映画コラム

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2016年10月26日

『金メダル男』ウッチャンならではのやさしさと魅力に溢れていた7つの理由

『金メダル男』ウッチャンならではのやさしさと魅力に溢れていた7つの理由

金メダル男 内村光良 知念侑李


(C)「金メダル男」製作委員会


現在公開中の『金メダル男』(以下、本作)は、お笑い芸人のみならず、俳優、映画監督としても活躍する内村光良さん(以下、ウッチャン)の監督・脚本最新作です。観てみると、「これこそウッチャンだ!」と思える、やさしさと魅力に溢れた作品になっていました。以下にその魅力を紹介します!

1.映画愛ありすぎ!


ウッチャンが映画好きなのは周知の通り。かつて『笑う犬の冒険』という番組では“ミル姉さん”というキャラに扮して、映画解説のコーナーを担当していたりもしていました。

本作でもウッチャンの映画愛がほとばしっています。例えば、冒頭ではチャールズ・チャップリンのあの名言が登場、中学時代には“名画座”に通うシーンもあったりします。

高校時代の“表現部”のシーンでは、主人公はしれっとブルース・リーっぽい黄色いつなぎを着ていていました。ウッチャンは熱狂的なブルース・リーやジャッキー・チェンのファンでもあるのです。

主人公の父親が度々“自分探しの旅”をしに行くときの格好は、『男はつらいよ』の寅さんのオマージュでしょう。

英語の弁論スピーチでの「生きるべきか死ぬべきか(To Be or Not to Be)」は『ハムレット』のセリフですが、1942年のコメディ映画のタイトルをも示していたのかもしれません。

そもそもの“男の数奇な一生を追う”という物語は『フォレスト・ガンプ』にも似ていたりもします。人生を丸ごと体感できる、映画ならではのおもしろさがあることも、本作の長所になっているのです。

2.昭和時代のアイテムが続々登場!


本作は1964年、東京オリンピックが開催された年から始まり、主人公がオトナになるまでを描いていきます。

そして、主人公が過ごすそれぞれの時代の流行した言葉が続々登場!例えば“ペナント”、“聖子ちゃんカット”、“ローラー族”、“竹の子族”、“アメリカ横断ウルトラクイズ”、“ザ・トップテン”などなど……ネタバレになるので詳細は書きませんが、ウッチャンと親交のある芸能人が出演した番組も、テレビに映し出されたりします。

しかも、これらアイテムはただ登場するだけでなく、終盤にとある形で、“伏線”として回収されるのですからたまりません。原作・脚本・監督・主演をこなしたウッチャンが「脚本に一番時間がかかりました」というのも納得、細部まで計算されつくした物語になっているのです。

この、当時の昭和文化を知っている人には懐かしく、知らない人には昔の文化を知るきっかけになるというのは、同じく昭和時代の青春を描いた名作『横道世之介』を彷彿とさせました。ウッチャンと同世代の方はもちろん、若い方もぜひ観てほしいです。

3.良い意味で“イタい”シーンもある!


本作の主人公は“何にでも一等賞”を狙う男です。当然、何にでも一等なんて狙えるわけもなく、彼は挫折を繰り返していきます。その描写は容赦がないというか……はっきり言って“イタい”のです。

特に、高校時代に“表現部”を設立するシーンや、終盤にある漫才は、「やめてくれ!そんなもの見せないでくれ!」と叫びそうになりました(褒めています)。

芸人であり、自身が“おもしろい”と思うものをお客に見せているはずのウッチャンが、こうして人に“イタい”と思われることをキッチリ描写したことには、ある種の誠実さを感じました。芸人として長く活動してきた方であるからでこそ、おもしろくないものに対しては厳しい目で見ることができるのでしょう。

4.ウッチャンに似すぎ! 知念侑李の芸達者っぷりも要チェック!


主演を務めたウッチャンが素晴らしいのはもちろんですが、主人公の“ヤング”時代を演じた知念侑李さんも素晴らしい! Hey! Say! JUMPというアイドルのメンバーであり、普段はイケメンなのに、本作では本当に残念で、イケていない少年および青年を演じきっています。

驚くべきなのは、いくつものシーンで“ウッチャンに(顔が)そっくり!”と思うシーンがあること。そのときの顔は“変顔”ではあるのですが、アイドルのイメージをかなぐり捨てたような役者魂を感じました。

5.超豪華!“あの人”の出演を見逃すな!


主役の2人、ヒロインを演じる木村多江さんや土屋太鳳さんはもちろん、「この人が出てくるのかよ!」と思わざるを得ない、超がつくほどの豪華キャスト陣も本作の魅力となっています。これは悪く言えば“出オチ”気味ですが、よく言えば“出てきた瞬間に大笑いできる”楽しい要素でした。

例えば、脇役であっても、笑福亭鶴瓶さん、大泉洋さん、 柄本時生さん、長澤まさみさんなどなど……中でも、竹中直人さんの登場シーンは思いっきり笑わせにかかっていました。

また、少年だった登場人物たちは後にオトナになるのですが、これまた超有名な役者たちがそのオトナとして出演しています。個人的に笑ったのは、一度見たら忘れられない風貌の加藤諒さんが、オトナになったら“あの人”になることでしょうか……言われてみれば似ているよ!気づかなかったよ!

これだけの面子を揃えられたのは、人格者としてのウッチャンが信頼されているおかげでもあるのでしょうね。

そうそう、『ちはやふる』と『君の名は。』の上白石萌音さんの妹である、上白石萌歌さんが出演しているのも注目です。しかもスクール水着姿で!主人公が夢中になるのも当然だよ!

6.ウッチャンの人生がもしもこうだったら……


本作でおもしろい要素がもう1つ。それは、「もしウッチャンがこうなっていたら……」というIFの物語にも思えることです。

本作の主人公が生まれた1964年は東京オリンピックの年で、それはウッチャンの生まれた年と同じです。

本作の主人公は“一等賞になること”に取りつかれている一方で、ウッチャンと同じく“映画が好きになったかもしれない可能性”も匂わせていました。

ネタバレになるので詳細は書きませんが、終盤に提示される“あること”は、特に“主人公は違った道を選んだウッチャンの姿そのものだ”であると思わせました。

冗談抜きで、本作は多様な人生の分岐を描いたSF映画『ミスター・ノーバディ』にも似ているのかもしれません。

7.“芸人”のウッチャンならではのやさしさに溢れている


本作で何よりも尊いのは、“何にでも一等賞を目指すあまり、何も大成できない”主人公の姿を描くことで、「人生に無駄なことはない」というメッセージを送っていることです。

これは、夢破れた後輩芸人を見てきた、ウッチャンならではのやさしさなのでしょう。この視点は、2011年の公開された前作『ボクたちの交換日記』にも通じています。

芸人に限らず、何かを目指して努力しても、一等賞どころかまったく大成しなかった人のほうがきっと多いでしょう。そうした人たちに、本作のメッセージは、より響くはずです。

本作の主人公は目立ちたがりで、あっちこっちに手をつけてばかりの情けない男なのですが、それ以上に人を楽しませたい、親友や誰かのために行動したい、と思っていることもミソ。これこそ、ウッチャンのやさしい人間性をそのまま表しているのではないでしょうか。

ウッチャンのファンはもちろん、何かに挫折したり、夢を持っている人にぜひおすすめします。元気がもらえることは、間違いないですよ。

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(文:ヒナタカ)

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