製作委員会が制作会社に支払うものである。

ただし制作会社が受領した金額をどう処理するかは自由で、それを監督に追加報酬として支払ったものと考えられる。

「これを撮りたい」と「これは当たる」が同時に起こったものが、良い企画。

さすがに現役映画監督だけあって、本書冒頭にある「製作と制作」「企画はいかにして生産されるか」について、少なからず意見と異論があるようだ。

塩田 「映画を知るための教科書 1912−1979」の最初に、企画の話が出てくるのは、うまいなと思ったんですよ。ちゃんとツカミを用意して入っていくんだなという。

斉藤 こういう順番になるとは僕も思ってなくて、でもこの順番で読んでみたら、確かにこのほうが良いなと。

塩田 あ、編集の意図があったわけですね。それは確かなプロの狙いですよ。結局企画というものは、僕らプロにとってもわけが分からないものですけど、要するに監督、脚本家、プロデューサーにとって作品のタネなわけですよ。ここからすべてが始まるという。と同時に、商品のタネであるわけで、監督が「これを撮りたい。面白くなるぞ」という直感と、「これは当たるぞ」という直感が同時に起こったものが理屈上は良い企画。

でも良い企画って本当なんだか分からなくて、昔東映の岡田茂社長が、「いいか。次の映画のタイトルは『県警対組織暴力』だ。これで撮れ」と言われて、脚本家の笠原和夫さんが頭を抱えたり。結局、地方では刑事になる人間と、やくざになる人間が、中学高校と同じクラスにいて、どちらも社会からドロップしてたりしてて、タイトルとは逆に、松方弘樹と菅原文太の対立しているんだけどズブズブの話を作って傑作なわけですよ。だからそれは良い企画だったんですよ。それはプログラム・ピクチャーの時代だから出来たことではあるんでしょうけど。

斉藤 そういう時代に、岡田茂の発想を実現するだけの力が、現場にあったから。

塩田 もちろんそうです。量産体制の中で映画が作られていく良さですよね。

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    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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