映画コラム

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2015年04月22日

「自主製作だとか関係ない」映画『ストロボ ライト』片元亮監督独占インタビュー

「自主製作だとか関係ない」映画『ストロボ ライト』片元亮監督独占インタビュー

大阪・京都・兵庫での先行公開で高い評価を得て、満を持して2015年4月11日から全国ロードショー開始となった映画『ストロボ ライト』。

大阪芸術大学出身の新鋭・片元亮監督のデビュー作で、自主製作映画の枠を越えたスケールが話題となっている本作。今回シネマズでは、メガホンを取った片元亮監督に独占ロングインタビューを実施しました。片元亮監督の本作における、情熱に溢れるインタビューとなりました。

映画『ストロボ ライト』片元亮監督独占ロングインタビュー


映画『ストロボ ライト』 片元亮監督 インタビュー



―まず、この映画を作られたきっかけを聴かせてください。

何よりも『映画』を作りたかったというのが一番です。

自分は、大阪芸大を経て、中島貞夫監督の元について映画を学びました。しかし、その後一度サラリーマンを経験し映画の世界から離れていたんです。けれど、どうしても自分の中で、映画に対して飽き足らない部分があって、もう一度撮りたいと思ったんです。そこで、働きながらでも撮れる、短編を撮ろうと思って、実際に1本撮ったんです。そこで、どうせ撮ったなら賞に出してみようと思ったんです。本来僕はあまり賞に興味がないんですが、一度そういうのを出してみてもいいなって思って、自主製作の映画祭『インディーズムービー・フェスティバル』が、ちょうど第10回で最後だと聞いて、そこに出してみようということになったんです。それで出してみたら、短編部門でグランプリを頂けたんです。それで「これはもう映画をやろう」と決意したんです。

ところが、一度映画の世界から抜けた人間なので、スポンサーを探していくのがいいのか、どうしたらいいんだろうって迷ったんです。その時に、自主製作で劇場映画を撮ればいいんだって思いついたんです。劇場でロードショーされるクオリティに追いつく作品を、自主製作でも撮ってしまえば、映画館での上映が可能なんじゃないかと。それがこの作品を作った最初のきっかけです。

―そこから、実際にこの作品を撮ると決められた経緯はどんな感じだったんですか?

それまでラブストーリーばかり撮っていたのですが、自分の主戦場である恋愛映画を撮るよりもそうじゃないほうがいいんじゃないかと考えました。例えば、巨匠と言われる山田洋次監督が撮っている家族ドラマと、自主製作で作られている家族ドラマが同じ劇場で公開されていたら、きっと負けるだろうなって思ったんです。

じゃあ、自主製作でやった時に、ある程度のフックがないといけないと考えた時に、インディペンデント(自主製作)で、サスペンス映画・刑事物の映画ってほとんど撮られていないなって思ったんです。予算が大きいし、エキストラとか美術の面でも大変労力を伴うので、インディペンデントではまずやらない。そこで、敢えてサスペンスの刑事物にチャレンジしてみようと思った結果、この『ストロボ ライト』を撮ることに決めたんです。

―それはかなり苦労されたんではないですか?

潤沢な予算が無い中で、いかに劇場公開に耐えうるものを撮れるかと考えたら、企業努力というか、創意工夫で観客の方の目に触れた時に、満足してもらうものを創らないといけない。そのためには、とても時間がかかります。エキストラが大勢集まるシーンでも、ボランティアのエキストラの人に、決められた時間に決められた格好で集合してもらわないといけない。1シーン撮るだけでも、すごく時間がかかるんです。そういう意味では、とても苦労しました。

―費用面ですごく苦労されたと思うのですがいかがですか?

自主製作のいいところは、自分たちの手弁当なので、自分にどれだけの覚悟があるかということだと思います。それと、兵庫県の伊丹市で今回撮影をしたのですが、市民の方々がサポーターズクラブを作ってくれて、そちらの方々が協賛金を募るという動きをしてくれたんです。それがなければ撮りきれなかったと思います。

「この街で映画を撮りたい…」気づけば20人の大会議になっていた


―潤沢な予算が無い中で他にはどういった創意工夫をされたんですか?

実際に作ろうと思った時に、どうやったらそれが実現するかといろいろ考えました。ロケに移動費がかかるとそれだけ予算もかかります。そこで、1つの街と一緒に、そこのみなさんと一緒に撮っていくという形が取れれば可能性があるかなと思ったんです。本来自主製作をやる人間は「それは自主製作ではできない…」っていうところからスタートするんですが、自分たちは「それをやらなければこの映画は完成しない」って思ったんです。

―今回は兵庫県伊丹市で撮影されていますが、そこに決められた理由は?

