ジョン・ギラーミン監督追悼 70年代ハリウッド大作監督の真実


イギリス空軍出身キャリアがモノをいう
大空と航空メカ、空撮へのこだわり


超高層ビル火災をオールスターキャストを駆使して壮大なスケールで描き上げ、70年代パニック映画の金字塔として揺るぎない地位を保ち続ける『タワーリング・インフェルノ』はギラーミン映画の粋が詰まっているといっても過言ではないほどで、特にステイーヴ・マックィーン、ポール・ニューマンをはじめとする時のオールスター・キャストの見せ場をそれぞれバランスよく配置しながら魅力的に捉えていく手腕は、スペクタクル大作演出の誉れといってもいいでしょう。
また『タワーリング・インフェルノ』で秀逸なのは、実はオープニング、ポール・ニューマンを乗せたヘリコプターが海面を這うように進み、やがて地獄の惨状と化すビルに到達するまでのメインタイトル・シーンの空撮にあります。
ここで作り手は、ジョン・ウィリアムスの爽快きわまる音楽に乗せて「さあ、火災地獄のエンタテインメントにようこそ!」といわんばかりのサービス精神をもって、オールスター・キャストともども、われわれ観客をゴージャスに包み込みながら超高層タワーへ案内してくれているのでした。

ギラーミン映画の空撮は『ブルー・マックス』の頃から顕著な傾向で、見ごたえのあるショットばかりではありますが、これにはやはりイギリス空軍出身というキャリアもモノを言っているような気もしてなりません。

特にヘリコプターということでは、続く超大作『キングコング』(76)のクライマックス、今はなき世界貿易センタービル(9・11以前の同ビルを見られる映像としても貴重)に上ったキングコングにヘリコプター部隊が機銃攻撃を仕掛けますが、そのシーン自体は秀逸なのに、公開当時のポスターはジェット戦闘機をつかむコングの雄叫ぶ姿になっていたもので、中身が違うと叩かれたり、おまけに後年『キング・コング』(06)を撮ったピーター・ジャクソン監督がこのギラーミン版を認めない発言をしたり、未だ正当な評価を得られていません。
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確かに当時、鳴り物入りの誇大宣伝がなされた割には、実物大のロボット・コングが実際は撮影で使い物にならず、特殊メイクのリック・ベイカーが着ぐるみを着て演技していたとか、ヒロインに抜擢されたジェシカ・ラングはこの後コング女優と嘲笑され、しばらく仕事を失ったとか、正直喜ばしくないネタが多いのも事実です。

しかしオリジナル版『キング・コング』(33)やジャクソン版が「女性の美が野獣を殺した」と訴えている割に、そこまでのインパクトをもたらしていない憾みが残るのに対し、ギラーミン版『キングコング』(これのみ邦題に「・」がないのがミソですね)はジェシカ・ラングのエロティシズムを強調した演出がなされていることで、結果として本作独自の解釈による「文明がコングを殺した」といったメッセージに加えて原点たる「美がコングを殺した」とも捉えられる結末になっていることは賞賛すべき事象ではないでしょうか。

おそらくはギラーミンにとって『キングコング』とは、かつてのターザン映画と同等の位置づけの、時にエロティックな愛の活劇であり、その系統が後の女性版ターザン映画とも謳われる『シーナ』(84)にも受け継がれていったのだと思います。
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