映画コラム
ディレクターズカットと劇場公開版 どちらがお好き?
ディレクターズカットと劇場公開版 どちらがお好き?
日本でのディレクターズカット事情
日本では、黒澤明監督の『白痴』(51)事件が知られるところで、当初前後編合わせておよそ265分の版を編集し終えたものに対し、時の松竹サイドが興行上の理由から突如カットを要請し、やむなく黒澤監督自身が182分まで縮めましたが、それを東京でロードショーしたところ「評判が悪い」として、松竹は全国封切りの際にさらなるカットを要求。
このとき黒澤監督は「これ以上切りたければ、フィルムを縦に切れ!」と激昂しましたが、結局は166分にまでカットされたものが全国公開されました。
現在、『白痴』の182分版もオリジナル265分版も所在不明で、映画業界内では「実は誰々がフィルムを隠し持っている」などといった都市伝説が今も囁かれています。
さて、「パトレイバー首都決戦」の場合、押井監督はもともと119分の尺の予定で編集していたところに、製作サイドが90分までカットしてほしいと要請。議論を尽くした結果、押井監督が編集した119分版を後で上映することを条件に、プロデューサーに劇場公開版の編集を委ねたとのこと。
このディレクターズカットでは、92分の劇場公開版では正体不明の敵とされていた戦闘ヘリのパイロット灰原雫の謎が解き明かされたり、一方では押井作品特有でもある特車二課などのお気楽な日常描写も復活。マニアにはたまらない楽しさもあることでしょう。
現在は商業的見地から、劇場公開時は短いバージョンを、後でディレクターズカットをBDなりで発表するといったやりかたも多くなってきていますが、見る側からすると、いろいろなバージョンを見られる楽しさを取るか、同じ映画で2度もお金と時間を費やすことの不条理を嘆くか、意見は分かれそうです。
劇場公開版とディレクターズカットのどちらが好きかも、人それぞれではあるでしょう。
もっとも、見比べることによって、映画が編集次第でいかに印象が変わるものかを体感できることと思いますし、そこから映画作家個々の主張と、商業主義的側面も伴うことで成立する映画業界の複雑さなども明らかになってくるのではないでしょうか。
まずは見比べてみましょう。どうせなら楽しんだほうが得策です。
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(文:増當竜也)
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