映画コラム
『アラビアの女王 愛と宿命の日々』/ニコール・キッドマンが輝く大河ロマンの世界
『アラビアの女王 愛と宿命の日々』/ニコール・キッドマンが輝く大河ロマンの世界
「大河」という言葉を聞くと、どうしても1年間に渡って放送される時代劇を思い起こしてしまうだろうが、ジャンルとしての「大河」、つまりは「大河ドラマ」や「大河ロマン」というひとりの人間の一代記は、映画のスケール感を最も感じさせてくれるジャンルのひとつである。
21日から公開された『アラビアの女王 愛と宿命の日々』は、アラビア史にその名を刻んだイギリスの女性考古学者ガートルード・ベルの半生を綴った壮大な大河ロマンである。
<〜幻影は映画に乗って旅をする〜vol.15:『アラビアの女王 愛と宿命の日々』/ニコール・キッドマンが輝く大河ロマンの世界>
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20世紀初頭。裕福な家庭に生まれ育ち、オックスフォード大学を首席で卒業したガートルードは、社交界に嫌気がさし、ペルシャへと旅に出る。そこで彼女を待ち受けていたのは魅力的なアラビアの砂漠と、公使館で三等書記官として働くヘンリーだった。彼女は彼と恋に落ちるが、身分違いの恋はうまくはいかず、やがてヘンリーは自殺してしまう。心に傷を抱えたガートルードは、アラビアの地にのめり込むようになり、情勢の不安定なアラビア半島を縦断する旅に出ることを決意するのであった。
主演を務めるニコール・キッドマンは、最近では『グレース・オブ・モナコ』でグレース・ケリーを演じるなど、ようやくベテラン女優としての貫禄を携えてきた。かつてはアイドル女優のように謳われたその美貌を維持しながらも、オスカー女優に恥じない見事な芝居を見せているのだ。
何より驚きなのは、冒頭の社交界での絢爛豪華な衣装を身にまとった彼女の姿が、実に若々しく見えることである。撮影当時47歳の彼女は年相応の美貌とはまた違う、30歳前後に設定されたキャラクターの美しさを体現しているのだ。
ひとつの物語の中でひとりの人物の長い年月を演じるということは、メイクや照明といった技術的ファクターも重要ではあるが、やはりそれを演じる者の力量が大きい。無論、大河ロマンを演じきれる女優は大成すると言ってもいいだろう。たとえば『めぐりあう時間たち』でキッドマンと共演したメリル・ストリープも、80年代に『シルクウッド』と『愛と哀しみの果て』の2作で高い評価を獲得し、現在のハリウッドにおける彼女の地位は言わずもがなだ。
キッドマンに至っては、これまでにも何度も大河映画への出演経験がある。前述した『グレース・オブ・モナコ』はもちろんのこと、バズ・ラーマンが手がけた『オーストラリア』もそのひとつに当たる。中でもここでは、キッドマンが20代最後に出演した、ジェーン・カンピオンの『ある貴婦人の肖像』に注目したい。
この『ある貴婦人の肖像』もまた、19世紀後半の保守的なヨーロッパ社会の中で旅を続ける女性の姿を描いた作品だ。ヘンリー・ジェームズの原作を忠実に映像化し、両親を失いアメリカからイギリスに渡った主人公のイザベルが、真の自由を求めてイタリアに渡り、再びイギリスに戻るのである。その間には、多くの男性との恋愛や葛藤など、あらゆる物語的要素が収められている。
ことに、キッドマンは作家性の強い監督と組んだ時には、その実力を遺憾無く発揮するのである。この『ある貴婦人の肖像』のジェーン・カンピオン、『アイズ・ワイド・シャット』のスタンリー・キューブリック、各映画賞を総なめにした『ラビット・ホール』のジョン・キャメロン・ミッチェル。
いずれにせよ、その美貌を活かした役柄から、はたまた正反対に醜い部分をさらけ出してギャップを作り出したりと、ここ数年でますますその演技の引き出しを増やしているのだ。
20年前の『ある貴婦人の肖像』と、今回の『アラビアの女王』の2作を見比べてみると、その演技力の向上は目を見張るものがある。ドイツを代表する鬼才、ヴェルナー・ヘルツォークの作り出す世界に、彼女の演技力がどっぷりと浸かったということだろう。
その点では、以前このコラムでも紹介した、デヴィッド・リーンの代表作『アラビアのロレンス』の女性版ともいう異名にも負けない、優れた大河ロマンであった。ちなみに、その〝アラビアのロレンス〟ことT.E.ロレンスも劇中に登場する(『トワイライト』シリーズのロバート・パティンソンは久しぶりのハマり役ではないだろうか)。アラビア半島の歴史に刻みつけられた、重要な逸話を持つ二人の共演というわけだ。
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(文:久保田和馬)
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