映画コラム

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2016年07月16日

映画館で映画以外を見よう!ODSというヒットの鉱脈

映画館で映画以外を見よう!ODSというヒットの鉱脈

歌舞伎NEXT『阿弖流為』 シネマ歌舞伎


非映画コンテンツODS(=other digital stuff)とは?


今、映画界の中で一大勢力になりつつあるカテゴリーに、非映画コンテンツODS(=other digital stuff)と呼ばれるものがある。

カテゴリーといったのはODSが映画のジャンルではなく、一種の公開形態を指しているからだ。観客からすれば、映画館のスクリーンに映ったものを見るのだからそれもまた映画ではないのか?という感じだろうが、映画業界の内々のすみわけで、線引きがされている。

ODSは、とある調査によると総興行収入は14年に103億円、15年には153億円を記録している。「スター・ウォーズ フォースの覚醒」の日本国内興行収入が約110億ということなので、ちょっとバカにできない数字を稼ぎ出すようになっている。

ODSにカテゴライズされているものに人気劇団のステージの中継が一番多く、この中にはストレートプレイ、宝塚歌劇団のミュージカル、オペラ、歌舞伎などがある。松竹が進めているMETライブビューイング:オペラやシネマ歌舞伎、劇団新幹線のゲキ×シネなどは作品数も多い定番になっている。

次いで人気アーティスト・アイドルのコンサート中継や、ドキュメンタリー作品も多い。15年7月8日に公開した『存在する理由 DOCUMENTARY of AKB48』などはシリーズ第5弾でODSの中では老舗ブランドになりつつある。

またスポーツ、サッカーの日本代表戦や“プ女子”が増殖中のプロレスのビッグマッチ中継。アニメ関連のトークイベント中継なども含まれる。この流れが今人気絶頂の2.5次元ミュージカル(アニメの舞台化)を生んだと言ってもいいだろう。

また一部アニメ作品もこの中にカウントされているが、これは線引きがなかなか難しいところでアニメといっても「名探偵コナン」「ポケットモンスター」「妖怪ウォッチ」やスタジオジブリ作品などはカウントされない。邦画最王手東宝の映像事業部が発信する「PSYCHO-PASS -サイコパス-」などはカウントされるが、テレビアニメシリーズが映画になるとイコールODSかというわけでもないので、ちょっと難しい。難しい話になるのは読んでいてもつまらないので、いったん止めておこう。

ODSの草分け シネマ歌舞伎


ODSがODSという呼称が定着する以前から展開されていて、文字通り草分けといっていいのがシネマ歌舞伎だろう。05年に「野田版鼠小僧」を皮切りに現在公開中の最新作の「歌舞伎NEXT阿弖流為〈アテルイ〉」で24作品目。さらに「スーパー歌舞伎Ⅱワンピース」が秋に控えていて、このシリーズは批評面でもビジネス面でも成功している。

歌舞伎界の革命児18代目中村勘三郎が現代劇の人気作家野田秀樹を迎えた「野田版鼠小僧」がシネマ歌舞伎1作目だというのがある意味象徴的な気がする。これをきっかけに現代劇作家によって、新解釈を得た歌舞伎公演が増え古典芸能歌舞伎への間口を大きくひろがった。残念ながら18代目勘三郎は還暦前に早逝してしまったが、その意思は実子6代目中村勘九郎、2代目中村七之助たちが引き継いでいる。

新世代の活躍を見る


歌舞伎界はここ数年激震に見舞われた。先述の勘三郎に12代目市川團十郎、10代目坂東三津五郎という歌舞伎界をけん引し、人気も集めた大名跡が次々と亡くなった。若い世代の役者たちがそれぞれの屋号と宗家となった。先代の存在の大きさを感じながらも、新たな一歩を踏み出し始めた。

当代勘九郎は父の始めたコクーン歌舞伎を引き継ぎ「三人吉三」に弟七之助、尾上松也を従え座長としての大任を果たした。この「三人吉三」のシネマ歌舞伎は勘三郎とともにコクーン歌舞伎をけん引し、舞台の演出を担当した串田和美によって徹底して再編集されて、「NEWシネマ歌舞伎」と銘打たれて公開された。

自分は舞台版、シネマ歌舞伎版ともに見ているが、3時間半を超す重厚な舞台版に対して、2時間強までに徹底的に詰めなおされたシネマ版はスチールカットを挿入して大胆にシーンを省略してみたりして、抜群のスピード感を感じさせるシアトリカルムービーに仕上がっていて、全く別物を見ているようだった。

そして「阿弖流為」


大名跡の喪失を経て、今や歌舞伎界のプリンスからけん引役に回った市川染五郎。そんな彼が20年以上前にその存在を知り、いつか歌舞伎にと思っていたのが桓武天皇の時代、征夷大将軍坂上田村麻呂と闘った東北蝦夷の長・阿弖流為の存在。そのプランが最初に動き出したのが02年のこと。

本格的に全国進出を果たそうとした劇団☆新感線と組み、いのうえ歌舞伎「アテルイ」として結実。このときも染五郎は阿弖流為を演じ田村麻呂を堤真一、ヒロインを水野美紀が演じた。新感線と染五郎は「アテルイ」に前後として「阿修羅城の瞳」「髑髏城の七人」など5度にわたってコラボしファンなの間では新感“染”として人気を集めた。

それから13年の時を経て、アテルイは改めて歌舞伎のフィールドで「歌舞伎NEXT阿弖流為」として上演された。演出・脚本は新感線のいのうえひでのり&中島かずきがそのまま続投で、この起用も勘三郎の改革がなければ成立しなかったかもしれない。

新感線の「アテルイ」はゲキ×シネ展開直前の作品で、映画館の大スクリーンで「阿弖流為=アテルイ」が展開されるのはこれが最初になる。そういう意味では新感線ファンにも見逃せない存在の作品といっていいだろう。

シネマ歌舞伎「阿弖流為」はこれまでのシネマ歌舞伎とゲキ×シネのノウハウ・実績が結実した重厚な映像作品になっていた。音や映像は一から洗練されなおされていてクリアになり、さらに映画となるに至って多くの個所に加工・合成が加えられ、とても舞台では見ることはできない画が続き、豪華絢爛な絵巻物となっている。大粒の汗を流す役者の表情などはたとえ舞台の最前列にいてもみることはできない。

ステージ・コンサート・各種イベントなどは時間・回数・地域の条件が合わず、行きたくても行けないことがある。ODSはそのハンデを補ってくれるものになりつつある。見たい映画以外にも見たいものを映画館で見つけてみてはいかがだろうか?
すそ野は広がり、新しい発見のきっかけになってくれるかもしれない。

(文:村松健太郎)

シネマ歌舞伎
http://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/

METライブビューイング
http://www.shochiku.co.jp/met/

松竹ODSラインナップ
http://www.shochiku.co.jp/anime/ova.html 

ゲキ×シネ
http://www.geki-cine.jp/

AKBグループドキュメンタリーシリーズ映画
http://www.2016-akb48.jp/ 

東宝映画事業部
http://www.saiyo-info.net/toho/work/eizo_eizo.html 

一般社団法人日本2.5次元ミュージカル協会
http://www.j25musical.jp/ 

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