兵庫県伊丹市と出会ったのはたまたまなんです。この映画の撮影をしている小澤勇佑さんが、スチールカメラもやっていて、写真展を伊丹市で開いていたので、見に行ったんです。その時が伊丹市に行ったのが初めてでした。その時に、伊丹市の景観に惚れたんです。

都会のような部分もあれば、田舎のような部分もある。下町っぽい雰囲気もあれば、駅ビルとかもあって、色んなものが混在している街だった。映画って『切り取る芸術』って言われるじゃないですか。この街なら、切り取り方次第で、いくらでも撮れるぞって思ったんです。

それである時、伊丹市で立ち飲みのイベントが開催されている時に、そこに来ていた人に「僕この街で映画を撮りたいって思っているんです」って言ったところ「面白いお兄ちゃんがいる」って話になって、そうしたら今度は「それなら◯◯さんに言ったらいいよ。連絡してあげる」となり、その方が来たら「それなら市役所の人」となって、いつの間にかその日のうちに20人ぐらいの大会議になったんです。

映画『ストロボ ライト』 片元亮監督 インタビュー



―すごい話ですね?それが全部その日のうちですか。

そうです。言ってみるもんだなと。元々伊丹市の人たちは地域活性とか、まちづくりとかに活発で、みなさん前のめりだったんです。それで、日を改めて話をしようとなりました。それで、改めて開かれた会議に行くと「街を盛り上げるのに映画って面白いよね」って言ってもらえて、サポーターズクラブを作って支援してくれることになったんです。それで、そのキャッチコピーが「伊丹(まち)で遊ぶ。映画で遊ぶ」となりました。それで、その市民の方々から、市に声をあげてくださって、伊丹市が正式に後援してくれることになったんです。

エキストラ、ロケ地、それぞれが伊丹の方々のお力。こういうことが出来ないと撮れないと思っていた時に、その通りになったので、この映画を絶対完成させないといけないと、それでふんどしは完全にしまりました。

伊丹市で撮影しようと思う人が増えていったら恩返しになる


―伊丹市で撮影されていますが、映画の舞台は東京ですよね?

この街なら何でも撮れるというのがありました。実は伊丹市の方からも、ご当地映画にしたいという声もあったんです。けれど、フィルムコミッションをやりたという声もあったので、伊丹市が舞台の映画を伊丹市で撮ってしまったら、この街が舞台の映画しかロケに来なくなると話をしたんです。ハリウッドのように、ここに来たらどんな映画も撮れる街だって証明をしたかったんです。

東京警視庁の話だけど、何区と限定せずに"東京のとある街"としてしまえば、他の場所でも撮れるという自信がありました。こんなに協力体制が整うんだったら、空港もあるし、今後も伊丹市でロケをしようと東京から来る人が現れるようなことをやりたいと提案して、伊丹市で9割、オール関西ロケで東京を描きました。『ストロボ ライト』を観て、伊丹市で撮影しようと思う人が増えていったら、それが伊丹市に対する恩返しになると思っています。

映画って通常東京から公開スタートです。けれど、地域で作ったものを、地域で発表して全国に広めていくって、僕らにはそんな影響力はないかもしれないけど、誰か1人でもそういうことをやり始めてもいいんじゃないかって思ったんです。覚悟を決めて脱サラして映画を撮ったんだから、影響力はないにしても、初めてづくしのことをやってしまおうと思ったんです。

いつか原作小説が出版化されることが目標


―この映画の脚本のアイデアはいつ頃浮かんだものなのですか?

実は、この作品は大学院の助手時代に1度書き上げていたもので、お蔵入りになったものなんです。その当時は自主製作で撮ろうって思った時に、規模的に無理だと諦めてしまったんです。それで今回人生1度きりの勝負に出ると決めた時に「あれをやろう!」と思って、引っ張りだして、時代背景とかも全部変わっていたので、1回バラバラにして書き直すところからスタートして、一番最初は小説を書きました

―小説ですか?

400字詰原稿用紙で400枚くらいあります。映画って、どうしても主人公とヒロインにギュッと集約されるんです。この映画は実はすごい人数のキャストがいて、結構群像劇なんですよ。そうすると、脚本にした時に、主人公周りのことは解るけど、それ以外の人物のことがわからないってなるんです。そこで、それぞれの人物のバックボーンなんかを俳優陣にも伝えるために、どうしたらいいのかと考えた結果、小説を書いて渡すしかないなってなったんです。

―その小説って出版とかされていないんですか?

