映画『さがす』で指名手配犯を演じた清水尋也「毎回違った印象を持たれるのが役者の本望」
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自費製作映画『岬の兄妹』(2018)で長編映画監督デビューを果たし、各映画賞を受賞した片山慎三監督の商業映画デビュー作『さがす』が1月21日に公開される。とある指名手配犯を「さがす」ために姿を消した父親・智(佐藤二朗)を、その娘・楓(伊東蒼)が「さがす」物語だ。
連続殺人犯として指名手配された山内照巳を演じるのは、映画『渇き。』(2014)『東京リベンジャーズ』(2021)、そしてNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」(2021)など、作品ごとに異なる印象を植え付け続ける役者・清水尋也。指名手配犯を演じるにあたり注力した点や、役者という仕事の魅力について話を聞いた。
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「普通の殺人鬼じゃ面白くない」殺人犯と青年のコントラストを意識
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――あらすじを読んで想像した内容とは、まったく違う展開が待っている映画ですね。演じ手として、この物語をどのように受け止めていますか?
清水尋也さん(以下、清水):娘が父を「さがす」物語の軸がありつつも、登場人物それぞれの人生に焦点を当てている、細部まで丁寧に作られた作品だと感じます。
誰かひとりの目線だけで物語を追うのも見方のひとつですが、同じ人間の同じ行動でも、少し視点を変えるだけでまったく違う世界が広がる。そんな点にも注目して見てもらえたら、さらにこの映画の深みが増すんじゃないでしょうか。
――確かに、何度も見ることでさまざまなことに気づける作品ですね。
清水:何回でも見てもらおうと思ってます(笑)。
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――清水さんは、連続殺人犯として指名手配されている山内照巳を演じていらっしゃいます。これまでと比較して、役を表現する難しさはどういった点にありましたか?
清水:台本を読んで、役を理解して、監督と話し合って……。僕が役者としてやるべきことは、これまでの作品と変わらなかったと思います。それぞれに、それぞれの難しさがあるというか。
ただ今回は「普通の殺人鬼」じゃ面白くないな、とは思ってました。
――と、いうと?
清水:山内の場合は、彼が殺人犯となる決定的な出来事が過去に起こったわけではないと思うんです。彼のなかにある猟奇的な一面は、いつの間にか出来上がってしまったものなんじゃないかと僕は解釈をして。ふとした瞬間、自分の嗜虐性に気づいただけの人間、というか。だからこそ、普通の人間に擬態できる。普通の人間として仕事をしながら生きていける。
目的があって人を殺めているんじゃなく、歯を磨いて顔を洗ってご飯を食べて……といった日常的な習慣に「殺し」が組み込まれている人間なんですよね、きっと。すごいことしてるぞ、といった自己顕示欲もない。いつ猟奇的なスイッチが入るかわからない恐怖を表現したいと思っていました。
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――清水さん自身は、山内という人間をどう捉えたのでしょうか?
清水:殺人事件を報道するニュースで、容疑者の知人をインタビューした模様が流れることがありますよね。「まさか、そんなことをする人だとは思いませんでした」って。温厚な人や、いたって普通の人に限って、そういう猟奇的な一面があるのかもしれない。僕が演じた山内も、そういう人間なんじゃないかと想像しながら演じました。
――殺人犯としての一面と、青年としての一面。二面性のコントラストを表現するのに、特に意識されたのはどんな点でしょうか?
清水:彼の「殺人鬼である」一面だけを強調するよりも、好青年っぽい話し方を意識することで「いつも、こういうやり口で人を巻き込んでるのか……」と想像してほしい意図はありました。
最初はごく普通の青年なのに、ふとした瞬間に「殺人鬼である」スイッチが垣間見える。たとえば、人が歩いて遠ざかっていく後ろ姿を見つめる彼の目が、だんだん怪しくなっていく……とか。「やはり山内という人間は危険かも」と思ってもらえるシーンを散りばめるようにしました。
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片山監督とも「このシーンで“目”を変えましょう」とか、細かく話し合いながら山内という人物像を作り上げていきました。言葉というよりは、目の動きや視線など、細かい所作を相談することが多かったと思います。
――山内の、爪を噛む癖も印象的ですよね。
清水:あの癖については、もともと台本に書かれてありました。ただ、どの指を噛むか、どういう風に噛むかは、現場で決めていきましたね。「もっとフライドチキンを食べるように噛んで」とか「骨についた細い肉をこそぎ取るようなイメージで」とか。山内の本性が見える象徴のようになっているので、ぜひ爪を噛む癖にも注目してほしいです。
ライブ感を重視した現場で「リミッターが外れる瞬間を表現したかった」
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――シリアスなシーンが多い作品ですが、現場ではどのように撮影を重ねられたのでしょうか?
清水:片山監督とはもちろん、主演の佐藤二朗さんともいろいろと提案し合って、何度もテイクを重ねつつ作り上げていきました。「次はこういう感じでやってみよう」とか「このセリフは一回なしにするね」とか、現場でのライブ感を重視したやりとりが多かったです。
――撮影するのに、最も苦労したシーンを挙げるとしたら?
清水:基本的に5〜6回以上テイクを重ねるのが当たり前の世界だったので、どのシーンも大変でしたね。強いて言うなら、やっぱり人に手をかけるシーンは難しかったです。迫力もないといけないし、恐怖もないといけない。山内のリミッターが外れる瞬間を表現したかったので、より丁寧にテイクを重ねた記憶があります。
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――最も印象に残っているシーンについても教えてください。
清水:「どういう覚悟で撮影に臨めばいいんだろう?」とギリギリまで悩んだのは、山内が自分の人生を振り返る、海岸でのシーンです。作品の中には、彼の本性が垣間見える瞬間が散りばめられているんですが、あのシーンでは、長尺でこれまでの人生について話しているので。どう表現すればいいのか、最も難しいと感じたシーンですね。
観客の期待を裏切り続けるのが役者の仕事
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――役者として、作品の中でさまざまな人生を歩まれている清水さんですが、もし現在とは違う人生だとしたら、どんな職業を選んでいますか?
清水:そうですね……きっと、音楽をやってると思います。高校の時にバンドを組んでいて、今も趣味で音楽を作ったりラップをやってるんです。小さな頃から音楽を中心としたカルチャーが身近にあったので、何かしら表現をする仕事をしていると思います。
――“創作”が活動の根底にあるんですね。ちなみに清水さんは、役者として特定のイメージを持たれることに抵抗はありますか?
清水:いえ、むしろそれこそが、役者の面白さだと思ってます。人によってまったく違うイメージを持ってもらえるのが、僕の本望です。毎回、期待を裏切り続けるのが仕事のひとつだと思っているので『さがす』でもイメージを払拭できていたら嬉しいですね。
作品ごとに違うイメージを残すことが、役者としての力量の提示にもなるんじゃないかと考えていて。そこからまた新たな仕事に繋がっていくと思うと、やる気がわきます。見事に毎回まったく違うイメージの役をいただけているので、役には恵まれてますね。こんな職業は他にないんじゃないでしょうか。
人によっては僕のことを親しみやすい男だと思っていたり、無愛想な奴だと思っていたりするかもしれない。「同じ人だと思わなかった」と言われる瞬間が、一番嬉しいですね。
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(スタイリスト=八木啓紀/ヘアメイク=三田明美/撮影=Marco Perboni/取材・文=北村有)
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