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アニメーション映画『同級生』は少年達の愛をピュアな形で描いた秀作
アニメーション映画『同級生』は少年達の愛をピュアな形で描いた秀作
同性愛を描いた映画は過去にもいろいろありますが、その多くは社会派もしくはタブーとしてのスキャンダラスな要素の強いものでした……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~vol.112》
しかし、アニメーション映画『同級生』は、ごくごく自然に少年たちの初々しい愛を描出しています。
(C)中村明日美子/茜新社・アニプレックス
女性たちの手で作られた
淡くピュアな少年同士の恋物語
本作は中村明日美子の同名コミックを原作にアニメーション映画化したもので、バンド活動に勤しむ草壁光とインテリの佐条利人、見た目も言動も正反対なふたりの高校生が、ふとしたことからお互い恋に芽生えていくさまを、初々しく描いた作品です。
いわゆるBL(ボーイズ・ラブ)系に属する作品ではありますが、本作の場合、中村章子監督をはじめメインスタッフのほとんどを女性が占めており、また原作の持ち味ともいえる水彩画のような淡い画のタッチをそのままアニメーションに活かしながら、決して興味本位ではない、人が人を好きになり、戸惑い、恥じらい、そして愛し合っていく過程に異性も同性も関係ないことを、ごくごく自然に描いていきます。
実は私自身、こういったジャンルの作品には苦手意識があったのですが、本作は驚くほどにピュアな佇まいが全編を支配しており、あたかも口当たりの良い少女漫画を見ているかのように気持ちよく鑑賞することができました。
野島健児と神谷浩史、イケメン声優たちの好演と、ギターをベースにした押尾コータローのシンプルな音楽も効果的で、少年たちの思春期が少女たちのそれに勝るとも劣らぬ繊細さをもって描出されています。
ただ、それゆえでしょうか、これまた少年にしても少女にしても、同性同士の恋愛はお互い心の内が分かり合いやすいだけに、逆に異性同士の恋愛よりも傷つけやすい部分もあるのかもしれないな、などと見ながら思ったりもしてしまいましたが、実際はどうでしょう?
同性だろうが異性だろうが
現実の恋愛はドロドロだからこそ⁉
いずれにしましても本作の長所は、同性であろうが異性であろうが愛は愛であるという、ごくごく当然の帰結をもって少年ふたりの愛の行方を描いているところであり、そのストレートな想いを前に、もはや他人が何を言おうとお構いなしといった潔さもまた、どこか切ないカタルシスをもたらしてくれています。
実際はこんな美しいものではなく、ドロドロしたものだと突っ込みたい向きもあるかもしれませんが、そのドロドロしたものを訴えるあまり偏見が生じる作品も意外と多い事実を振り返るに、それよりも今は美しくもライトにBLを見つめるほうが得策なのではないでしょうか。
そもそも同性だろうが異性だろうが、現実の恋愛がドロドロしまくっていることは、誰もがやがて恋をすれば好むと好まざると体験してしまうことですしね……⁉
(逆にドロドロした恋愛体験を経た人こそ、こういった淡いテイストに憧れや夢を抱いてしまうのかもしれません)
あえて意見を申すと、上映時間およそ60分という尺の短さでしょうか。最近は中編仕様のアニメーション映画が多く、本作もその例に漏れませんが、このクオリティならば、あと30分くらいは見ていたいとでもいうか、全体の構成も短編エピソードの連鎖みたいな形式になっているだけに、もう少し彼らの行く末を見届けたいという欲求がマバ得てしまったのも確か。
もっとも、1時間の尺で入場料1500円という特別料金が、全然損した気にならないのは、やはり作品のクオリティの賜物でしょう(1200円のレイトショー割引で2時間の作品を見ても、つまらない映画はつまらないですからね)。
ちなみに私は公開3日目の平日午後に見に行きましたが、来場者特典は既に配布終了。場内はオシャレKAWAII系の10~20代女子で3分の2以上は埋まっており、男は私以外で辺りをこっそり見渡すと……ひとりだけいました⁉
上映中はクスクスと乙女たちの笑いが漏れ、上映が終了して場内が明るくなると、一斉に「良かったー!」「可愛いー!」などなどの小さな悲鳴のような感想が場内に響き渡り、その後もなかなかみんな場内を出ようとせず、一緒に来た友達同士でしゃべり続けている光景は、不思議ながらも実に幸せな空間のように感じられました。
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(文:増當竜也)
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