人気シリーズ第三弾はエレクトリカル? 『インフェルノ』の意外な音楽!
みなさん、こんにちは。
10月28日より、ロバート・ラングドン教授が活躍するダン・ブラウン原作の人気シリーズ小説からの映画化第三弾『インフェルノ』が公開となりました。2006年の『ダ・ヴィンチ・コード』、2008年の『天使と悪魔』に続く本作は、監督のロン・ハワード、主演のトム・ハンクスが続投。新たなキャストに『ローグ・ワン』が控えるフェリシティ・ジョーンズ、『最強のふたり』が大ヒット、『ジュラシック・ワールド』にも出演したフランスの俳優オマール・シーを迎え、ラングドン教授が再び巨大な陰謀の渦中へと巻き込まれていきます。
今回の「映画音楽の世界」では、そんなミステリー大作である『インフェルノ』を紹介したいと思います。
https://m.youtube.com/watch?time_continue=5&v=UWRsfYrJiXc&ebc=ANyPxKqtiOJMzQ6zfFSGMIji1nKEIhzRI7SHu5X6qwdviX23Cvy0hWpuoh165DRKClCtScUD4dvbkmtvTxkMlCGJN9DMskH--A
ロン・ハワードが構築する怒涛のミステリーサスペンス
トム・ハンクスが三度ロバート・ラングドン教授に扮した本作は、そのラングドン教授が何者かの襲撃を受け記憶喪失となった状態で病室で目覚めるという衝撃的な展開で幕を開けます。同時にその病室でも警察の制服に身を包んだ謎の女性からの銃撃を受け、フェリシティ・ジョーンズ扮する医師、シエナの協力を得て逃亡を図るという、序盤から猛スピードで物語は展開。
ラングドンの脳裏を過るフラッシュバックの数々。唯一の手掛かりは、ダンテの『神曲』の一編、[地獄篇]の図に記されていた暗号。フラッシュバックの光景に悩まされながらもシエナとともに謎を追う中で浮かび上がる、バートランド・ゾブリストという危険思想の生物学者と彼の企てたテロ計画。
映画は一つの道筋を見つけるたびに加速度的に次の展開へとなだれ込み、息をつかせぬテンポとアクション性でクライマックスへと突き進んでいきます。この辺りのスピード感と謎解きの醍醐味は、まさに名匠ロン・ハワード監督と原作者のダン・ブラウン、脚本を担当したデヴィッド・コープ三者の巧みなストーリーテリング力が発揮されていて、安定のクオリティを誇っています。
また、ストーリーに散りばめられた伏線や[地獄篇]の暗喩も見事に機能。二転三転する衝撃の物語の結末は怒涛のクライマックスへと集約され、『ダ・ヴィンチ・コード』、『天使と悪魔』をさらに凌ぐエンターテイメント作品へと仕上がっています。
あまりにも意外?
ハリウッドの巨匠が作り上げた『インフェルノ』の音楽
本作の音楽を担当したのは、前二作から続けての登板となるハンス・ジマー。『ライオン・キング』でアカデミー作曲賞を受賞し、以降オスカー戦線の常連となった人気作曲家がシリーズを通して音楽を担当していることになります。
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筆者は本作のサウンドトラック盤を発売後すぐ、映画公開よりも前に聴きましたが、前二作の音楽のイメージをそのまま本作にも予想していただけに1曲目[メイビー・ペイン・キャン・セイブ・アス]、2曲目の[チェルカ・トロ―ヴァ]から度肝を抜かれる形となりました。
ジマーが本作に用意した音楽は、歴史ミステリーの側面を持つ本シリーズとは対照的とも思える実に先鋭的なエレクトロニカル・サウンド。ジマー特有の目立ちがちなメロディラインは抑え、音楽の方向性としては抽象的でありながら立体的な電子音が多重層に展開して映像をさらにサスペンスフルに仕上げる役割を果たしていました。今回の電子サウンドは『チャッピー』をさらにシャープに、より情感的にした印象で、59歳にしてますますエッジの効いた作曲センスを披露したジマーのスタイルが顕著になっています。
しかし、振り返ってみると今回のエレクトロニカルへの完全方向転換は全く予想出来なかったものではなく、荘厳な雰囲気を取り込んだストリングスメインのオーケストラ音楽だった『ダ・ヴィンチ・コード』に比べ、『天使と悪魔』では[160BPM]や[炎][黒い煙]などで宗教コーラスにシンセリズムをぶつけていました。今回は物語の核が「細菌テロ」という極めて現代的なガジェットを用いていることもあってか、前作までに忍ばせていた電子音楽を全面に拡張させた結果が本作の音楽であり、ジマーがシリーズを通して実験的に音楽の転換を図ったことが解ります。
とはいえ、シリーズを通して主題曲ともいえる神聖感漂う名曲[聖杯]は本作でも要所要所でそのフレーズが使用され、特に[ライフ・マスト・ハヴィッツ・ミステリーズ]はクライマックスの感動をそのまま引き継ぐに相応しい、壮大なアレンジテーマ曲となっています。
まとめ
シリーズを追うごとに増していく緊迫性、ミステリー性、アクション性はまさにエンターテイメントが目指す理想形であり、それこそが映画の醍醐味でもあります。名匠ロン・ハワード監督の手堅い演出に加え、実験的なハンス・ジマーの音楽も相まってこのシリーズがさらに一歩踏み込んだステージに到達したといえる『インフェルノ』。来年には原作小説であるラングドンシリーズ最新刊『ORIGIN』が発売されるということもあるので、秋の夜長に映画と小説、両面から壮大な「謎解き」を楽しんでみてはいかがでしょうか。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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(文:葦見川和哉)
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