『夜明け告げるルーのうた』は『君の名は。』だった?似ているアニメ映画5選と抜群のオリジナリティを語る
(C)2017ルー製作委員会
現在公開中のアニメ映画『夜明け告げるルーのうた』(以下、『ルー』)は、各界で絶賛された『マインド・ゲーム』で監督デビューを飾り、テレビアニメ「四畳半神話大系」や「ピンポン THE ANIMATION」などの数々の独創性のある作品を続々と世に送り届けてきた天才・湯浅政明による最新作です。
『ルー』は原作が存在しない完全オリジナル作品なのですが、実は数多くの名作アニメ映画をほうふつとさせるところもありました。ここでは、その作品群および、似ている理由を紹介します。
1:『崖の上のポニョ』
人間の男の子と、言葉を話せるかわいい海の生き物の女の子という組み合わせは、やはり『崖の上のポニョ』を強く連想させました。海辺の町を舞台にしていること、かわいい海の生き物が「好き!」という気持ちをいっぱいにして言ってくれることも、『ルー』と『ポニョ』は共通していますね。
しかも、それぞれで“死と生の境目が曖昧になる”という要素もあります。
例えば『ポニョ』の“ボートに載った夫人”はパンフレットに“大正時代の人”と記されており、彼女は旦那と抱いている子どもも含め、すでに亡くなっているのではないか?という深読みができるようになっています。
『ルー』では、すでに死んだと思われていた人物に、とんでもない事実が明らかになるかも……?(ネタバレになるので、詳しくは秘密にしておきます)
また、『ポニョ』ではポニョがトンネルを“怖がる”シーンがあり、それもまた様々な解釈と謎が思い浮かぶものになっていました。
『ルー』の冒頭でも、主人公たちがトンネルを通るシーンがあります。この時のトンネルの“影”に注目してみると、後ではっと気づくことがあるかもしれません。
2:『河童のクゥと夏休み』
本作『ルー』と『河童のクゥと夏休み』の共通点は、珍しい生き物が人々の間で話題を集めてしまったため、主人公たちが葛藤しながら彼(彼女)らを守ろうとすることです。風変わりなものをすぐ“写メ”してしまう現代の文化を、悪しきことして描いているのも同じですね。
どちらの物語も、「異なる種族同士が、この世界で平和に生きていくにはどうすればいいのか」という気づきを与えています。河童や人魚というファンタジーを扱いながらも、実は現実にも当てはまる問題を描いているのです。
3:『ファンタジア』または初期ディズニー作品
『ルー』の中盤の浜辺でのダンスシーンは、初期のディズニーアニメ作品を思わせます。というのも、ダンスをする人物たちみんなが細かいコマ数で“ぬるぬる”と、しかも凄まじい速度と正確さで動いているのです。
そう聞いてもピンと来ない、という方は『ファンタジア』を観てみてみることをおすすめします。8本の短編アニメで構成された作品で、1940年製作とはとても思えない完成度と芸術性が今なお高く評価されている名作なのですから。『ファンタジア』を観れば、聞き慣れているクラシック音楽の新たな魅力に気付けるかもしれませんよ。
4:『君の名は。』
(C)2016「君の名は。」製作委員会
ネタバレになるので詳しくは書きませんが、『ルー』の終盤のとある展開は、かなり『君の名は。』と似ています。両者が東北大震災を意識して作られていることと、災害で亡くなった方を偲んでいることも共通していると言っていいでしょう。
また、『君の名は。』でヒロインの妹・四葉を演じていた谷花音が、『ルー』ではマスコットキャラクター(ルー)を演じています。方や現実主義的な性格、方や天真爛漫な女の子なのですが、どちらもその声と演技はバッチリとハマっていました。
5:『パンダコパンダ』
『パンダコパンダ』は宮崎駿が原画、原案、脚本を担当した短編アニメ映画です。元気な女の子のところに、ずんぐりむっくりとした生き物(巨大パンダ)がやってくるというプロットなどに、『となりのトトロ』との類似性を感じられることでしょう。
『ルー』において、サメのような見た目をした巨大な人魚“ルーのパパ”がスーツを着ているのは、湯浅政明監督が『パンダコパンダ』を意識したからなのだそう。巨大パンダ、巨大人魚と、見た目が完全に人間じゃないのに、なんだかんだで人間社会に溶け込んでいることも共通していますね。
ちなみに、『パンダコパンダ』が『となりのトトロ』の原型と評されるのと同じように、その続編となる『パンダコパンダ 雨ふりサーカスの巻』も『崖の上のポニョ』の元ネタと言っていい作品になっています。なにせ、どちらも大洪水に見舞われて、水に沈んだ町の中を冒険するという内容なのですから。
まとめ:実はオリジナリティが抜群!
