現代社会の危機を巧みに示唆し得た 『図書館戦争THE LAST MISSION』

■「キネマニア共和国」

2006年の発行以来、シリーズ累計600万部を突破した有川浩の小説『図書館戦争』シリーズは漫画化、TVアニメ化、アニメ映画版も公開されて、13年には実写映画化もされました。そして15年……。

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街 vol.40》

待望の実写映画第2弾『図書館戦争 THE LAST MISSION』が堂々の公開です!
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表現の自由を守るものと奪うもの
日本人同士による哀しき戦闘


国家によるメディア規制や思想検閲が横行する近未来社会を舞台に、「本を読む自由」を守り続けている図書隊に入隊した笠原郁(榮倉奈々)が、憧れの鬼教官・堂上篤(岡田准一)のシゴキにめげずに日々の業務をこなすという、どこかラブコメっぽいノリは漫画やアニメ版のほうで強調されています。

ただし、佐藤信介監督による実写版第1作ではコミカル要素をそこそこに留めつつ、表現の自由をいかに守るかという、それゆえのバトル・アクション映画としてのリアリティにかなりの重きを置いていました。

そして今回の実写第2弾は、さらにシリアスな方向へ進み、図書隊と検閲実行部隊“メディア良化隊”との攻防戦をスリリングに描いていきます。

世界に1冊しか存在しない“自由の象徴”でもある「図書館法規要覧」が、茨城で開催される「芸術の祭典」で一般展示されることになり、図書特殊部隊(ライブラリータスクフォース)が会場までの警護にあたることになるものの、それを狙うメディア良化隊の陰謀によって急襲を受け、タスクフォースは壊滅の危機に瀕していきます。

今回は映画の後半ほぼすべてがタスクフォースVSメディア良化隊のバトル・シーンとして用意されており、その意味では異色の戦場映画と捉えることも可能ですが、国家の思惑で日本人同士が戦い合わなければならない怒りや哀しみ、そして虚しさを忘れることなく、その矛先を“表現の自由”を脅かすものへ徹底して向けているあたり、巧みに今の時代を象徴する作品にも成り得ています。

ポリティカル・サスペンスと
ラブストーリーの巧みな融合


正直なところ、原作が発行されてアニメ化がなされた2000年代後半、私などはこの世界観がどこか虚構のものとしか思えてならなかったのですが、それは大きな誤りで、9・11を境に日本は徐々に国家による統制がなされ始めるようになり、現に言論の自由を脅かす法律が制定され、テレビ局に対する圧力なども行われていると囁かれるようになって久しく、このままでいくと、いつメディア良化隊が結成されてもおかしくないような、そんな危機的状況に来てしまっているようです。

また今回、タスクフォースの一員・手塚光(福士蒼汰)の兄で、文部科学省のエリート慧(松坂桃李)の存在がドラマの鍵を大きく握るとともに、ひとりのカリスマが政界でのしあがっていくことの危なさをも示唆しています。

こういった現代社会の危機的状況を、さりげなくも巧みにドラマに取り入れつつ、イデオロギー臭のないポリティカル・エンタテインメントに仕上げた佐藤信介監督の力量はもっと評価されてしかるべきでしょう。

また、アニメ版から実写世界へ飛び出してきたかのようにキャラのイメージがぴったりな、榮倉奈々と岡田准一が織り成すギクシャクしまくりの恋模様が、それゆえにクライマックスの戦場内で効果的に機能していくあたりも実にスムーズで唸らされます。

戦闘シーンの緊迫したダイナミズムは、ここ最近のそういったシーンが存在する日本映画の中で屈指のものでしょう。

じわじわとタスクフォースがじわじわとメディア良化隊によって茨城の図書館内にアラモの砦さながら追い詰められていく過程なども、悲壮感に満ち溢れています。

(思えば今年は戦後70周年にあたり、戦争をモチーフにした作品も多々公開されていますが、本作に匹敵する大がかりな戦闘シーンを構築し得てた作品は皆無でしょう。反戦映画『野火』のように、訴える方向性が異なる凄惨な戦闘描写のものは存在しますが)

今回は『LASTMISSION』とサブタイトルがつけられていますが、個人的には以後も続けてもらいたいシリーズです。

このシリーズが、原作はもとより、さまざまなメディアを通して展開していられる限り、まだこの国は大丈夫なのかもしれません。

そう呑気に構えている場合でもなさそうですが……。

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(文:増當竜也)

映画『図書館戦争 THE LAST MISSION』は2015年10月10日(土)全国ロードショー!
公式サイト http://www.toshokan-sensou-movie.com/index.html

(C) 2015 “Library Wars -LM-” Movie Project

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