近年再評価されているポーランド派の監督が描く両極の青春

1945年5月8日の戦勝記念日の祝賀ムード溢れるロンドンの街の中を、若き日のエリザベス女王が駆け巡るという、現在公開中のイギリス映画の傑作『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』を観たときに、ふと懐かしい映画を思い出した。同じ戦勝記念日とその翌日までの短い時間を描いた映画で、ロンドンから東に1000マイル隔てた、ワルシャワを舞台にした50年代を代表する作品である。

アンジェイ・ワイダの『灰とダイヤモンド』。ここ数年、毎秋に行われる「ポーランド映画祭」が連日大盛況を収め、再評価されつつあるのが、このワイダを筆頭とした所謂〝ポーランド派〟の諸作である。

灰とダイヤモンド [DVD]

ネオレアリズモの影響を強く受け、第二次大戦後のポーランドのリアリティを見つめてきた作品の数々は、日本を含む世界中で高く評価された。その中でも、(おそらく日本では)最も高い評価を受けてきたのがこの『灰とダイヤモンド』なのである。戦勝記念日のワルシャワ。抵抗組織に属している青年マチェックが、ソ連からやってきた共産地区委員長の暗殺を命じられる。ところが、襲撃した車に標的は乗っておらず、別の人物を殺してしまっていたことに気付くという物語だ。

ポーランドに生まれ、90歳を迎えた現在も、ポーランドの歴史と共に映画を作り続けているアンジェイ・ワイダ。近作では自身の父親が巻き込まれたカティンの森事件を描いた作品を作るなど、その創作に込められた自国への思いは揺るぎなく、それは彼のフィルモグラフィーの初期から変わっていない。デビュー作『世代』から『地下水道』と本作『灰とダイヤモンド』に続く〝抵抗三部作〟は、戦後のポーランド社会の実情に切り込み、その波に押しつぶされていく若者の姿を切なくも、生々しく描き出し、観る者すべてに鮮烈な印象を与えた。

とくにこの『灰とダイヤモンド』で常に語られるのは、そのラストシーンなのである。例えばマイク・ニコルズの『卒業』と同じように、作品の内容よりもそのラストシーンばかりが一人歩きしてしまっていると言われても仕方がないほどに完璧なのだ。町外れのゴミ捨て場で、軍によって射殺されて倒れこんでいくズビグニエフ・チブルスキ演じるマチェックの姿は、抵抗の無力さとそれを生み出した戦争の無力さと、そして人間の脆さを同時に語る。ワイダが世界に発信したのは反戦のメッセージだけでなく、当時のポーランドの哀しき実情なのである。

この4年後1961年に、ワイダと脚本のイエジー・アンジェウスキが再びタッグを組んだ『夜の終りに』も見逃せない映画だ。

夜の終りに [DVD]

こちらは、60年代リアルタイムの若者の姿を描き出した作品で、クデウィシュ・ウォムニツキ演じる主人公がナイトクラブで出会った女性と一夜を過ごし、翌朝にいなくなっていた彼女を探すという非常にシンプルな物語だ。(劇中の友人の一人で、若き日のロマン・ポランスキーが出演しているのも興味深い)
男女の一夜をやたらと緊張感の高いマッチ箱を飛ばすゲームに興じてさせたり、哲学談義に明け暮れさせたりと、なかなか軽やかな作りで、前述の〝抵抗三部作〟をはじめ、他のワイダ作品の中でもかなり観やすい作品になっている。そして何より、主演のウォムニツキの所作がひとつひとつ端正で格好が良い。とくに、クライマックスでしゃべりかけるヒロインの口元をスカーフで制するところなんかは、あまりにもクールだ。

『灰とダイヤモンド』も、紛れもなく青春映画だった。しかしそれは戦後すぐの重苦しい空気が残る、過去と未来に挟まれたポーランド社会の中でもがき苦しむ若者の姿であった。同じようにおよそ1日の中に収められた青春映画という共通点はあっても、『夜の終りに』のほうは対照的に現在という一点だけを生きている。それは現代社会にもストレートに通じている部分があり、その数年でポーランド社会が大きく変わってきたということが明確に受け取れるのである。

(文:久保田和馬

    ライタープロフィール

    久保田和馬

    久保田和馬

    久保田 和馬 1989年生まれ。映画評論家/映画ライター/映像作家。フランス映画とアジア圏の映画をこよなく愛する。大学時代からの自主制作の延長で映像制作を行い、2013年から文筆業を開始。「図書新聞」へ映画評の寄稿、「リアルサウンド映画部」への寄稿など。

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