されていないです。正直夢なのですが、この映画が話題になって、原作本が出版されるくらいの影響力が出せるようになったらいいなって思いもあります。『ストロボ ライト』は全部で9日間の話なんですが、映画では8日間しか描いていないんです。でも、小説には結末まで全部描いています。もし映画を観て面白いってなれば、原作本が読みたいってなると思ったので、いつか出版化されればいいなと本当に思います。これもひとつの目標です。

映画『ストロボ ライト』 片元亮監督 インタビュー


映画館1軒1軒を直接周り口説いていった


―こちらの映画はまず関西から上映されたという話でしたが

まず最初に公開したのが2013年の9月です。自主製作+自主配給だったので、配給自体にもすごく時間がかかりました。

自主製作の映画ってミニシアターでの上映がほとんどです。ところが、ミニシアターにはそうした作品のDVDがいっぱい送られてきて山積みになっているんです。それだと、ただメールして作品を送るだけじゃ、まず見向きもしてもらえないと先輩たちから聞きました。そこで、僕らは映画館1軒1軒に直接会いにいって、DVDを渡して、関西からスタートしたいんだという熱意を伝えて回りました。そうして結果「やりましょう」と言ってくれたんですが、大阪がまず決まった時に「大阪だけで終わらせるの?どうせなら3都市とかでやりたいよね」ってなったので、今度は京都を口説きに行くことになったんです。

ところが、京都ではなかなかすぐに観てもらえなくて、京都の映画館の支配人さんだけのために試写会を開いたんです。そうした努力が結実して今度は京都が決まり、次に神戸も一軒一軒回ってそして最終的に3都市での上映が決まりました。僕らはそれを『三都物語』と名づけて、公開に合わせてラジオだったり、ケーブルテレビだったり、新聞だったり、宣伝に協力してくれるところを見つけて、活動をしてきました。それで3都市上映が終わったのが2013年の12月。

『ストロボ ライト』は映画にしては珍しくて1週目よりも2週目、2週目よりも3週目の方がお客さんが増えていったんです。口コミって通常「おもしろいから行ってみたら」で終わるんですが、この作品のお客さんは、友達を連れてきて何度も観てくれる人が多くて、結果最後の週では多くの方が劇場に足を運んで下さいました。それで、もういちど2014年に三都物語をやったんです。その時のミニシアターの支配人さんが「お前ら何をやっているんだ。東京に行け」と言ってくださって、それで公開が終わって翌週には東京に来て、関西と同じように東京のミニシアターを直接回って、公開してくれるところを探しました。そうして満を持してこの15年4月からのロードショースタートとなったんです。

これはメジャーだとかインディペンデントだとか関係ない


―『ストロボ ライト』は自主製作とは思えない規模だと話題になっていますね。

まず観に来る方には、自主製作の映画だと思って、小馬鹿にしながら観に来てくれればいいと思っています。100%裏切る自身があるので。今、ネット上には、抜粋した映像を公開していますが、それを公開したのも、構えはインディペンデントですが、作品はメジャーと同等だと自信を持っています。

―この作品はラブストーリー的要素を多分に含んでいるそうですが?

仰るとおりです。サスペンスとラブストーリーがくっついているものって結構ありますけど「ラブストーリーの要素いらないよね」っていうの結構多いんですよね。けれどこの物語は、ラブストーリーの要素がないと解けないようにしようと思ったんです。周りはサイコ・サスペンスと言うんですけど、僕の中ではこの作品は"クリミナル・ラブストーリー"なんです。そういうジャンルだと思って作っています。

映画『ストロボ ライト』 片元亮監督 インタビュー



―今後のインディペンデント映画についてお聞かせください。

お客さんにとってみると、これはメジャーだとかインディペンデントだとか関係ないと思うんです。映画って面白いのは、どちらであっても料金一緒なんですよね。そう考えると「インディペンデントだからこれでいいよね」っていう考え方を持つのは絶対いけないと思っています。純粋に娯楽としてお客さんに楽しんでもらうときには、インディペンデントでもメジャーでも関係なく、ミニシアターでもシネコンでも関係なく、映画を楽しめるものを僕らは作っていかないといけないという想いがあります。

この映画を撮って、この構えを撮りたいなら、メジャーじゃなきゃ駄目だとも結構言われたんです。もちろん機会があればメジャーでもやりたい。けれど、インディペンデントでもメジャーと同じものを作らないといけないと思っています。「インディペンデントだからこの程度で」というのは甘えだと思うので。

―最後にこれから作品に触れる方々へ何かメッセージをお願いします。

大手じゃないので、テレビのCMやこうしたインタビューもほとんどありません。だから、実際に映画を観てくれた人の口コミだけが僕らの武器になります。なので、まず映画館で体感して欲しい。今回の新宿K's cinemaでの上映では僕は出来る限り映画館にいようと思っています。なので、良いも悪いも是非ぶつけて欲しいと思っています。批判も応援も支援も含めて『ストロボ ライト』というおもちゃを使ってみんなで遊んで欲しいなと思っています。

―ありがとうございました。

映画『ストロボ ライト』 片元亮監督 インタビュー



片元亮監督のロングインタビューでは、監督の熱い情熱が溢れるとても濃い時間となりました。現在『ストロボ ライト』では、全国上映を実現するために、クラウドファンディングでも支援者を募っています。こちらもチェックしてみてください。



現在絶賛公開中の映画『ストロボ ライト』。すでに繰り返し観るリピーターが続出しているとの話題の作品。ぜひまだご覧になっていない方は、ご自身の眼で体感されてみてはいかがでしょうか。



映画『ストロボ ライト』公式サイト

(文・写真/常時系)

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