映画コラム

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2016年07月13日

『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』、物語を読み解く「10」の盲点

『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』、物語を読み解く「10」の盲点


6“タイム”は時間に対してツンデレ?


時間を司る“タイム”は、時間に対して「大切だ」「どうでもいい」などと、言っていることがブレまくっています。
以下の動画でも、アリスに盗まれた“クロノスフィア”について「ただのガラクタだ」「絶対に取り戻さねば」と言っており、ムチャクチャであることがあることがわかるでしょう。



しかし、タイムは本心では、とても時間を大切にしているのではないでしょうか。なぜなら、“秒”について「こいつらみんなボンクラだ」と言いながらも、「ん~」とキスをするシーンがあったりしたのですから。単純に言えばツンデレなんですね(笑)。
アリスへの別れの言葉が「二度と来ないでくれ」というのも、じつは“また来て欲しい”という気持ちの裏返しなのかもしれません。

ちなみにタイムは半身機械、半身人間の存在です(後頭部が時計仕掛けになっていることが見える)。
彼は純粋な時計仕掛けである“秒”や“分”や執事のウィルキンズとも違う存在なので、どこか“ほかの者とは違う”孤独を感じていたのかもしれません。

7.帽子が示すものとは?


マッドハッターの父は、帽子を“社会の規範にしっかり収まるもの”と考えていました。

この言葉を裏付けるかのように、帽子どころか王冠すら被ることができなかった赤の女王は、王位を継承するという“社会の規範”に収まることができず、その頭の大きさそのままに“頭でっかち”な一辺倒なものの考えをしていました。

幼いころのマッドハッターが作ったのは、とても小さな帽子でした。息子をしっかりとした帽子屋にしたかった父としては、“社会の規範”から外れたようなサイズの帽子は、とても肯定することはできなかったのでしょう。
しかし、父親はこの小さな帽子をしっかりとゴミ箱から拾い上げ、それはいまも家族が生き続けているという証拠になり、親子の和解へとつながりました。

この物語は、“帽子”というアイテムを使って、社会の規律に収まらなくても、自分の生きかたができればいい、と訴えていたのでしょう。

それはアリスにも当てはまります。男性優位が当たり前の社会で、彼女は勇敢な船長として働いていたのですから。
若い頃のマッドハッターがアリスに「君はまともじゃないな、偉大な人は皆そうさ!」と言うシーンでも、“ちょっとくらい変わった生き方でもいいんじゃないか?”という精神があらわれています。

そういえば、タイムが“自分と同じ格好をした門”にぶつかってしまうというシーンがありましたね。これはあまりに規範にキチッとしすぎても、窮屈で不便なだけである、というメッセージなのかもしれません。

アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅 ネタバレ


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8. 不可能を可能にする物語だった


本作でアリスが嫌っていたのは“不可能(IMPOSSIBLE)”という言葉でした。その不可能を可能にする“秘訣”は“信じること”でしたが、アリスは亡くなってしまったマッドハッターの家族はもう帰ってこない、それだけは不可能なことだと“決めつけて”いました。

だけど、過去を見つめることで、今を変えるヒントを探すことができる。不可能と決めてしまうのは、それからでもいいのではないか。誰かの言葉を信じて行動するべきなのではないか―そんなメッセージも込められているのです。

9.原作のオマージュもしっかりあった!


作中、チシャ猫が「不可能じゃなく、“非”可能(UNPOSSIBLE)だ」と言うシーンがあります。



これは“不可能”をちょっと変な言い回しにしてしまうという言葉遊び。ワンダーランドはそんな変なことを、“可能”にしてしまうということを示しているかのようです。

この“非可能”とは、原作『鏡の国のアリス』に登場する“非誕生日(UNBIRTHDAY)”が元ネタでしょう。非誕生日とは、誕生日以外の日を祝う、なんでもない日という意味の造語。原作では、アリスとハンプティ・ダンプティが“非誕生日プレゼント”について、奇妙な会話をしているのです。

そのほかの原作らしいシーンには、クロノスフィアについているレバーが“PULL ME(私を引いて)”になっていたり、身体を大きくする角砂糖が出てきたりしていました。
『不思議の国のアリス』では“EAT ME(私を食べて)”と書かれたクッキー、“DRINK ME(私を飲んで)”と書かれた液体が登場していましたね。それぞれは身体を大きくしたり小さくしたりできるのですが、大きくなりすぎると困るので、マッドハッターは角砂糖を巻きながら「食べすぎないように気をつけて」と言っていたんですね。

10.過去は変えられない、だけど……


アリスが過去に戻るとき、追いかけてきたタイムは「時間と競争しても勝てるわけがないぞ!」と言っていました。
その言葉通り、過去に戻っても過去そのものを変えることはできなかったのですが……その代わりにアリスは、過去から学ぶことができる、今であれば変えられることを知りました。

赤の女王もアリスと同じく過去に戻るのですが、そこでやったことは妹の嘘を責めただけ。タイムの“過去の自分と出会うと崩壊する”という忠告も聞こうとはしていませんでした。
彼女のように、過去から学ぼうとはせず、ただただ周りに喚き散らしていただけでは、なにも解決しないのです。

一方、白の女王は、姉の人生を変えてしまった原因を作っただけでなく、その過去を隠し続けようとしていました。彼女もまた苦しんでいたことは、戴冠式での表情でもわかるでしょう。

必要なのは、白の女王が過去の罪を告白して、赤の女王がそれを許すこと。ただそれだけなのです。
“時間が与えてくれる今を一生懸命に生きれば、未来は変えられる”というメッセージがあるだけでなく、タイムトラベルものながらそのような“誰でもできる解決方法”を選びとっているのが素晴らしいではないですか!
本作を観ると、アリスがそうしたように、現実で問題解決の糸口を見つけられるのかもしれませんね。

ちなみに、赤の女王は、時間を大切には思っていなさそうでした。なにせタイムからもらったプレゼントを「“ずっと”大切にするわ」と言いつつも、その辺に放ったりするのですから



時間としっかり向き合わないということは、何よりももったいないことなのかもしれませんね。誰かからもらったプレゼントも、ちゃんと未来を見据えて大事にしたいものです。

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(文:ヒナタカ

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