揺れる。惑う。求める。「淵に立つ」に見る、筒井真理子の美しさ。

「淵に立つ」メイン

(C)2016映画「淵に立つ」製作委員会/COMME DES CINEMA

「ターミネーター」みたいな映画?

先輩 日本のインディペンデント映画と女優を語るシリーズ第2弾は、深田晃司監督の新作「淵に立つ」だ。

→第1弾:常盤貴子は今が一番セクシー。『だれかの木琴』を見て改めて思った。

女の後輩 これまでどんな作品を撮った監督ですか?

先輩 「ほとりの朔子」という彼の映画を、僕はとても気に入っていて・・・。

女の後輩 分かった。二階堂ふみちゃんが出ているからでしょ(笑)?

先輩 う、うーん・・・反論出来ない。

女の後輩 先輩の好みって、一貫性がないですよね。この「淵に立つ」も、筒井真理子がとても良かったと言ってて。

先輩 いや、本当にこの映画の彼女は絶品なんだよ。

女の後輩 もうタイトルからして難解そうですけど、どんな映画なんですか?

先輩 君のためにかみ砕いて説明するとだなあ、「ターミネーター」みたいな映画なんだよ。

女の後輩 はああ? 未来からサイボーグがやってくるんですか?

先輩 ちょっと違う。金属加工工場を営む親子三人の前に、ある日突然浅野忠信が登場するんだ。その男は親子の父親、これを古館寬治が演じているんだけど、どうも彼と過去に関係があったらしい。で、彼も親子と同居するんだが、筒井真理子演じる奥さんが、だんだん彼に惹かれていき、その・・そういう関係になってしまうんだ。その後、ある衝撃的な事件が起こってしまい、このあたりは明かせないんだけど、浅野忠信演じる八坂は姿を消してしまう。ところがその8年後、若い男が工員として働き始めるのだけど、その青年は八坂の・・。

女の後輩 ストップ。そこまででけっこうです。確かに「ターミネーター」みたいな話ですね(笑)。

先輩 ある日突然、見知らぬ男がやってきて、色んなものを破壊してしまうあたり、まさにそうかな、と。

筒井真理子を通して、観客はシチュエーションを理解する。

「淵に立つ」サブ8

(C)2016映画「淵に立つ」製作委員会/COMME DES CINEMA

女の後輩 で、その母親を演じる筒井真理子が美しい、と。

先輩 ダンナのほうは、どうやら八坂と昔、犯罪を犯したらしいんだよ。そのため八坂は留置場に入っていたのが、出所した。

女の後輩 まあ弱みを握られている関係になりますわなあ。

先輩 その事実はダンナと八坂だけが知っていて、奥さんと娘は知らない。だから奥さんとしては、なんでダンナがこの人にここまでしあげるのかが分からない。娘は娘で、無邪気になついてしまうし。

女の後輩 家族3人と八坂で旅行に行った時の写真がありますけど、本当に楽しそうですもんね。

先輩 筒井真理子がどう美しいかと言えば、八坂を迎え入れたものの警戒している時の表情、徐々に彼に惹かれていく演技、娘をあやす母親としての振る舞い、それがだんだん微妙に変わっていく。そして八坂が失踪した事件の時と、8年後の描写。

女の後輩 いわば観客は彼女の演技を通して、この家族に何が起こったかを知るわけですね。

先輩 そうそう。直接的な暴力描写とかはない。彼女のリアクションと表情で、家族が崩壊しかかっている、そのシチュエーションを感じるわけだよ。オレってSっ気があるのかな。彼女が不幸な状況に追いやられるほど、良い表情をするんだよ。ぞくぞくするほど。

女の後輩 そのダンナの存在というのも、困ったものですねえ。

先輩 すべては一家の主である彼のふがいなさが招いた事件、とも言えるかな。

観客のイマジネーションを刺激する映画。

「淵に立つ」サブ11

(C)2016映画「淵に立つ」製作委員会/COMME DES CINEMA

女の後輩 先輩ご執心の、筒井真理子という女優さん。もうけっこうなベテランなんですね。鴻上尚史主宰の第三舞台の看板女優で、映画にもテレビにもたくさん出ている。

先輩 正直、今までノーマークだった。こんな美人女優を。もし読んでたら、ごめんなさい!! 筒井さん。しかも彼女、最近では松本明子と「つつまつ」という漫才コンビを組んで舞台に出ているそうだよ。お笑いのセンスもある人なんだね。

女の後輩 「淵に立つ」は、今年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞しているんですね。

先輩 映画のタイプとしては衝撃作というか、何も考えずにだらっと受け身で見ていて楽しめる作品ではないよ。俳優さんたちの演技から、その場で何が起こっていて、その裏には何があったのか。それを想像していくと、色んな解釈が出来る。僕はこの映画の筒井真理子の表情や振る舞いから、家族が壊れていく危機感を感じ取ったけど、実際に妻子のある人が見た場合、どういう解釈をするか。人それぞれ、それまでの経験や現在の境遇などによって感じ方が違うと思うんだ。そういう、観客のイマジネーションを刺激するような映画の作り方が、カンヌでの受賞にも繋がったんじゃないかな?

女の後輩 妄想好きな先輩にとっては、絶好の作品じゃないですか(笑)。

先輩 うん。筒井真理子みたいな奥さんをもらって・・・。

女の後輩 (あきれて)・・・先輩。

先輩 はいい?

女の後輩 まだまだ独身が長そうですね(笑)。

先輩 ふんだ。
 
(企画・文:斉藤守彦)

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    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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