映画コラム
ディレクターズカットと劇場公開版 どちらがお好き?
ディレクターズカットと劇場公開版 どちらがお好き?
ディレクターズカットの仕掛け人たち
その口火を切ったひとりがジェームズ・キャメロン監督で、彼は『エイリアン2』(86)公開時にカットされたシーンおよそ17分を復元した『完全版』を91年にリリースし、以後『アビス』(89)『ターミネーター2』(91)などで劇場公開版よりも尺が長いバージョンをソフト化しています。
(もっともキャメロン自身は、劇場公開版こそがオリジナルで、ディレクターズカットはおまけだとも発言しています)
もうひとり、ディレクターズカットといえばリドリー・スコット監督でしょう。
『ブレードランナー』を例に挙げても、劇場公開版(82/スタジオの意向でハッピーエンドに改竄された)およびその長尺版たるインターナショナル・バージョン(82)、公開10周年記念デイレクターズカット(92/当初監督が意図していたアンハッピーエンドに復元)、公開25周年記念ファイナルカット(07)、さらにはワークプリント(82)まで発掘されて、それらが一挙にBD&DVDボックス化されたこともありました。
トム・クルーズ主演のファンタジー大作『レジェンド/光と闇の伝説』(85)は、当初140分(音楽はジェリー・ゴールドスミス)の尺であったのを、当時のユニバーサル映画会長だったシドニー・シャインバーグの命令で、アメリカ公開版はタンジェリン・ドリーム音楽の89分、日本を含む国際版はゴールドスミス音楽の94分と2バージョン作られることになり、自分の知らないところで勝手に音楽を差し替えられたゴールドスミスは激怒し(スコット監督は79年の『エイリアン』でもゴールドスミスに内緒で曲を差し替えていた)、スコットと決別しました。
なお、『レジェンド』は後にゴールドスミス音楽による114分のディレクターズカットが発表されています。
シドニー・シャインバーグといえば、テリー・ギリアム監督のイギリス映画『未来世紀ブラジル』(85)事件が有名で、143分のオリジナル版はアンハッピーエンドであったのを、シャインバーグらスタジオ上層部はそれを嫌ってハッピーエンドに改竄して94分までカットしたものをテレビ放送。激怒したギリアム監督は再編集を施した132分の版を執念で全米劇場公開させました。
このあたりの騒動は『バトル・オブ・ブラジル』として書籍化もなされ、当時の映画ファンは映画の発言の自由を得るために心ある映画人がいかに闘っているかに驚愕したものでした。
(現在、日本でBDなどで見られるのは、その後さらにギリアム監督が手を加えた144分のディレクターズカットです)
個人的にディレクターズカットと聞いて即思いだすのは、サム・ペキンパー監督です。
スタジオと対立することがしょっちゅうで、そのあおりをくらってか『ダンディー少佐』(65)『ワイルドバンチ』(69)『ゲッタウェイ』(72)『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(73)など、監督の手を離れて改竄された作品は多数。
この中で『ワイルドバンチ』は現在ロードショー公開時のものにまで戻され、また『ビリー・ザ・キッド』も冒頭とラストを復元したディレクターズカットに近いものがめでたくソフト化され、今は亡きペキンパー監督が真に訴えたかったものがようやく理解できるようになり、再評価もなされました。
『ダンディー少佐』も本来は150分を超えるものが監督の臨むものだったのですが、劇場公開時は124分まで短縮され、メインタイトル曲も監督の嫌うものが採用されていましたが、現在は曲も差し替えた136分版がBDなどで見られます。
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