映画コラム

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2016年12月11日

『時代劇は死なず~ちゃんばら美学考』東映京都の名匠による決意表明!

『時代劇は死なず~ちゃんばら美学考』東映京都の名匠による決意表明!

■「キネマニア共和国」

時代劇は死なず ちゃんばら美学考


(C)吉本興業


 最近、映画でもテレビでも時代劇が、特にちゃんばらをメインとした活劇がとんと減ってしまい、がっかりしているファンも多いことかと思われます。

CSの時代劇専門チャンネルで旧作なら結構見ることはできますが、やはり定期的に新しい作品も見たいもの。

そんな風潮の中、東映京都の名匠・中島貞夫監督が時代劇に関する1本のドキュメンタリー映画を撮りました……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.183》

その名もずばり『時代劇は死なず~ちゃんばら美学考』です!

京都の時代劇映画の栄枯盛衰を
明瞭に解き明かすドキュメンタリー


映画『時代劇は死なず~ちゃんばら美学考』はまず中島貞夫監督自身が、『太秦ライムライト』(14)などの若手女優・山本千尋に説き聞かせていく形で、日本映画発祥の地でもある京都における映画の歴史を紹介していきます。

実は中島監督、大阪芸術大学&大学院で長年にわたって映画を学ぶ学生たちを教えてきたキャリアがあり(その中から熊切和嘉などの逸材が巣立っています)、当然無声映画からトーキー、戦後の時代劇全盛期までの映画史講座も実にわかりやすくも面白く解説されています。

続けて映画は長年時代劇に関わってきたスタッフや殺陣師、斬られ役の役者、映画評論家などのインタビューを交えながら、なぜ時代劇がすたれていったのかを解明していきます。

そもそもちゃんばらとは、斬るか斬られるかという設定の中から生と死を痛感させていく日本独自の死生観を表わすツールでもありましたが、戦後になって様式美などの華やかな殺陣や勧善懲悪の要素が大いに加味されたことで「死」の要素が薄れ、それとともに人々が興味を示さなくなったのでは? というのが中島監督の考えです。

また時代劇が廃れていくに従い、その技術の伝統が継承できなくなっていく危機にも陥っていて、時代劇スター松方弘樹が久々に出演した『十三人の刺客』で斬られ役の芝居と姿勢が全然できてなくて撮影が大変だったことを明かしています。

ちゃんばらにおいて、もっとも重要なのは斬られ役がいかにうまく主人公らに斬られるか、その間合いや呼吸などはやはりキャリアを経ないと伝承できないのです。

現在、歴史ブームの到来もあって、若い世代(特に女子)から殺陣を習いたいという動きがあるそうですが、肝心の発表の場、即ち映画やドラマがないのがつらいところ。

ここはやはり、見る側の私たちが、もっと声を大にして、時代劇を、ちゃんばらを見たいと訴えていくことも必要でしょう。

kanntoku


(C)吉本興業



中島監督曰く「私は必ず、
ちゃんばら時代劇映画を撮る所存です」


そもそも中島貞夫監督は千葉県出身で東大卒業後に東映に入社し、本来は東京撮影所で現代劇を撮りたかったのに時代劇の京都撮影所に回され、そこで同撮影所としては12年ぶりとなる現代劇『893愚連隊』(66)を撮り、特に70年代は『鉄砲玉の美学』(73)『唐獅子警察』(74)『狂った野獣』(76)などの現代アクションもので一世を風靡し、また日本版ゴッドファーザーとでもいうべきやくざ映画大作『日本の首領(ドン)』(77~78)でも気を吐きました。

一方で時代劇に関しては、監督デビュー作品の『くノ一忍法』(64)や『大奥㊙物語』(67)といったセクシーものや、日本のテロリズムの歴史をつづった『日本暗殺秘録』(69)、市川崑監督のTVシリーズとは一線を画した『木枯し紋次郎』2部作(72)、真田十勇士が全員真田幸村に扮して徳川家康の首を狙う特撮時代劇大作『真田幸村の謀略』(79)、大奥の権力抗争劇『女帝 春日局』(90)と、どちらかというと変化球的な時代劇の異色作を撮り続けてきました。

しかし、そういった流れの中、彼は東映京都撮影所の時代劇スタッフの技術の素晴らしさや職人魂などに触れつつ、彼らの技術と心意気を何とか継承させていきたいと願うようになったのです。

『時代劇は死なず~ちゃんばら美学考』のラストは、中島監督がこれから撮りたいと思っている時代劇の一部を模擬的に撮影し、そのメイキング風景を描いています。

そこには「私は必ずちゃんばら時代劇映画を撮る所存です!」といった中島監督の気概が大いに感じられてなりません。

映画監督・中島貞夫、現在82歳。

彼の夢が叶うよう、映画ファンを自認する方々にはぜひとも応援してもらえたらと思います。

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(文:増當竜也)

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