このように本作『ルー』と既存の名作アニメとの類似性をまとめると、「寄せ集めの、オリジナリティのない映画なの?」と思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。
(C)2017ルー製作委員会
いい意味でパースの狂ったのかような画づくり、奥行き感が大胆すぎてもはや“ドラッギー”とも言える、湯浅政明監督の個性が溢れかえっている映像表現は本作でも絶好調。設定や物語にどれだけ名作アニメと似ているところがあろうとも、本作は「湯浅政明監督にしかできない」と断言できるオリジナリティがあることがすごいのです!
また、本作は少年少女たちの成長物語、親子愛、男女愛、伝承からもたらされる諫言、地域振興などの多数のテーマを扱っているためか、同時進行でそれぞれの視点を進行させたり、多くを説明せずに“省略”しているようなところがあります。
つまりは、観客それぞれが想像や推測で補完しなければいけないところがあるのですが、それこそに映画ならではの“さまざまな解釈が思い浮かぶ”という面白さがあるのです(これも『ポニョ』と同じ)!
主題歌の斉藤和義の「歌うたいのバラッド」、および挿入歌のYUIの「fight」が物語に絶妙にマッチしており、これもまた唯一無二の感動を届けてくれました。映画を観終わった後に、その歌詞を反芻すると……新たな感動があるかもしれませんよ。
斉藤和義「歌うたいのバラッド」
YUI「fight」
おまけその1:『夜は歩けよ短し乙女』と合わせて観て欲しい!
(C)森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会
本作『ルー』の興行成績は、残念ながら芳しくはないようです。わずか1ヶ月前に公開された同じく湯浅政明監督作『夜は短し歩けよ乙女』は、主人公の声を担当した星野源や、原作小説のファンにもささる内容であったのでスマッシュヒットをしていたのですが……やはり、オリジナル作品をヒットさせることの難しさを感じさせます。
実は『ルー』は『夜は短し歩けよ乙女』よりも先に完成していたそうなのですが、公開される順番はその逆になっています。それは「まずは知名度の高い原作やキャストを目当てに劇場に足を運んでもらってから、続いて公開される湯浅監督のオリジナル作品にも興味を持ってほしい」という戦略でもあるのでしょう。
“監督の個性を知ってから新しい作品を観る”ことができるこのマーケティングを、筆者は全力で応援します。「『夜は短し歩けよ乙女』を観ても、『ルー』はまだ観ていない」という人が多くいらっしゃるのは余りにもったいない!お早めに劇場に駆けつけてください(上映回数が少なくなっているので)!
なお、『ルー』の脚本は『猫の恩返し』や『映画 聲の形』の吉田玲子が参加しています。膨大な設定をまとめあげ、序盤から張り巡らされた伏線を見事に回収できているのは、吉田さんの功績によるものに違いありません。
声優や出演俳優目当てに作品を選ぶことももちろん良いのですが、個人的にはこうした監督や脚本、はたまた撮影や編集といったスタッフに、もっとスポットライトが当たることを願っています。
おまけその2:「好き」を大切にしたくなる作品だった!
以上に掲げたように、本作『ルー』は『崖の上のポニョ』、『河童のクゥと夏休み』、『ファンタジア』または初期ディズニー作品、『君の名は。』、『パンダコパンダ』といった名作アニメ映画をほうふつとさせながらも、オリジナリティに溢れた作品になっています。
(C)2017ルー製作委員会
これだけ既存の作品との類似性がみられるのに、まったくもって“パクり”などと批判する気にならないのは、スクリーンからそれらの作品への敬愛がしっかり感じられるからでしょう。
また、本作『ルー』で描きたかったテーマについて、湯浅監督は「自分が感じた“好き”は、言い訳なしで“好き”と言っていいはず」などと語っています。
劇中で主人公の少年が今いる環境を嫌ってしまったり、はたまたルーが「好き!」と素直に気持ちを表現することなどに、そのテーマがしっかり表れていました。
この「好きなものは好きと言っていい」というのは、作品のテーマだけでなく、湯浅監督が過去の名作アニメ作品を敬愛し、その影響がしっかり劇中に表れていることともシンクロしています。
物語どころか作り手にまで、好きなものを好きだと素直に肯定するという気持ちに溢れているのは、なんと気持ちのいいことでしょうか!
『ルー』を観れば、きっとためらうことなく、好きな作品や、好きな人について、「好き!」という気持ちを声に出して言うことができるでしょう。子どもからオトナまで、はっと気付かされ、笑って泣ける『ルー』をぜひおすすめします!
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(文:ヒナタカ)
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