映画コラム
映画でセクシュアルマイノリティについて学ぶ―LGBTコミュニティーを描く映画6選
映画でセクシュアルマイノリティについて学ぶ―LGBTコミュニティーを描く映画6選
「ゲイの可視化を読む」で黒岩裕市が指摘しているように、2014年に東京都渋谷区が同性カップルを結婚に相当する関係と認めて以来、日本でも性的マイノリティーが多様性の一つとして肯定されるようになりました。しかし、強制的異性愛が根付いている社会では、LGBTコミュニティーに対する差別がまだ残っています。
今回は性的マイノリティーに関する知識を深めて、その事情を知ってもらうために6つの映画を紹介します。
映画を観賞する前に覚えておきたいセクシュアル・マイノリティの基本用語
・セクシュアル・マイノリティ:性的少数派。異性を愛する人が多数者であることに対して、LGBT(IQ)の人たちを総称して使うことが多いです。
・LGBTIQ: LGBTと使うことが多いですが、セクシュアル・マイノリティ全体を指す言葉としてLGBTIQがより正確です。Lesbian(レズビアン)、Gay(ゲイ)、Bisexual(バイセクシュアル)、 Transgender(トランスジェンダー)、Intersex(インターセックス)、 Questioning(クエスチョニング)の略称。
・レズビアン: 女として女が好きな人。
・ゲイ: 男として男が好きな人。日本のテレビに登場するのはオネェタレントがほとんどですが、オネェキャラではないゲイの人も多い。
・バイセクシュアル:同性も異性も好きになる人。
・トランスジェンダー:身体の性別とは異なる性別を生きる、あるいは生きたいと望む人たちの総称。身体と心の性別に不一致感をもつ人を総称する言葉としても使われます。
性同一性障害:医学的な疾患名で、身体的な性別に不快感、違和感などをもち、反対の性で生きることを強く望むこと。性同一性障害の診断を受けた人は、治療を受けることができるし、場合によって戸籍の性別を変更することも可能です。
・インターセックス:性器、卵巣・精巣といった性腺、染色体等が男性型・女性型のどちらかに統一されていないか、または判別しにくい等の状態。
・クエスチョニング:自己のジェンダーや性同一性、性的指向を探している状態の人。
・カミングアウト: 自分のセクシャリティを隠している場合、誰かに打ち明けること。
・アウティング: 本人の了承を得ずに、公にしていない性的指向や性自認を暴露すること。
・ホモフォビア: 同性愛嫌悪。
LGBTコミュニティーを描く映画6選
1:『ミルク』
同性愛者を含む全ての人間の権利の平等を訴えるためにサンフランシスコ市の市政執行委員に立候補したハーヴェイ・ミルク(ショーン・ペン)が1977年に当選し、米国史では初めてカミングアウトした公職者となりました。『ミルク』では、サンフランシスコにあるゲイコミュニティとして有名なカストロ地区で今でもヒーローとして尊敬されているハーヴェイ・ミルクの一生に渡るマイノリティーのための戦いが語られています。
本作品の特徴:実話、ユーモアたっぷり、感動映画
主な受賞:第81回アカデミー賞(主演男優賞、脚本賞)、ロサンゼルス映画批評家協会賞(主演男優賞)、サンフランシスコ映画批評家協会賞(作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞)、その他
本作品の名言:「弱者に希望を」
2:『パレードへようこそ』
サッチャー政権下のイギリスが舞台。1984年に国が不況に揺れている中でサッチャー首相が20カ所の炭坑閉鎖案を発表し、それに対して抗議するストライキが相次ぐ。その様子をニュースで見たマークが、炭坑労働者とその家族を支援するためにゲイの仲間たちと募金活動をすることに。保守的な考え方をもつ炭坑労働者たちの中でゲイやレズビアンに助けてもらうことに対して抵抗を抱く人が多いですが、そこに密接な絆が誕生するのです。
本作品の特徴:実話、ユーモアたっぷり、感動映画
主な受賞:フランダース国際映画祭(観客賞)、英国インディペンデント映画賞(作品賞、助演女優賞、助演男優賞)、第67回カンヌ国際映画祭(クィア・パルム)その他。
本作品の名言:「巨大な敵と闘っているときどこかで見知らぬ友が応援してくれてると思うと、最高の気分です」
3:『アデル、ブルーは熱い色』
文学好きの高校生・アデルが青い髪の美大生エマと出会うことをきっかけに、ずっと隠していた自分のセキュリティーに目覚める。二人のあいだで情熱的な愛が生まれますが、職場の噂などが気になりカミングアウトができないアデルと作品作りに熱心するエマとのあいだにすれ違いが生じてしまいます。深く愛し合っていた二人の別れの切なさに思わず感動するはずです!
