2021年12月23日

<新作レビュー>『ただ悪より救いたまえ』アジア諸国を駆け巡る壮絶!韓国ノワール・ヴァイオレンス・アクション

<新作レビュー>『ただ悪より救いたまえ』アジア諸国を駆け巡る壮絶!韓国ノワール・ヴァイオレンス・アクション



■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

東京から仁川、そしてタイのバンコクとアジア諸国を渡り歩きながら、誘拐された娘を救出すべく奔走する殺し屋インナム(ファン・ジョンミン)と、そんな彼に兄(豊原功補)を殺されて復讐に燃える殺し屋レイ(イ・ジョンジェ)。

何せどちらも情け無用の残虐非道テクニックを駆使する凄腕ゆえに、いざ両者が邂逅したらもうエキサイトどころではないハイテンションのとんでもない殺し合いへと発展!

とにもかくにも絶対にヤワなことはしない徹底的に激しい描写で常に観客を騒然とさせる韓国ノワールですが、その中でも本作はかなりの上位にランキングされるヴァイオレンス・アクション映画の傑作です。


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『チェイサー』(08)や『哀しき獣』(10)『殺人の告白』(12)などの脚本家として名を上げたホン・ウォンチャンの監督2作目ですが、ここでは壮絶な暴力描写を駆使しながら、闇の社会に生きる者が血生臭い罪を矢継ぎ早に犯しながらも幼い命を守ろうとする、捻じ曲がってはいることも承知した上での「心の救済」を熱くクールに描出。

その伝では『パラサイト 半地下の家族』(19)などポン・ジュノ監督作品などで知られるホン・ギョンピョ撮影監督のキャメラワークが秀逸で、特にさまざまなアクション・シークエンスの流麗かつとてつもなくダイナミックな構図で魅せる映像世界は、確実に主人公たちの心情を巧みに代弁してくれています。


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キャストでは『新しき世界』(13)で義兄弟の仲だったファン・ジョンミンとイ・ジョンジェが、ここでは一転して敵対しての血みどろ攻防戦を繰り広げていく、どちらも極めておっかない凄みをもって、見る者に鳥肌が立つようなカタルシスをもたらしてくれています。

また特筆すべきは性転換手術の費用を得ようとしてインナムに協力したがために、とんだ災難に見舞われ続けてしまうユイ役のパク・ジョンミンでしょう。

日本から豊原功補と白竜も参加し、少なくとも本作の中に登場する大人たちに善人などひとりもいないのでは?といったすさまじいピカレスク・ワールドが、リアルながらもどこか幻惑的な迷宮感覚で繰り広げられていきます。

今の日本映画ではなかなか醸し出せない、韓国映画ならではの怖さとクールさ、そして内に秘めた哀しいまでのエモーションが見事に融合したノワールの快作です。

(文:増當竜也)

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