映画コラム
実写版『美女と野獣』は日本でも快進撃をみせるのか
実写版『美女と野獣』は日本でも快進撃をみせるのか
(C)2016 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
3月17日に全米で封切られるや否や、大方の予想を上回るスタートダッシュを見せた実写版『美女と野獣』。最初の週末だけで1億7000万ドルを超える興行収入を叩き出し、春シーズンのオープニング記録を樹立。歴代のオープニング成績で見ても、第6位というとんでもない記録だ。(速報時の全米興収レポートでは7位と報じたが、確定値で『アイアンマン3』を上回ったのである)
そんな本作が、満を持して4月21日から日本でも公開される。例によって世界の主要国の中で最も遅い公開とはいえ、未だ熱狂冷めやらぬだけに、最も映画館に人が集まるゴールデンウィーク興行の主役になることは、もはや間違いない。
〜幻影は映画に乗って旅をする〜vol.26:実写版『美女と野獣』は日本でも快進撃をみせるのか
(C)2016 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
さて、いつもは作品の内容に踏み込んでいるこのコラムではあるが、今更ディズニーを代表するこの物語について語るべきことはないだろう。となると、やはり世界で何が起こっているのか、それを紹介しておく必要がある。
華麗なスタートダッシュについては最初のパラグラフで説明した通りであるが、それからおよそ1ヶ月。全米公開27日目を迎えた4月12日現在の興行収入は、アメリカだけで4億3800万ドルを超える。これは『E.T.』を抜いて全米歴代14位の好成績で、すぐ上にいる『シュレック2』と『ダークナイト ライジング』をも射程圏内に捕らえている。
もっとも、ハリウッド映画といえば〝続編・リメイク・フランチャイズ〟が当たり前になった昨今。例外なく本作も〝リメイク〟映画ではあるが、上位にいる13作品はジェームズ・キャメロンの2作品と、第1作目の『スター・ウォーズ』を除き全てが〝続編〟か〝フランチャイズ〟作品である。つまり、シリーズ化を前提に作られている作品を除いた〝非シリーズ作品〟としては『タイタニック』に次ぐ歴代2位ということになるわけだ。
そして、史上29作品目の世界興収10億ドル突破もすでに達成している。この後日本公開が始まれば、少なく見積もってもベスト20に入ることは間違いないだろう。
さて、本作と比較するならば、相手はオリジナル版でもあるアニメ版『美女と野獣』か、それとも一昨年公開されたディズニー・プリンセス実写版の『シンデレラ』か。
興行的には、言わずもがな両作を圧倒しているのが真実だ。『シンデレラ』は全米2億ドル、世界興収5億ドルと、文句のつけようが無いヒット作であるが、この数字を今回の『美女と野獣』は、公開から1週間足らずで抜き去っている。
一方、91年に公開され最終興収2億1000万ドルのアニメ版『美女と野獣』。貨幣価値を現在と同じにして考えると、約3億9000万ドル。つまり、3週目の週末で、実質的にオリジナルの興収を超えることにも成功したというわけだ。
アニメ映画として初めて、アカデミー賞の作品賞にノミネートされた同作は、後々IMAX版や3D版が公開されるなど、未だに高い人気を誇っている。そういえば、筆者が学生時代レンタルビデオ店で働いていた数年前、この映画だけは常に貸出中だったことをよく覚えている。
本作がアカデミー賞の候補に上がった第64回といえば、『羊たちの沈黙』が主要5部門を制覇した年で、「アニメ映画が入るほど層が薄い年だった」とも言われている。しかしながら、本作が作品賞5枠の中で仮に5番目の評価だったとしても、そこに入らなかった作品が尋常ではない。
例えばリドリー・スコットの傑作『テルマ&ルイーズ』、黒人監督として初めて監督賞候補に上がったジョン・シングルトンの『ボーイズ’ン・ザ・フッド』。さらにはテリー・ギリアムの『フィッシャー・キング』やコーエン兄弟の『バートン・フィンク』、ジョン・アヴネットの『フライド・グリーン・トマト』など、いずれも未だに高い人気を誇る秀作ばかり。『美女と野獣』はこの強豪たちを見事に封じ込めたのである。
それほど高い評価を集めたアニメ版『美女と野獣』を、批評面で超えることはかなり難しいことだろう。むしろ、不可能と言ってしまっても何ら失礼な話ではない。
そうなれば、批評面では『シンデレラ』との一騎打ちとなるわけだ。では、アメリカのふたつの大手批評サイトのポイントを比較してみよう。『シンデレラ』はMetacriticでは67pt、ロッテントマトでは83%とまずまずのスコアだ。
そして『美女と野獣』のほうは、前者が65ptとほぼ横ばいであるが、後者では71%と後手を踏んでいる。批評面ではわずかに『シンデレラ』の方に軍配が上がっているということだ。
とはいえ、これだけの大ヒットは批評面をカバーする大きな支えとなることは、これまでの大作映画が証明している。1年以上先のことになるが、来年のアカデミー賞では衣装デザイン賞を筆頭に、美術部門や技術部門を中心に善戦をする可能性が極めて高い。アカデミー賞受賞という箔が付けば、その時点で『シンデレラ』を超えるというわけだ。
さて、我々が一番注目すべきは日本での興行と批評の動向である。
日本での上映にあたりとても重要視される吹替版のキャストに、ミュージカルで活躍する俳優を擁したという選択はすでに評価されている。とりわけ作品の出来に関しても、ディズニーのマインドを継承したオールディーズな作りに、多くのディズニーファンが心酔しているというのは良い傾向である。
そうなれば、あとは興行展開だ。すでに多くの劇場で大々的に『美女と野獣』をレイアウトしているのが目立つ。これは最大級の期待の現れに他ならない。一昨年同じ時期に封切られた『シンデレラ』の国内興収は57億円。ライバル作品には例年通り公開される強豪『名探偵コナン』に、一昨年もゴールデンウィークに旋風を巻き起こしたシリーズの続編『ワイルド・スピードICE BREAK』ときた。これは一層賑やかなゴールデンウィークとなることは間違いない。
■「〜幻影は映画に乗って旅をする〜」の連載をもっと読みたい方は、こちら
(文:久保田和馬)
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。