本作品の特徴:ジュリー・マロによるグラフィックノベル『ブルーは熱い色』が原作。非常にリアルなベッドシーンが多い。
主な受賞:第66回カンヌ国際映画祭(パルム・ドール)、FIPRESCI賞。
本作品の名言:「寂しいの、触れ合えないことが、会えないのが、息を吸えないのが。欲しいの、いつも、あなただけが。すべてが恋しい、欲しくてたまらない」
4:『チョコレートドーナツ』
1979年のカリフォルニアが舞台。歌手を目指しながらショーダンサーとして働くルディとゲイであることを隠す弁護士のポールが恋に落ちる。ある日、麻薬依存症の母から愛情を受けずに育ったダウン症の少年・マルコに二人が出逢います。ルディとポールがマルコとともに幸せな家庭を築き始めますが、ゲイであるがためにマルコと引き離されてしまうことに。
本作品の特徴:1970年代のアメリカ・ブルックリンで実際にあった話がモデルとなった
主な受賞:トライベッカ映画祭(観客賞)、シアトル映画祭(観客賞)、GLAADメディアアワード(最優秀作品賞)、その他。
本作品の名言:「普通とは違うから親失格なのか?」
5:『ボーイズ・ドント・クライ』
主人公のブランドン(ヒラリー・スワンク)は、20歳のトランスジェンダーです。身体的には女性(本名はティーナ)ですが、本人の性自認は男性。
ネブラスカ州のリンカーンに住むブランドンは、ある日喧嘩をしてしまったため街を出ることになり、ネブラスカ州のファールズシティへ移り住むことに。ブランドンが従兄のロニーから「フォールズ・シティの連中はオカマを殺す」と警告されつつも、フォールズ・シティのバーで出会ったラナという女性と恋に落ちる。そして、ある事件がきっかけで、ブランドンは身体的に女性であることが暴露されてしまいます。
本作品の特徴:実話(1993アメリカ・ネブラスカ州で性同一性障害の女性ブランドン・ティーナを含む3人が殺害された事件)
主な受賞:第72回アカデミー賞(主演女優賞)、ゴールデングローブ賞(主演女優賞)、ニューヨーク映画批評家協会賞(主演女優賞)、その他。
本作品の名言:「あなたが男だって、わたしには分かるの」
6:『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』
主人公のヘドウィグは、ベルリンの壁が築かれた年に男の子(ハルセン)として生まれた。東ドイツに住みながらも自由の国アメリカに憧れて、ロックスターになりたいハルセンが、ある日米兵から結婚を申し込まれる。そこで、結婚するために必要な性転換の手術を受けることになりますが、手術のミスで股間には「怒りの1インチ」(アングリー・インチ)が残ってしまう。
ハルセンが名前をヘドウィグに変えて渡米しますが、米兵に捨てられてしまう。それでもヘドウィグが自分の夢に諦めず、ロックバンドを結成し、音楽活動に励みながら愛を探し続けるのです。
本作品の特徴:グラムロック時代のような音楽、衣装などのステージパーフォーマンスを楽しめます。
主な受賞:サンダンス映画祭(最優秀監督賞、最優秀観客賞)、ベルリン国際映画祭(テディ賞)、サンフランシスコ国際映画祭(最優秀観客賞)、その他。
本作品の名言:「誰もが、自分の“カタワレ”を探してる」
まとめ
現在性的マイノリティーの権利や認識が促進されてきた一方で、偏見がまだ根強いです。差別やホモフォビアをなくすためにはまずセクシュアル・マイノリティに関する知識を深める必要がありますが、映画もその入門になれるのではないでしょうか?
(文:グアリーニ・ レティツィア)
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