喧嘩したって家族は家族!『男はつらいよ』初期作品に見る寅さんと家族の絆とは
1969年に第1作が公開されるとヒットして次々続編が登場し、全48作が作られた日本映画屈指の長寿シリーズ『男はつらいよ』。
もともとはドラマとして放映された作品でしたが、最終回に、主人公の寅さん(渥美清)がハブに噛まれて死んでしまうという結末に抗議が殺到したため、山田洋次監督が自ら企画して映画のスクリーンに寅さんが蘇りました。
こちらが予想外のヒット作となり、すぐに続編が登場。そして、第2作、第3作が作られていくあたりで、旅ガラスの寅さんが故郷・柴又の実家の団子屋に戻り、トラブルを巻き起こして恋をして、やがて失恋してまた旅にでる…というファンがよく知る「お約束」の展開が確立されていったようです。
今回はシリーズの方向性を決めていったともいえる『男はつらいよ』第2作・第3作に注目してみたいと思います!
第2作『続・男はつらいよ』
2作目は寅さんと母親の物語。一年ぶりに柴又に戻ってきた寅さんは、妹のさくら(倍賞千恵子)や団子屋のおいちゃん(森川信)とおばちゃん(三崎千恵子)ら家族、さらに、かつての恩師・坪内(東野英治郎)、その娘の夏子(佐藤オリエ)と再会を果たします。そして、坪内の薦めで、夏子ともに生き別れの母親・お菊(ミヤコ蝶々)を探しに行きますが、懐かしい母との再会は感激や涙とは程遠いもので——
おすすめ名場面は…
毎度のことではあるのですが、寅さんは踏んだり蹴ったりの目にあいます。恩師である坪内先生や美しく成長した幼なじみの夏子と再会を喜ぶも、つい食べすぎて病院に担ぎ込まれ、病室で医師の藤村と喧嘩。焼肉屋で無銭飲食をして店長と喧嘩。関西へ行き、実の母・お菊と再会するも、「今ごろ何の用事や、銭か?」と冷たい言葉を放つ母親にぶち切れて大喧嘩。そして、戻った東京では、坪内先生の突然の死に直面し、父を失った夏子のためにお葬式の手伝いをするも、夏子がいつのまにやら恋仲になっていた藤村と抱き合うのを見てしまい…自業自得な災難も中にはありますが、お母さんから冷たくされ、恋した女性に振られる姿はなんとも気の毒です。
しかし、傷心の寅さんを最後に救ったのは、他でもない実の母親でした。映画の最後で、藤村と旅行にやってきた夏子は、寅さんがお菊と一緒にいる姿を目にするのです。
憎まれ口をたたきあいながら、お菊にくっついていく寅さん。この最後の落としどころが、なんとも見ている人をホッとさせてくれます。なんだよ、寅さん、つらいことがあった後に、お母さんのところに行ったんだ…と。
寅さんは、シリーズを通して旅先で出会った人や惚れた女性にはとことん優しいのに、一方さくらやおばちゃんなど、近しい人の前ではとてもわがままで甘えるところがあります。今作でも、冷たくあしらわれたのに、結局母親のところに甘えに行ったというのが、なんとも寅さんらしいのですが、何はともあれお母さんがいてくれたおかげで、寅さんに笑顔が戻って、映画を観ている人たちも「寅さんに希望があった」と一安心できる、気持ちいいラストになっています。
[この映画を見れる動画配信サイト](2016年12月2日現在配信中)
続・男はつらいよ| 1969年 | 日本 | 93分 | (C)1969 松竹株式会社 | 監督:山田洋次 | 渥美清/倍賞千恵子/前田吟/三崎千恵子/太宰久雄/笠智衆/佐藤蛾次郎/森川信/佐藤オリエ |
第3作『男はつらいよ フーテンの寅』
山田洋次監督に替わって森崎東監督がメガホンをとった第3作。柴又へ帰ってきた寅さんは、お見合いをすることに。しかし、それをきっかけに団子屋に騒動を巻き起こし、家族と喧嘩をして出て行ってしまいます。しかし、しばらくしておいちゃんとおばちゃんは、旅行に出かけた先の三重県の旅館で番頭をしている寅さんと再会。旅館の女将(新珠三千代)に惚れてその旅館に居着いてしまったという寅さん。果たしてこの恋は報われるのか——
おすすめ名場面は…
毎度のことではあるのですが、寅さんはいろいろとやらかします。お見合いで出くわした顔なじみの駒子(春川ますみ)とその夫の復縁のためにひと肌脱ぐのはいいのですが、夫婦の門出を祝おうと団子屋でどんちゃん騒ぎをし、ハイヤーまで呼び、しかも代金をすべておいちゃんとおばちゃんに払わせる始末。さすがにやりすぎの寅さんを見かねて義理の弟・博(前田吟)が鉄拳が下します。
今作は、寅さんの妹・さくらの出番が少ない感じがありました。寅さんとおいちゃん、そして博が喧嘩になりますが、普段なら止めに入るであろうさくらがいないものですから、「表へ出ろ!」の言葉とともに、寅さんと博は殴り合いに発展。しかし、寅さんは思いのほか弱く、すぐに博に投げられてしまいます。
倒れこんだ寅さん。おいちゃんからあやまるように言われても目を伏せて厳しい顔のまま黙り込んでいるのですが、ここがまさに渥美清さんの名演技です。
寅さんは、本当はわかっているんです。自分が家族に迷惑をかけたことも、家族が自分のことを心配してくれているのも、みんなみんな知ってる。でも、つい馬鹿なことをしてしまったから、自分の情けなさをかみしめている。最後に文句をつぶやくまでセリフはほぼないシーンなのに、表情だけで寅さんの心情が見事に伝わってきます。
[この映画を見れる動画配信サイト](2016年12月2日現在配信中)
男はつらいよ フーテンの寅| 1970年 | 日本 | 90分 | (C)1970 松竹株式会社 | 監督:森崎東 | 渥美清/倍賞千恵子/前田吟/三崎千恵子/太宰久雄/笠智衆/佐藤蛾次郎/森川信/新珠三千代 |
『男はつらいよ』シリーズ初期の作品で形作られていったものとは…
全48作の『男はつらいよ』には、いつでも家族の絆があります。どんなに離れていても家族は家族。喧嘩したって家族は家族。シリーズを通じて、寅さんと妹のさくら、団子屋のおいちゃんとおばちゃん、義理の弟の博、そして、甥っ子の満男の間には変わらぬ絆が存在していました。
第2作では、実の母親との間に切っても切れない絆があることが語られており、第3作では、迷惑をかけても喧嘩をふっかけても、家族の絆に支えられているのをわかっている寅さんの心情が垣間見えました。
旅をして柴又に戻りまた旅に出ていく寅さん。
惚れた女性に懸命につくすのに、踏んだり蹴ったりの目にあって失恋してしまう寅さん。
トラブルを巻き起こして家族に迷惑をかけ、すぐに家族と喧嘩する寅さん。
このような寅さんのキャラクターやドラマのフォーマットが確立されていったように見える第2作・第3作ですが、シリーズの中でいつも寅さんの心の中に存在していたに違いない家族の絆も、これら初期の作品によって少しずつ形作られていったのかもしれませんね。
(文:田下愛)
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